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残酷なシーンや性描写が入りますのでご注意下さい。


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今日は、ライール様が三人の貴族達を連れて来た。


その三人の貴族達を癒やし終えた私は、ライール様達に最低限の挨拶だけをして早々にその部屋を出た。

向かった先は誰も居ないひっそりとした邸の裏手……。


「……っ!」

私は邸裏の壁にもたれ掛かるようにしてその場にしゃがみ込みながら、酷く痛む胸元を押さえた。

最近は力を使い過ぎると、こうして胸が痛むのだ。


下女が絞る雑巾の様に、心臓がギリギリと捻られ、絞られている様な痛みだ。

まるで身体が最期の警告をしてくれているみたいだと……苦痛に耐えながら私は口元を歪めた。


今朝もルーチェ様は私の事を心配してくれていた。

なのに私は今日もルーチェ様の好意を一方的にはね除けた……。


……私はバカな女だ。

ルーチェ様に助けを求めれば、安全な場所に行けるのが分かっているというのに……そうしようとはしなかった。

こんなバカな女には、一人で寂しく死んでいく末路が似合っている…………。


そんな時。

「リリー?僕の白百合リリーはどこだい?」

愛しいライール様の私を呼ぶ声が聞こえた。


……ライール様が探しに来てくれた……!

こんなに嬉しい事はない。


「……ライー……っ!?」

ライール様の元に駆け寄ろうとした私は、口元に違和感を覚えた瞬間……そのまま意識を失った。



****


「……ここ……は?」

意識を取り戻した私は、自分の置かれている状況を理解するまでに暫しの時間を要した。


先程からずっと身体中が痛むのは、床に転がっているせいだと気付いたが、手足はそれぞれに縛られていて自由に動かす事が出来ない。


どうして私はこんな事に……?

部屋の中に視線を巡らせた私は、ギクリと身体を強張らせた。


「ふふふっ。やっとお目覚めかしら?神子様?」

「……あなた様は……」



金色の絹糸の様な髪を豪奢に縦に巻いた青い瞳のキレイなこの人は……


「メリル様……?」

声の主は『メリル・カーナリア公爵令嬢』だった。


私の『癒やしの力』を受けて醜い火傷の跡を消す事が出来た人。そして、ライール様の婚約者である。


そんなメリル様が……どうして?


メリル様は真っ赤な革張りの高級そうなソファーにゆったりと座りながら優雅にお茶を飲んでいた。

床に転がる私を虫ケラでも見る様な眼差しで見下ろしながら。


「この状況が不思議?そんな顔をしているわね」

口元を歪めながら瞳を細めるメリル様。


「それならば教えてさしあげるわ。わたくしはあなたが目障りで邪魔なの」

メリル様の瞳からは、強い殺気と憎しみの混じった黒い負の気配を感じた。


「あの方は……。わたくしのライール様なのに……! どうしてお前なんかが大事にされているのを我慢して見ていなければならないのかしら?……ええ、そうよ。公爵令嬢であるこの私がよ!?」

眉間にシワを寄せながら瞳をつり上げ、ギリッと歯を噛み締めたメリル様は、ふっと表情を消して……。


「だから、もう良いわよね?」

テーブルにあったポットを私の上で傾けた――――


「……え?…………あ゛ーーーーっ!!」

避ける事も出来ずにそのまま顔面に熱を受けた私は、叫び声を上げながらゴロゴロと床を転がった。


カップに注がれた紅茶は適温になるが、覚めないようにカバーの付いたポットのお湯は私が悲鳴を上げる位にはまだまだ熱かった。


熱い!……顔が焼けるように痛い!!

痛い……痛い……!!


手足を縛られている私には顔を覆う事も出来ず、身体を丸めながら痛みを堪える事しか出来ない。


「ふふっ。良い様ね。虫ケラにはお似合いだわ」

そんな私を冷酷な微笑みを浮かべながら見下ろすメリル様は、私の顔をめがけて更にポットを傾けた。


「あ゛あぁぁ……!!」

更に頬が焼かれる様な熱を感じた私は、悲鳴を上げながら彼の人の名前を呼んで助けを求めようとした。


「た、助けて……!……ライー」

「お前なんかにあの人の名前は言わせないわよ?」

ガッと口元を先の尖った靴で思い切り蹴られた。


「……っ!!」

「ああ、……汚い。汚らわしい!!」

そのまま何度も何度も尖ったヒールに腹部が勢いよく蹴られる。


「ぐっ……!!ふっ!かはっ!!」

「汚い!汚い!……汚い!!お前なんて今すぐに消えなさい!!」


どうして……私は助けたはずの……救った人にこんな事をされているんだろう……。


繰り返される激しい暴行で、私は生まれて初めて血を吐いた。

何度も蹴られて、痛みを与えられている内に頭の中がぼんやりとしてきた。


どうして……どうして……? 私が何をしたというの?

私はライール様のお役に立ちたかっただけなのに。

こんな事をしなくても私はもう直ぐ消えるのに……。

あなたはライール様との未来があるのに、どうして私の邪魔をするの?


