13

 シーカに連れて来てもらった神殿。

 その外観は最初に持ったのイメージと一緒で、ギリシャ神話に出てきそうな白い石造りのシンプルな造形だった。

 だからこそ、私はその中に入って驚いた……。


 外観のシンプルさとは相まって……神殿の中は何と言うか、壮大だった。

 何が壮大かって?

 それは、室内の壁中にあしらわれた色とりどりのステンドグラスだろう。

 日光が差し込んだ室内は、まるで万華鏡の様にキラキラと輝いていた。

 唯のいた世界ではキリストが描かれていたであろうステンドグラスには、知らない男性が描かれていた。……この男性がここの世界の神様なのだろう。


 …という事は、私はこの神様によって召喚された事になるのか。

 むむっ……?

 ……なかなかのイケメンじゃないか。

 ちょっとだけ複雑な気持ちになる。許せる様な……許せない様な…………。

 いや、許さないけどね!?


 ステンドグラスに描かれた神と睨めっこをしていると……。


「やあ」

 私の背後から誰かに声を掛けられた。


 ……誰?

 振り返った先には、白いローブを纏った髪の長い男の人がいた。

 その服装的に神殿の関係である事はわかるが……私にはその男性から気安い感じに声を掛けられる覚えはない。初対面だ。


 因みにシーカは幼なじみのクーちゃんを探しに行っていて、ここにはいない。

 暇な私は一足先に聖堂に来ていたのだ。


「ええと、こんにちは?」

 取り敢えず、挨拶を返しておく。

 今はこんな姿だが、元々は挨拶に厳しい社会人だったのだ。

 知らない人とはいえ、どこで繋がっているか分からないから、無難にこなしてしまおうという……日本人としてのスキルが発動した。


「元気そうで良かったよ」

 そう……にこやかな笑顔で言われるが……私は益々意味が分からなかった。

 この男性には全く心辺りが無かったからだ。


「あの……どなたですか?」

 思わず一歩後退ると、目の前の男性は苦笑いを浮かべ……

「ああ。そうか。ごめんねー」

 ガシガシと頭を掻きながら謝罪をすると、衝撃的な一言を放った。


「どうも。僕は君を召喚した神様です」


 …………は?


「うん? だから、神様」

 ニコニコ笑いながら自分を指差す男性。


「はぁあああああああああっ?!」

 ここが厳かな神殿なのも忘れて、ドスの効いた叫び声を上げてしまった。


 ……神様? 神って、私をこんな姿にした奴?!

 ステンドグラスの顔と違うとか……どうしてこんな所にいるんだとか……色々とツッコミたい所は山ほどあるのだが……。


「取り敢えず、一発殴らせてもらえますか?」

 スーっと細くなる私の瞳が、目の前のヘラヘラと笑う神を捉えた。


「良いけど……」

「よーし!歯を食いしばれ?」

 小さな猫の手にチート力を付与させる。

 これでパンチ力は格段に上がった!! 必殺!昇天!!!


 すると、慌てた様に神が自分の事を防御膜で包み始めたのだ。

『良い』って言ったよね?!

 私はジロリと神を睨み付けた。


「ちょ……ちょっと待って!君のそのパンチを食らったらこの子死ぬからね?!」

「……それは言い訳ですか?言い残す事があるんだったら早めに……」

「ま、待って!!取り敢えず、僕の話を聞こうか?!」

 ……意味が分からないが、仕方がないので上から目線で話を聞いてやる事にした。


「それで?神様がどうしてここにいやがるんですか?」

「うん……。その言い方……ってごめん!!僕が悪かった!!」

 黙って握り拳を上げると、神は怯えた様に身体をすくませた。


「君の様子を見に来たんだ」

「私の……ですか?」

「そう。僕の手違いでそんな姿にしちゃったからさ……」

 上目遣いに私を見てくる神。

 そんな愁傷な態度をしても可愛くないからね?!


「元の世界に戻れないなら、せめて外見だけでもどうにかなりませんか?」

「ごめん。それは僕には無理」

 即答かい!! イラッとするんだけど……!?


 この……猫みたいな姿は可愛いよ? 可愛いけど……色々と不便なのだ。

 無意識にブンブンと尻尾を振る。

 ……猫が尻尾を振るのは不機嫌だからだ。 本当は、聖獣だけどね?!


「でも、君の力があればいずれ人型になる事も可能だと思うよ」

「そうなんですか?」

「うん。多分」

『多分』だと……?

 いちいちイラッとくる言い方をする神だな……。コイツは。


「さて。君と話せたし、僕はそろそろ戻ろうかな。この身体は借りてるだけだから殴らないでね?」

 ニッコリと笑う神。

 そうか。この身体の男性は被害者だったのか。それじゃあ、殴れないよね。

 だって、可哀想だもん。


「あの……神様。お願いがあるのですが……」

 おずおずと下手に出てお願いしてみれば……

「ん?何? 何でも良いよ?」

 簡単に神が釣れた。一本釣りだ。

 ……軽いな。本当に神様か?!


 でも!『言質は取った』よね?!


「今度は生身で来て下さいね?そして絶対に一発は殴らせろ!」

 ニッコリ笑い返すと、神の顔が引きつったのが見えた。

「『何でも良い』と言ったのは神様ですからね?約束破ったら……倍返しですから」

「う……うん。あ、あははっ……」


 神は引きつった笑みを浮かべながら去って行った。……らしい。


 チッ。文句がまだまだ言い足りなかった……。恨みつらみも。

 ……あ、神子の事も聞きたかった!


 まあ……いなくなってしまったのは仕方がない。次回に聞こう。

 そして……殴る!


 それよりも……。

 目の前にいる、神が後の男性は、呆然とその場に立ったままだ。


「あ、あのー?」

『大丈夫ですか?』と尋ねようとした時……。


「あー!こんな所にいたのか!探したんだぞ?!」

 ムッとした顔のシーカがこちらに向かって早足に歩いてくるのが見えた。

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