12
「俺はシーカ。ランの兄貴で二十一歳だ。堅苦しい挨拶は嫌いなんだが……構わないか?」
ニカッと笑うランちゃんのお兄ちゃんのシーカ。
……まあ、私も堅苦しいのは好きではない。
「良いよ。お詫びはさっきのお菓子で帳消しだし」
へえ……二十一歳か……。
以外と老けて……
「悪かったな。親父顔で」
何故、私の考えてる事が分かった!?
「見れば分かる」
またまた私の表情を正しく読み取ったシーカが苦笑いを浮かべている。
……ここは誤魔化そう。
「さっきのお菓子……美味しかったけど、あれもシーカが作ったの?」
「誤魔化したな……。まあ、良いけど。そうだ」
「凄いね!あんなに美味しいお菓子を作れるなんて尊敬する!!」
私はズイッとシーカに詰め寄った。
シーカは嬉しそうに笑うと、また一つ私の口の中へとお菓子を入れてくれた。
……うまっ!うまうま!
頬を押さえながら幸せな気分で咀嚼を繰り返す私を、シーカは瞳を細めながら見ている。
お菓子作りが好きなシーカは、自分の作った物を美味しそうに食べてくれる姿を見るのが好きなのだろう。そう私は勝手に結論付けた。
「ねえねえ、シーちゃん。ラン達は朝ご飯食べに来たんだよぉ?」
ランちゃんが、しゃがんだままのシーカの服を引っ張る。
「ああ、そうか。それは悪かったな」
「大丈夫。甘い物は別腹だから!」
私はニッコリ笑う。
「何だよソレ」
口を大きく開けて笑うシーカは八重歯が見えて可愛いと思った。
こうしていると年相応に見える。
「まあ、良いか。そっちのテーブル行ってろよ。持って行ってやるから」
シーカはクイッと近くにあるテーブルを指差した。
「わーい!シーちゃんありがとー!」
「シーちゃんありがとう!」
「……シーちゃんは止めろ」
心の底から嫌そうな顔をするシーカ。
『シーちