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私が作り上げたこのお化け屋敷だが、どうしてもクリアが不可能な人の為に、緊急脱出ボタンを設置してある。ボタンを押すと、外への出口が出現する仕様だ。


私は、どうやらとんでもなく怖い物を作り出した様で……。

緊急の出口から脱出して来るペアが殆どだった。

真っ青になったまま何も話せないペアや、完全に気を失った令嬢がいるペア。

なんと……令嬢にお姫様抱っこされて戻って来た騎士もいた。

可哀想に……。彼はこの先ずっと、この話題をネタにされ続ける事だろう。

何と言えば良いのか……うーん……。強く生きて……!!


お化け屋敷に免疫のないこの世界の住人だからこそ、より恐怖を感じたのかもしれない。慣れていても怖い物は怖いしね……。


二十ペアほど中に送り込んだが、現在までこの中に残っているのはアインさんとミアさんペア。ドライさんと伯爵令嬢のソフィアさんのペアと、最後の一組は……。


『わあー!』という歓声に迎えられながら戻って来たのは、ドライさんとソフィアさんのペアだった。


「お帰りなさーい」

私はパタパタと羽を羽ばたかせながら二人を出迎えた。


「ミーガルド様……」

もの凄ーく、物言いたげな視線を向けてくるドライさんとは違い……


「ミーガルド様!とっても楽しかったですわ!」

キラキラと瞳を輝かせているソフィアさん。


「……怖くなかったのですか?」

「ええ!全然!」

「……全然?」

「はい。全く!」

……凄いな!関心するわ!!

だって、二十組中三組しか残らなかったんだよ!?

それ程までに怖いと知らしめたお化け屋敷が怖くなかっただと!?

自分で作っておいてなんだが……私は絶対に入りたくないし、どんな好条件を出されたとしても入らない!!

こんな女性が奥さんだったら頼もしいんじゃ……?

チラッとドライさんを見ると、ドライさんは静かに首を縦に振った。


……ですよねぇ。

そうなのだ。ソフィアさんはゆるふわ系のとても可愛い人なのだ。

怖い物が苦手だったらしいドライさんが根性で最後まで頑張ってしまう程に……。


まあ……好きになっちゃったのなら仕方ないよね?


「ドライ様!またわたくし挑戦したいですわ!」

「え?!……あ、はい」

……頑張れ。

このまま上手く行くようならば、神に押し付けようとしていたこのお化け屋敷をご祝儀代わりにプレゼントしてあげよう!

お化け屋敷入り放題だよ!!

なんなら、ソフィアさん好みにカスタマイズが出来る様に……ってこれは要らない?……それは残念。


「逝ってらっしゃいませ」

「ミーガルド様!?それ!じ、字が違う……!!」

慌てるドライさんの手をしっかりと掴んだソフィアさんは、ニコニコと笑いながらお化け屋敷の入口へドライさんを引き摺って行く。

私はそんな二人の背後に向かって合掌した。

……ドライさん。どうぞ安らかに眠って下さい。あなたの骨は拾ってあげましょう。



ドライさんとソフィアさんの姿が建物の中に入って行くのと同時に、また中から一組のペアが帰還した。


「アインさん!ミアさん!」

私は二人の方に駆け寄った。


二人共憔悴しきった様な顔をしてはいるが…………

繋がれた手はしっかりと握られたままだった。


「……やっと出られた」

「はい……。アイン様のおかげです……」

「いや、ミアさんが一緒じゃなかったら多分無理だった」

「そんな……私なんて……!」

「謙遜しないでくれ。ありがとう……ミア」

「アイン様……!!」

二人はお互いを見つめ合ったままである。


つまりは、私の事はまるっと無視状態なのだ。

……良いけどね。別に。


アインさんとミアさんペアは、私の思惑通りに『吊り橋効果』が発揮されたという事だ。二人の中の進展を願った私としては、二人から無視されたとしても結果オーライな望み通りの展開なので、いじけたりしないよ!?


「あ、お化け」

「なっ……!?」

「ひぃ……っ!?」

意地悪はするけどね。


「「ミーガルド様……!!」」

「はははっ。二人の世界に入り込んでたからね。進展おめでとうございます」

「「…………っ!!」」

「お節介な聖獣は退散しますので、お好きにイチャついて下さいねー」

私は、はいはいと片手を上げながらその場から脱出した。


人の恋路を邪魔するヤツは……である。

私は馬に蹴られて死にたくはない。早々に退散するに限る。


そう言えば、これでお姉様三人組はあの会を卒業出来るのか……。

少しの付き合いだったけど、色々あったな……。

私が思い出すのは主にお仕置きの最中の場面である。

それもこれも今では良い思い出である。

『玉砕上等!』

ゴールまではまだまだ先だが……頑張れ!


そう思いながら頬を弛ませると…………

最後のペアが戻って来た。



「お帰りなさーい!お疲れ様でした。大丈夫……でした……か?」

最後のペアの出迎えに向かった私は、そのままその場に固まってしまった。


……え?

「ヨハネス様とコーネリア様!?」

思いがけない二人の姿に私は唖然、呆然である。


どうしてこうなった!?

……というよりも、いつの間に!?


「『お化け屋敷』楽しかったぞ」

「ええ。これは夫婦のマンネリ解消にも役立つわよ!」

楽しそうで、嬉しそうな国王夫妻。

……全然気付かなかった。


ジルの方にジト目を向けると、楽しそうな瞳を返された。

……知っていたんだな?

私は更に瞳を細めた。


「まあまあ。ジルフォードに口止めしたのは私達だ」

「ええそうよ。楽しそうで……つい。唯、ごめんなさいね?」

「いえ、お二人に楽しんで貰えるならそれでも構いませんが、どうして私に秘密だったのですか?」

私は、二人にもジト目を向けた。

ほぼ毎日、晩酌という名の杯を交わしているのだから、私に位話してくれたって良かったのに!!


「いやー、驚かせたくてな?」

「ふふっ。驚いたしょう?」

男装の麗人たるコーネリア様にそんな風に微笑まれたら……簡単に許してしまいそうになるじゃないか!!

くー!!イケメンはこれだから……。

私は頬をプーッと膨らませた。


「悪かった!今日は一押しの酒を用意してあるから機嫌を治してくれ」

お、お酒なんかじゃ、つ、釣られないんだから?!

「今日は凄いのよ?」

「え?……『凄い』とは?」

息を潜めたコーネリア様が私の耳元に唇を寄せ…………


「幻の銘酒『アンダンテ』よ」

『アンダンテ』だって……!?

私の目が一気に覚めた。

幻の銘酒……しかも『アンダンテ』……!

……そんなのはもう飲むしかないでしょう!!

私は国王夫妻の手の上にいとも簡単に転がされてしまった。


わーい!これにて私の本日のお仕事は終了!!


「ヨハネス様、コーネリア様。さあ飲みに行きましょう!アインさん、後はジルとよろしくーー!」

「ミーガルド様……!?」

「唯……!?」 

私は唖然とするアインさんやジルを放って、国王夫妻の真ん中に立ち、仲良く川の字で歩きながら王城に戻って行った。



*****


……後日談である。


私が国王夫妻と楽しく飲んでいる最中に、次々とカップルが誕生したらしい。

アインさんとミアさんは勿論、ドライさんとソフィアさん。


それに……令嬢にお姫様抱っこをされて戻って来た騎士の……ライルさん。

彼等を始めとした……ジルに行かなかった令嬢とペアを組んだ騎士達は、全員見事にカップル成立となった様だ。

……これって凄くない!?

しかし……そもそも彼等は筋肉にかまけなければ、この国で人気のある騎士団なのだ。この結果はそれを物語っているんじゃ…………。


……終わりよければ全て良し!

私はもう気にしない!


因みに回収されたお化け屋敷は、ソフィアさんにプレゼントしました!

これで刺激のある夫婦生活を送ってね!!!

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