28

黙ったままニコニコと微笑んでいるクラウディス。


……その微笑み方が問題だ。

何が問題って、こう……フェロモン全開……みたいな?

漫画で表現するならば、背後に大輪の薔薇を背負っている状態?

微笑みだけで人を堕落させる様な妖しさがある。

現に、お店の中に居る女性は勿論の事、男性までが頬を赤らめながらクラウディスを見つめているではないか……。

先程の女性店員さんも例外なく真っ赤な顔をして見惚れている。


「……お前がいるから今日は誘惑モードになったのか……」

「何それ……全然嬉しくないんだけど」

ボソッと呟いたシーカをジロリと睨み付けた。


「お?……流石に聖獣だからか?あいつに誘惑されないヤツ初めて見たぞ」

「それはシーカもじゃない?」

「俺は慣れてるからな……」

遠い目をするシーカ。


『誘惑モード』って……実はクラウディスはかなりの女ったらしだったりでもするのだろうか?

神大好きな変態の女ったらし……最悪だな。なまじ顔が良いだけに質が悪い。


「ご……誤解すんなよ?アイツに女がいた試しはないからな?」

シーカが慌て出す程に、私は明らかな軽蔑の眼差しを浮かべてしまっていたらしい。クラウディスがこうなる原因や状況等々、思い付く限り言葉にして庇おうとしている。

……正直、私はクラウディスに恋愛感情を持っている訳ではないので、『そうなんだ』とは思うが、特に心には響かなかった。


それよりも……

「シーカはクラウディスが大好きなんだね」

そんな感想を持った。


「はあ!?お前、俺の話を聞いていたか?!俺が何の為にここまで話しているか……」

「分かっているよ。シーカは私にクラウディスさんが誤解されない様に必死でフォローしてくれているんだよね」

「だったら……!」

「うん。だからだよ」


仮にクラウディスを見放しているのだとしたら、ここまでしないだろうし。


「……それにしても、なんか他人事だな?唯がいるからこうなっているのに」

シーカは周りを見渡しながら苦笑いを浮かべた。


「はあっ!?失礼な言い方しないで!」

この状況を私のせいにされても困る!!

私が何かをした訳じゃない。クラウディスの体質?のせいだ。


「クラウディスさんがこうなったのはの私のせいでしょ?それも分かってるよ」

「……いや、がいるからだ」

「だから聖獣わたしのせいでしょ?」

「そうなんだが、ニュアンスが違う気がする」

私は首を横に傾げた。

シーカの言っている意味が分からない。


クラウディスは神達が大好きで、聖なる獣である聖獣も勿論好きである。

私から言わせれば、それは私の外側の問題で中身ではない。

つまり、クラウディスはの事は何とも思っていない。

外側だけ好かれているのだ。

こんな状態だからこそ、他人事でいられるのだ。

『だって私の事なんか好きじゃない』

……決して拗ねているわけではないよ?

そりゃあ……ジルとかミーシャ姫にそう思われていたら、悲しいし、寂しい。


でもクラウディスだから。『何とも思わない』が正解。


「アイツも不憫だな……」

「ん?何か言った?」

シーカの声が小さすぎて聞こえなかった。


「いーや。何でもない。それより肴もちゃんと食えよ。胃がやられるぞ」

シーカがチーズの揚げた物やサラダを取り分けてくれた。


お母さんか!!(二回目)

っていうか……取り分けるのって女子の役目??

いやいや、そんなのは古い。今は男子が進んでやってこそ、男女平等といえるだろう!!壊滅的に給仕が下手な人は除く。


あー……でも、おかん的な男子は良いな……。

癒やされる……。


むぐっ!…………もぐもぐ。

肴を食べずにお酒を飲んだら、口の中にチーズを突っ込まれた。


ちょ……っ!!美味しいじゃない!これ!!

トローリサクサクの食感はお酒にまた良く合う。

幸せだ…………。

うっとりとしていたら、また口の中に押し込まれた。


もぐもぐ……もぐもぐ……。うまうま。



「クスクス……」

……ん?

可愛らしい笑い声のした方を見ると、知らない女の人がこちらを見て笑っていた。


「笑ったりして、すみません。楽しそうだったので……つい」

ペロッと舌を出したその女性は……何というか、あざとそうな人だった。


「いや、良いんすよ」

シーカめ……。デレデレとしながら頭を掻きやがって。

確かに妖艶な雰囲気の美人さんだから、シーカがそうなるのも分かる。

だけど……なんか面白くない。

私は憮然とした表情を出さない様にしながら、お酒を呷った。


目の前の綺麗な女性を『あざとそう』と思ったのは、多分私の僻みだ。

中身は妙齢の女性なのに、今の外見は子猫の様な私。

確かに、元の姿に戻ったとしても平々凡々な容姿だけどさ…………。


意気投合した様に楽しく話し出した二人を見るのが辛くなった私は、フイッと視線を逸らした。

別にシーカの事が好きな訳じゃない。ヤキモチなんかじゃない……。

の姿を突き付けられた様な気分になったのだ。


グラスに入っていた残りのお酒を一気に飲み干した時。


「ミーガルド様」


……え?!

今まで微笑んでいただけだったはずのクラウディスに、強引に手を掴まれ……そのまま抱き上げられた。


小さな猫の姿の私の身体は、あっという間にクラウディスの腕の中に収まってしまった。


そして……

「おい!クラウディス!?」

ギョッとしながら驚きの声を上げたシーカの制止を振り切り、店の外に出た。

そのまま、店の外に出てもクラウディスの歩みは止まらずに、どんどん先に進んで行ってしまう。


「クラウディスさん?」

私が呼び掛けてもクラウディスは静かに笑うだけだった。


そうして酔っているはずのクラウディスの腕から逃れる事も出来ずに辿り着いたのは…………。


「……神殿?」

そう。神殿だった。

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