23
全力疾走のジルの腕に抱かれながら私はリーリアさんを思った。
どうしてこうなった……。
昨日までは何の異変もなく普通だった。
お腹の双子も元気だったし、産気づく気配はなかった。なのに何故……。
私は両手をギュッと握り締めた。
どうして、もっと早く異変に気付けなかったんだ。
……どうして、私は今日リーリアさんの所に寄らなかったのか……。
後悔ばかりが頭を
「着いたぞ」
医務室の入口には数人の人だかりが出来ていた。
その人だかりをかき分けながら中に入ると、ベットの上で身体を丸めながら、荒い息を繰り返しているリーリアさんが見えた。
「リーリアさん!!」
ジルの腕の中から飛び出した私は、そのままリーリアさんの元に向かって飛んだ。
「……ミーガルド様!」
リーリアさんの傍らには、彼女の手を握り締めながら寄り添う旦那さんのダニエルさんがいた。
「話は後で!!」
荒い息を繰り返しているリーリアさんは、堅く目を瞑りお腹を押さえている。
リーリアさん……。
私はぐっとお腹に力を込めた。
私が動揺してはいけない。
「リーリアさん。お腹に触るからねー」
「ミー……ガルド様……?」
そっとお腹に触ると、リーリアさんが弾かれた様に瞳を開けた。
不安そうに揺れる瞳は涙で滲んでいる。
「大丈夫だよー。だから、ゆっくり息をして……そう。ゆっくり……ゆっくり」
私は冷静に。しかし、優しく……リーリアさんが落ち着く様な声音を心掛けた。
「……そう。上手だよー。お母さんが落ち着くと赤ちゃん達も安心するからね。そのままゆっくり……吸って……吐いて……。ダニエルさん、後はよろしく」
「は、はい!」
少し落ち着いたリーリアさんをダニエルさんに任せ、私は心の中でお腹の中の双子達に向かって呼び掛けた。
『どうしたのー?まだ生まれるのは、すこーし早いかな。お母さんビックリしちゃってるよ?』
双子達にも優しく、柔らかい口調を心掛けながら話しかけると……
『こわい……こわい……こわいよぉ……』
『……こわいの……どうしよう……』
酷く怯えた様な二人の声が返って来た。
……『こわい』?
『お母さんのお腹の中は安全だよ?……何がそんなに怖いの?』
『アイツがきた……』
『くろいアイツがくる……』
『こわい……こわい……』
『にげなきゃ……』
双子は明らかに、何者かに怯えている様だった。
【くろいアイツ】
双子の言うそれが何者なのか、今の私には分からない。
『おかあさん……くるしくさせてごめんなさい……』
『ごめんなさい……わたしたちのせいで……おかあさんはいたいのに……』
でも……双子達が感じている恐怖が、今の状態の原因なのは分かった。
だから、後は万能の力の出番だ。
『もう大丈夫だよ。君達もお母さんも私が絶対に守るから。だから少し眠ろう?』
力強くそう告げると、双子達から怯えの気配が少しだけ消えたのが分かった。
『……ほんとう?』
『うん。約束』
『おかあさんをまもって……』
『うん。分かった。君達ごとみんな守るからね』
私は答えながら、浄化と回復の術を少しずつリーリアさんの中に流した。
『『……ありがとう』』
穏やかな双子の声が頭の中に響いた。
これでお腹の張りが取れて陣痛が遠のくはずだ。
そっとリーリアさんの方を見ると、先程までの険しい表情は消え、静かに寝息を立てていた。ダニエルさんは、安心した様に安堵の溜息を吐いている。
「さて……。どうしてこんな事になったのか説明してもらえますか?」
「……唯。その前に場所を移そう」
今まで事の成り行きを見守っていたジルが私とダニエルさんの肩に触れた。
いつの間にか、入口にあった人だかりもなくなっている。恐らくは、ジルがどうにかしてくれたのだろう。
……それもそうか。
せっかく眠りについたリーリアさんや双子を起こしたくはない。
私は、リーリアさんの周りに、フワッと結界の様なものを張った。
「ミーガルド様……それは?」
「えーと。簡単な結界ですね。リーリアさんに異変が起きたら分かる様にしたので、安心して下さい」
「……ありがとうございます」
立ち上がったダニエルさんは膝に頭が付きそうな位に身体を折り曲げながら、頭を下げた。
「いえ、いえ。じゃあ、取り敢えず外に行きましょう」
私達はそっと部屋を出た。
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