21
「「申し訳ありませんでした!!」」
二人は身体を二つに折りながら謝罪をしてきた。
「……別に謝る必要はないですよ?」
「いえ!私達は本当に結婚相手が欲しいのです!」
「でも……なかなか好きな相手が見つからなくて……焦って筋肉に逃げたんです」
『焦って筋肉に逃げた』って凄い言葉だな。生まれて初めて聞いたよ。
流石は筋肉集団……。
「今度はもう逃げませんから……!」
「だからまた指導をして下さい!!ミーガルド様!」
私の両手を二人がそれぞれ取り、懇願の眼差しを私に向けてきた。
うーん。どこかの宗教の教祖にでもなった気分だが……。
まあ、こうなる様に誘導したのだから同じ様なものか。
しかし、こんなに簡単に進むとは。
私……洗脳とかしてないよね?万能な能力に含まれてたりして?
まさかね!私の人徳のなせる技だよ。はっはっはー。
「……言いましたね?」
「「はい!」」
「男に二言はありませんね?」
「「はい!!」」
言質は取った!
「では、お二人にはホストになって頂きましょう」
私はニッコリと微笑んだ。
「……ホストですか?」
「それはどういう事ですか?」
「お二人にはお茶会を主催して女性をもてなして頂きます。皆さんがしていたお茶会の感じで大丈夫です」
「それなら……」
「……出来そうですね」
「では、一週間後はどうでしょう?」
私はポンと両手を一回叩いた。
「大丈夫です」
アインさんとドライさんが大きく頷いた。
「会場や準備は全てお任せします。女性方が喜びそうなものを用意して下さいね」
「分かりました」
「あ、ツヴァイに協力を頼んでも構いませんか?」
「はい。それもお任せします」
ツヴァイさんのお菓子作りのセンスは外せない所だろう。
後は……
「ジル。女性をたくさん集めてくれる?」
一番大事なのは参加する女性達だ。
私にはそのツテがないので、ジルに頼るしかない。
「あ、ああ。了解した。」
今までポカンとした様子で私達を見ていたジルだが、二つ返事で引き受けてくれた。
「流れが良く分からないが……どうせなら大きいものにしないか?」
「大きなもの?」
「ああ。この二人だけではなく、騎士団の中には婚約者のいない適齢期の男が沢山いるんだ」
なるほど。集団お見合いみたいな感じだろう。
「みんな一緒でも構いませんか?」
「はい。勿論です」
「同僚も喜びそうです」
二人の同意が得られたなら問題はないだろう。
「じゃあ、そうしよう!」
「王家も大事な騎士達の事だから協力は惜しまない」
私はジルに頷き返した。
あー、なんかワクワクしてきた!
この姿の私では……出逢いはないが……。
おせっかいオバサンの如く、このモフモフを最大限に有効利用して円滑にまとめてあげようじゃないか!
「あ、一応条件があるよ!」
「何だ?」
「ジルも参加をする事」
「……は?」
「ジルは婚約者いなかったよね?だったら極上な餌になってもらわないと」
「唯…。餌って……言い方……」
ジルにジト目を向けられた。
テヘッ。本音がペロッと出てしまった。
でもね?王子様という目玉がいた方が、沢山の女性が集まるんだよ!
「そんな!殿下が参加したら全部持って行かれるじゃないですか!」
「そうですよ!!」
「チッチッチ。それはそうですが、実は違います」
私はアインさんとドライさんを見ながら指を一本立てて左右に振った。
「女性が沢山集まる事に意味があります。そこには勿論、本気でジルを落とそうとする女性もいるでしょうが……皆が皆そうではないでしょう?色々な事情を持った女性達が集まるはずです」
「……なるほど?」
「今回の作戦名は『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』です!!」
「鉄砲……?それは?」
おっと……この世界に鉄砲は無かったか。
「ええと……女性が沢山集まってくれたら誰か一人ぐらい、お二人でもまぐれで落とせるかもしれない……という例えです!!」
「「言い方!!」」
「反論出来ますか?」
ニッコリ。
「「うっ……」」
「と、いう事ですので頑張って下さいね?くれぐれも筋肉にばかりかまけない事。お茶会で恋人にまで発展させろとは言いません。気になる人を見つけましょう。分かりましたね?」
「「……はい」」
「合言葉はー?」
「「当たって砕けろ……」」
「宜しい。では、また一週間後にー」
ガックリと項垂れたアインさんとドライさんをその場に残し、私はジルと一緒にその場を離れた。
「……あれは…良いのか?」
「勿論」
私は歩くジルのすぐ横をパタパタと飛んでいる。
これで変わらなければ、私はもう知らない。
『欲しい』『欲しい』と口に出しているだけで婚約者が出来るのであれば、とっくに出来ているはずだ。
それが出来ないなら、自分から行動しなければならないのだ。
「ジルの活躍を楽しみにしているよ」
「……はいはい。皆の為に道化を演じてやるさ」
ジルは深い溜め息を吐いた。
「……そう言えば、ミーシャ姫は身体が悪かったからともかく……どうしてジルには婚約者がいないの?」
素朴な疑問を投げ掛けると、何故かジルが苦い顔をした。
「ミーシャにはいるぞ」
「へ?」
「ミーシャには婚約者がいる」
「……そうなの?」
身体が弱く……長く生きられないとされていたミーシャ姫だから、勝手にいないものだと思っていた。しかも神子だし。
「ミーシャは神子だが、この国の王女だ。その血を残す義務がある。唯のお陰でそれが果たせそうだ」
「ミーシャ姫の相手の人は……?」
「ミーシャの幼馴染みだ。優しい奴だし、あの二人は想い合っているから、唯が心配する必要はないぞ」
……良かった。
一瞬だけ余計な事をしたかもと思ってしまった……。
好きでもない相手に嫁ぐ事はこの世界では当たり前の事だが、せっかく自由になれたミーシャ姫を縛ってしまったかと……心臓が嫌な感じにドキッとした。
「……唯は私に婚約者がいた方が良かったのか?」
「え?」
ジルに言われた言葉の意味が分からずに、ポカンとしてしまう。
ジルはそんな私を一瞥すると、何事もなかったかの様に笑った。
「……いや、何でもない。私は国を継ぐ責任があるからギリギリまで自分で見極めたいんだ。王妃となる教育はいつでも出来るが、王妃となる素質を持つものは少ない」
ジルは父親であり国王のヨハネス様と話し合い、最良の相手に出会うまでは婚約者を作らない事に決めたのだそうだ。
ジルに……婚約者か……。
想像すると胸の奥底がジリッと傷んだ。
この気持ちは……?
「唯には恋人はいなかったのか?」
「あ…うん、いた事はあるよ。随分と前に別れたけど」
「……結婚は考えなかったのか?」
「それは考えなかったかな。まだ若かったし……。私の国は付き合う=結婚にはならないから。中にはそういう人もいるけどね」
「そうか」
複雑そうに笑ったジルは、私の頭の上にポンと手を乗せた。
「何?」
「……いや。料理長が新作のお菓子をおやつに用意してくれるらしいから戻ろう」
「えー!やった!!」
先程感じた気持ちに一旦蓋をした私は、目の前のお菓子に飛び付く事にした。
因みに、新作のお菓子は大きなプリンの乗ったパフェだった!
シーカに少し話しただけのプリンを料理長さんが再現してくれたそうだ。初めて作ったとは思えない程に美味しいものだった。
ごちそう様でした!!
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