「お嬢様、そのくらいになさって下さい。後はこちらで……」

「分かったわ。二度とライール様に会えない様にボロボロにしてやって頂戴」

「かしこまりました」

ぼんやりとしながら視線を動かすと、メリル様の側に控えた男が静かに頷いたのが見えた。


こちらを見た男と目が合った瞬間――――

「……っ!?」

ぼんやりとしていた頭の中が、一瞬で元に戻った。


……男はとても仄暗い瞳をしていた。

メリル様なんて可愛いものだった。全身が震えるほどの恐怖に支配される。


怖い……怖い……怖い。

逃げたいと思うのに、暴行を受け続けた身体はまともに動かす事が出来ない。


「い……いや……嫌……」

抵抗の声はか細く……助けを求める声すら上げられない。


どうして……どうして……こんな……!


まともに抵抗する事が出来ない私が、男に引き摺られる様にして無理矢理に連れて来られた先は、薄暗い地下室だった。


「へえー、本当に俺らがやっちゃって良いんすか?」

「ああ。顔は……醜いが気にするな。好きにしろ」

たくさんの男達が飢えた瞳で私を見ている。


「へっへっへ。女だったら何でも良いっすよ」

舌舐めずりをする男達の前に私を突き出した男は、怯えながら身を縮める私の腕を掴んで注射器の様な物を取り出した。


「嫌……嫌……!…………っ!!」


チクッとした痛みの後に訪れたのは―――――。




***


「こ、これは…………!?」


酷く驚いた様な…………懐かしい声が聞こえた。

この声は私の愛した…………


「申し訳ございません!……私の手の者が見つけた時には……」

「いえ!いや!!……っ!!あなたがを見てはいけない!!」

「ライール様……!」



涙が一筋こぼれた。



***


目覚めた私は知らないベットの上にいた。

ここは見慣れたハインリヒ家ではない……。


ベットの傍らには、私を気遣ってくれる様な……蔑んだ様な……複雑な色を浮かべた女性が立っていた。


その瞬間に私は―――――全てを……思い出したくもない全ての事を思い出してしまった。



あの日、ライール様の婚約者であるメリル様から暴行を受けた私は、メリル様の側近らしき男の手により薬を打たれ……あの日から沢山の男達の慰み者にされた。


……嫌なのに。……心は引き裂かれるように痛むのに、薬によって身体も……心さえも蹂躙され続けた。


その日々もライール様の助けによって終わるのかと思われたが…………

ライール様は汚れた私に近寄りもせず……

私を気遣う事すらなく………………メリル様を選んだのだ。


私は呆気なく捨てられた。

そう……道ばたに転がる石のように簡単に捨てられた。


分かってた。……分かっていたよ?

ライール様が私を選ぶつもりなんてなかった事くらい…………。

でも……少し位は気にして欲しかった。

『どうしてこんな事になったのだ?』と。


結局、私はあの人の駒の一部でしなかった。

汚れて使い物にならなくなったら簡単に使い捨てられる駒。

……それでも良いと思っていた。

そう。それでも良いと思っていた。


だけど……私が選ぼうとしたのはこんな未来じゃなかった!

私はライール様とメリル様の未来を祝福しながら消えるつもりだった!!

なのに……! なのに……!! どうして…………!!!


「くっ……」

「……神子様?」

「くっ…………!あはははっ……!!」


ねえ?……私がこんな目に合わされたというのに……。

あの人達………………あいつらは、どうして幸せそうに笑っていられるの?

ねえ? どうして?


どうして?どうして?どうして?どうして……!!!?


どうして……簡単に切り捨てられるの…………!!?


あんなに頑張ったのに……。

力を使う度に胸が痛かった。このまま死んでしまうんじゃないかっていう位に痛かった。

なのに…………!


「あははははっ!!」

「だ、誰か!!神子様がご乱心なされたわ……!!」

控えていた女性が血相を変えて部屋を飛び出して行った。


汚い、汚い、汚い、汚い…………!!

私の心も体も真っ黒に穢れてしまった。

……もう、元には戻れない。


でも……もう良い。こんな世界……守る価値なんてない。いっそこのまま滅んでしまえば良い。

みんな嫌いだ!!……大嫌いだ!!!!!!!




ルーチェ様……すみません。

バカな私が選んだ選択だけど……こんな事になるはずじゃなかったんです。

私は……私がしたかったのはこんな事じゃなかった!


でも、私は……! 私は……もうこの感情を抑える事が出来ない。



私は自分の身体を抱き締めながら……腕に爪を立てた。

「…………ひっ!」


爪を立てた場所から血が流れたがそれは真っ赤な血なんかではなく……黒……い血?


汚い、汚い、汚い、汚い!!!!!!!


この身体に流れる血の一滴さえもが汚らしい…………!


引っ掻いた手から流れた血を見ながら口元を歪めた。


私は……この世界が大嫌いだ……!!

私に優しくなかったこの世界が大嫌いだ!!!


ライール様も……メリル様も………………!!

みんな、みんな、みんな、みんな!!!!!

大嫌い………………!!!!!!


こんな穢れきった世界なんて…………滅んでしまえ…………!

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