39

「ん……。ママ?」

集団お見合いを終えた次の日。

朝食を終えた私が自分の部屋に戻ると、ベットから起き上がったルーカが瞼を擦っていた。ルーカは自分で言った通りに、数日間眠り続けていたのだ。


「おはよう。ルーカ」

私はルーカの元に寄って、そのモフモフの身体をギュッと抱き締めた。


……幸せだー。何という幸せ。こんなに幸せな事があって良いのか!!

モフ……モフモフモフ……。

私はそのモフモフに顔を埋めながら瞼を閉じた…………。


「マーマ!」

すると、ペチンとルーカに顔面を叩かれた。


「痛っ……。あのー、ルーカさん……?」

私は叩かれた顔を押さえた。

顔面って急所なんですが……ルーカさん。

ママはこのままルーカのモフモフに包まれながら、もう一眠りしたかったのに……。


「調べたいことあるんでしょう?」

プウッと頬を膨らませるルーカ。


……そうでした。そうだよね。

私はハッとした。

集団お見合いだーとか何だとかで、すっかり忘れ去ってしまっていた。


ルーカからバッチリ正論を返されて全てを思い出した。


「……はい。ごめんなさい」

私はベットの上で正座をしながらルーカに向かって素直に頭を下げた。


私が調べたい事は、四代目の神子と記憶に残らない女性の事。

そして、この二人の関係性や因果関係だ。


「えーと、どうしよう?図書館に……行く?」

この国の五大神官の内の一人である敬虔な変態のクラウディスは、図書館には四代目神子の手がかりは何も残っていないと言っていた。

だけど、他には思い付く場所がない。

クラウディスに聞きに行くのは……ちょっと勘弁して欲しい。

ルーカも一緒にいるから、騒々しさが増しそうだ。


「うん。そこでいいよ」

「良いんだ……?」

ルーカがあまりにも簡単に、あっさりと言うものだから……私は思わずポカンと口を開けてしまった。


ルーカを信じていないわけでは決してない。

しかし、ルーカは神によって作られたばかりの……生まれたばかりの守るべき存在なのだ。

しかし、神は……『ルーカに聞け』と言う。


ルーカは自らが口にする事が出来ない神の代弁者なのかもしれない。

それならば、ルーカの言う通りにしてみよう……。



****


と、いう事で図書室にやって来た私とルーカ。


「いらっしゃいませ」

そんな私達を迎えてくれたのは、ツヴァイさんと無事に婚約をしたアイリーンさんである。幸せオーラが身体中から溢れている……。

くっ……。リア充め……!!この複雑な気持ちはツヴァイさんで晴らしてやるんだから……!!(オイ!)


なーんて、冗談はおいとこう。

一度ボケなければ気が済まない私も大概だ……。


「資料室お借りしまーす」

私は手に持っていた資料室の鍵をアイリーンさんに見せた。


「はい。畏まりました。何かありましたらお申し付け下さい」

「ありがとうございます!」

ニッコリと微笑むアイリーンさんに手を振りながら、奥にある資料室の方へ向かった。

ガチャリと鍵を開けて中に入ると、古い紙と濃いインクの匂いがした。


「ねえ、ルーカ。四代目神子関係の資料とかどこにある?知ってる?」

前回、クラウディスと一緒に半分は私自身の目で確認をしてある。

確認していないのはもう半分あるが……見つかる気がしない。

なので、早々に白旗を上げてルーカに協力を要請してみた。


「うん。ココにあるよー」

「え?!あるの!?」

ルーカに振ったのは自分だが……こんなにあっさりと返事がくるとは……。


「因みにどこに……?」

「えーと、あそこー」

「……あそこ?」

ルーカの見る方を辿った私は、天上を見たままで固まった。

ルーカがジーッと見ているのは天上なのである。


私にはただの『最後の晩餐』に似た絵柄の天上にしか見えないが、まさか隠し扉がそこに……?


「ルーカ?どこ?ちゃんと教えて」

「ママ、見えない?あのテーブルの上にある黄色いお花の所」


……黄色い花?

ルーカが言っているのは黄色の百合の事だろう。

こんな宗教画の様な場面で黄色の百合とか珍しいな。

描かれるならばもっと薔薇とか、百合は百合でも白色じゃ…………。


……ってちょっと待って。

黄色の百合の花言葉って……何だっけ?

百合は確か色で違った花言葉を持っていたはずだ。

白い百合は確か……『純粋』とか『無垢』。

だから結婚式の花としても使用されていたんだ。

赤い百合は『虚栄心』で、黄色の百合は…………そう『偽り』だ。

偽り?偽りの黄色い百合の絵に何が……?


私は、天上をめがけて羽を動かした。


天上近くまで飛び上がると、下で見ていたのとは違う絵柄に変化をしていた。

今、私の目の前に描かれている場面は……『断罪』だ。

これは……空間が歪められている?

それでも、黄色い百合は変わらずにその場面にも描かれていた。


私は、その黄色の百合の絵に向かって手を伸ばしてみた。

すると……。

「ルーカ!ここに、扉みたいのがあるよ!」

絵の部分に他には無い段差の様な物を見つける事が出来た。


「ママ。それを開けて」

「ええと……これを開いたら、中にある物が落ちて来たりしない?」

「うん。大丈夫だから、開けて」

ルーカには『大丈夫』と言われたが、私はそーっと慎重にその扉を開いてみた。


「へっ……?」

目が点になった。


一冊の分厚い本が、まるで重力など存在していないかの様に、プカプカとその空間内に浮いていたからだ。


私がその浮いている本に手を伸ばすと、バチンと静電気の様な何かにその手を弾かれてしまった。

……恐らくは結界が張られているのだろう。


一体誰が……?

私が思い当たるのは『神』だけだ。


何の確証があるわけでもないが、私はこれは神の仕業だと悟った。


四代目の神子に色々な意味で触れる事が出来ない神が、自分を含めて誰にも触られる事の無い様に、隠した。


……何の為に?

それは正直分からない。


だって、私はこの世界にも、この世界の神達の事もまだほとんど分かっていないのだから…………。

だから、取り敢えずは目の前に浮かぶ本の結界を解いて、その中身を読む。

話は多分それからだ。


私はスーッと大きく息を吸い込んだ。

触れただけとはいえ、聖獣わたしの力を弾いたのだ。

少し気合いを入れなければならない。


私は結界に向かって、自身を『融合』させる様な感覚で触れた。

パチンと軽く弾かれた感じはするが、先程までの様な強い感覚ではない。

私はそこから更に『融合』の感覚を高めた。

そうして少しずつ中に侵入していくと、まるで指先がぬるま湯に浸かっている様な感覚に変化した。


……入った!!

私は一気に『万能』の力を流し込んで、結界の内側から魔力を爆発させた。


……やった……のかな?

恐る恐る本をつつくと、フッと本が重力を取り戻して一気に急降下した。


……なっ!!

慌てた私は本を追い掛けた。床に落ちるギリギリの所で無事にキャッチした。


……こうなるならば、前もって言っておいて欲しい……。

心臓に悪すぎるよ!!


床に降りた私は、ガックリと肩を落とした。


「ママ……大丈夫?」

ルーカが私の元に近付いて来る。


「うん。少し驚いたけど……もう大丈夫だよ」

私はルーカの頭をゆっくりと撫でた。


「この本に私の知りたい事が書いてあるのかな?」

「うん。四代目神子の事はここに全部書いてあるって」

「神様がそう言ったの?」

「そうだよ」


……神め。

話せずとも、この部屋に四代目の本がある事を、ジェスチャーでもなんでも良いからあの時に教えてくれたら……。


「ルーカ。この本はここで読んだ方が良いのかな?」

「んーん。持って行っても大丈夫だよ」

「そっか。じゃあ、部屋に戻ってゆっくり見ようかな」

「分かったー!そうしようー」


私とルーカは、二人分の昼食を厨房で用意して貰ってから部屋へと戻って行った。

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