14

「あー!こんな所にいたのか!探したんだぞ?!」

そう言いながら近付いて来たシーカは少し不機嫌そうだった。


……あれぇ?

私、ここで待ってるって言ったよね?

首を傾げていると、シーカが私の元に辿り着いた。


「探したんだぞ!」

シーカの大きな声が神殿内に響き渡る。


私は思わずビクリと身体を震わせたが…シーカが大声を向けた相手は私ではなかった。

それは、未だにぼーっとしている目の前の男性に……だった。


……という事は、この人がシーカの探していた『クーちゃん』なのだろう。


良かった……殴らないでおいて。

私は二人の様子を黙って見ながら、安堵の溜息を吐いた。


「クラウディス!?聞いてんのか?」

シーカはクーちゃんこと……『クラウディス』を大きく揺さぶっている。

「……あれ?シーちゃん?どうしたの?」

揺さぶられた衝撃で我に返ったのか、クラウディスがパチリと瞳を瞬かせた。

「シーちゃんは止めろ!」

「あはは。ごめん、ごめん」

クラウディスの胸元を掴みながらむくれた顔をしているシーカに、余裕の笑みを返すクラウディス。


クラウディスは薄い茶色の長い髪を一つに束ねた、スラッと細身の優し気な面影のある青年だった。

神が入っている時は気にする余裕もなかったが、そこそこに顔も整っている。


「今日はどうした……」

シーカに尋ねようとしたクラウディスの言葉は、私と視線が重なった事でプツリと途切れた。

シーカと私の間を二度を見したクラウディスの茶色の瞳が極限にまで大きく見開かれている。


「あなた様は……ミ、ミーガルド様……!?」

ポカーンと開いたままの口が塞がらない様子のクラウディス。


え?……これって、そんなに驚く事?


「ああ。唯が神殿に用事があるみたいだから、次いでにお前に紹介しようと思って連れて来た」

唖然としたままのクラウディスが余程面白いのか、シーカはニヤニヤしている。


「唯。こいつが俺の幼馴染みのクラウディスだ」

親指でクラウディスを指すシーカ。


「……唯?…………ってお前!!」

我に返った(二回目)クラウディスが、今度は逆にシーカの胸元を掴んだ。


「お前は……!ミーガルド様に失礼過ぎるだろう!?」

前後左右にシーカを揺さぶるクラウディス。


初対面の時のシーカの態度とは真逆である。

もっとやって……!……と思わないでもないが、私はシーカの事をもう許しているのだ。

細身でも流石は……男性。シーカが振り回されている。


「あの……クラウディスさん?そろそろシーカを離しませんか?」

私はパタパタと背中の羽を動かして浮き上がり、クラウディスの手に自分の手をポンと重ねた。


「ミーガルド様……!」

パーッとクラウディスの顔が輝き出し、揺さぶっていたシーカの身体をパッと離した。突然離されたシーカの身体は崩れ落ちる様に床へと落ちた。


「クラウディス……!お前!!」

クラウディスから解放されたシーカは、荒い息を吐きながらクラウディスを睨み付けているが……当の本人は…………。


「ああ……。ミーガルド様……!」

私のモフモフの両手を取り、頬を赤らめながらうっとりとした眼差しを私に向けてきている。

……シーカの声は全くクラウディスには届いていない。


「あ、あの……」

「ああ……。何と!!声までもが愛らしい……!」

「クラウディスさん……?」

「ああ……。身に纏うオーラはこんなにも神々しく光り輝いていらっしゃる……!」


……あのね。話を聞こう?

やっぱりあの時殴っておけば良かった。そう後悔している自分がいる。


遠い目をしていると……

「落ち着け!」

ダメージから回復したシーカが、クラウディスの頭部に手刀をお見舞いしている所だった。 強烈なその一撃は、私を解放させるには充分な威力だったらしい。

クラウディスはその場に悶絶しながらうずくまった。


私の救・世・主!!


「大丈夫か?」

シーカは私に向かって手を広げてくる。


「……悪かったな。こいつは神とか神聖なものに夢中になって我を忘れる癖があるんだ」

シーカの大きな手に、私はそのまま抱きかかえられた。

素直にそこに収まった私は、自分で思っていたよりもクラウディスの存在にドン引きしていたらしい……。


「ミーガルド様!!」

ハッと我に返った(三回目)クラウディス。

私を腕に抱いているシーカが羨ましいのか……ギリッと唇を噛み締めている。


……うん。これは残念なイケメンだ。

そっと視線を外したくなった。


「……いい加減にしないとこのまま帰るぞ?」

溜息を吐いたシーカが瞳を細めると、途端にクラウディスが慌て出した。


「ま、待って下さい!ミーガルド様!!」

縋り寄ろうとするクラウディスをシーカは足蹴にする。


シーカと一緒で……良かった。

遠い目をしながら私はそう思った。

もし一人で神殿に来て、クラウディスに出会っていたらと思うとゾッとする……。

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