25
「ミーガルド様……昨日は大変ご迷惑を……」
「いえいえ!気にしないで下さい!!」
私は朝一番で医務室を訪れたのだが……。
医務室のドアを開けた瞬間に、私に気付いたリーリアさんに頭を下げられてしまったのだ。
「でも……」
「大丈夫ですよー。それよりも体調はどうですか?」
押し問答になりそうだったので、私は強引に話を切り替えた。
私はリーリアさんに謝って欲しいなんてちっとも思っていないのだ。
……それよりも彼女の体調の方が気になる。
申し訳なさそうに眉を寄せるリーリアさんは昨日と違って、顔色もしっかりしているし、痛み等も無いようだ。
「それはもう。ミーガルド様のお陰でいつも通りです」
「それなら良かった。……ダニエルさんから何か話は聞きましたか?」
話……というのは、ダニエルさんがぶつかった不思議な女性の事だ。
この女性のせいでリーリアさんが苦しんだと私は直感している。
それをリーリアさんに話すか、話さないかは旦那さんのダニエルさんに任せたのだ……。
「ええ。主人から話は聞きました。こんな不思議な事……あるんですね」
神妙に頷くリーリアさん。
ダニエルさんはしっかりと説明してくれたのだそうだ。
……何も知らない方が良いと思うかもしれない。
でも、私は知っている上で警戒をしていた方が安全だと思う。
どうやらダニエルさんも私の考えと同じだったみたいだ。
知らせないつもりなら、それはそれできちんと守るけどね!
「ただ……相手の目的が分からないのです。ダニエルさんに対しての悪意だったのか、そうではなく無差別に悪意を巻き散らかしたいのか……。現状では何も分かりません」
「はい。主人もミーガルド様と同じ事を言ってました……」
「今回は大丈夫だったかもしれない。だけど次は……なんて結末は嫌です」
「ミーガルド様?」
「……目の前の……手の届く人達は絶対に守りたい。と、いう事で……これを」
私はポケットの中を探って、ペンダントを取り出した。
「これは……?」
ペンダントを受け取ったリーリアさんが小さく首を傾げる。
「これは私の毛を加工して作ったお守りみたいな物です」
以前、ミーシャ姫には私の毛の入ったロケット型のペンダントを渡したが、今回はちょっと変えてみた。私のモフ毛をギュッと圧縮して薄い黄色の宝石の様にしてあるのだ。それをペンダントに加工した新作である。
ミーシャ姫にものちのちに改良版を渡そうとは思うが……なんせ材料は私のモフ毛。そんなにいっぱい刈ったら禿げてしまうぅーーー!
取り敢えずは、リーリアさんに。ジルやダニエルさん達にも配る予定だ。
男性陣には、身に付けてもそんなに目立たず、警戒されにくい物にした。
「何かあったらコレに呼び掛けて下さい。私が直ぐに飛んできます!!『悪いな……』とか、気を使わなくて良いですからね?あ、お茶のお誘いも大歓迎です!」
片目を瞑っておちゃらけた風に言うと、一瞬瞳を丸くしたリーリアさんが直ぐに吹き出した。
「ふふっ。ありがとうございます」
クスクスと笑うリーリアさんを見ていたら、少し気分が晴れた。
……得体の知れない存在にずっとモヤモヤしているのだ。
「無理は絶対せずに周りを頼る事!!良いですか?約束ですよ?」
「分かりました」
「本当に分かっていますか?もし、約束を破ったら……ダニエルさんに最高級なお酒を買わせちゃいますからね!?」
「……まあ。ふふっ。分かりました。約束しますね」
「宜しい!!じゃあ、また来ますね」
私がずっとお邪魔していたら、リーリアさんは休めない。
なので、私は早々に退室する事にした。
ダニエルさんのお仕事が終わったら迎えに来てくれるそうだから、それまでは安静にしていないとね。
リーリアさんに向かって手を振りながら医務室を出ると……。
「唯」
ジルがドアの外に立っていた。
「ジル?」
「少し話せるか?」
「うん、良いよー」
歩き出したジルの隣に、飛びながら並んだ。
「……何か変な事に首を突っ込んでないか?」
「へっ?」
てっきりルーカの事を聞かれると思った私は、予想外な質問にキョトンとしてしまった。
「その顔は……?」
「あー、えーと……考えていた事とは違う事を聞かれたから驚いている顔!!」
「……ああ、唯の部屋に居たアレの事か?」
「そうそう。『後で』のままだったから。因みに、ルーカは神様の造った幻獣だよ」
「……ちょっと待ってくれ。るーかは……神の造った……げんじゅう?」
立ち止まったジルは酷く困惑した顔をしながら、私に向かって右手を突き付けた。
『ストップ』という事だろう。
「そう。神様の造ったカーバンクルっていう幻獣で、ルーカって言う名前を私が付けたの」
ジルが理解し易い様に、もう一度整理した情報を告げる。
「何だよ……それ……。いや……唯自体が聖獣だから……不思議はないのか」
ジルは両手で顔を覆いながら項垂れている。
……無理はないか。
私も最初は目を疑ったもんねぇ……。
パタパタと羽を動かしながら、腕を組んで頷く私を……いつの間にかジルがジト目で見ていた。
「……何?」
「いや。唯って凄いんだな……って改めて思った」
「何だそれ!!私のこの姿を散々!……」
…………散々、見てるから見慣れちゃった?
私が聖獣らしい事をしているのって殆どないからなぁ……。
ジル的には『酒好き、大食らいの猫』って感じ?
うーわー……私やばくない!?女を完全に捨ててるじゃん!!
「……いや。唯の事はきちんと女性だと思っている。少し変わった……力のある普通の女性という認識が強かったから、神にも等しい存在なんだって事が抜けていただけだ」
「そうなの?」
「ああ」
……単純にこれは嬉しいかもしれない。
本人に決して他意は無いだろうけど……。
嬉しくて思わず口元が緩んでしまいそうになる。
ニヤニヤしそうになる頬をパチンと一回叩いて気を引き締めた私は、改めてジルに向き合った。
「まだ糸口が分かっただけで、何も解決出来ていないし、出来るか分からない。だから……まだ何も言えないけど、私は聖獣だから!皆が幸せになれる様に頑張ってみるよ」
『ミーシャ姫の寿命の事は私に任せて!』なんて格好良い事が言えたら良いのだが……ぬか喜びさせる様な事はしたくない。
「唯……それでも、私は危険な事には関わらないで欲しい」
「うーん。ジルの気持ちは嬉しいけど、それは正直言えば保証出来ないかも?でも無茶はしない様に心掛けるよ」
命を無駄にするつもりはない。
この世界の大切な皆を幸せに出来たら、私も幸せになるつもりなのだから!
目指せ!スローライフ!!
「……分かった。私は唯の為に美味しい物を用意するよ」
「うん!よろしくー!!……でも、急にどうしたの?」
「……胸騒ぎがしたんだ」
まあ……不思議な女性の事もあるから、そう思ってしまうのも不思議ではないだろう。
「取り敢えず、分からない事を心配しても仕方ないよ!!」
私はジルを不安にさせない様にする為に、努めて明るく装った。
「あー、今日の夜ご飯は何かなー?」
「……その前に昼じゃないのか?」
「そうだった。忘れてた!!」
「……一緒に食べに行くか?」
「うん!ここの料理人さんのご飯は絶品だからなあ……じゅるり」
「唯……。涎……」
「良いの!早く行くよ!?」
苦笑いを浮かべるジルを急かしながら、厨房に隣接された食堂に向かった。
因みに、今日の昼ご飯は【トローリ濃厚ポテトグラタン】でした!
うまうま!! ご馳走様でした!!
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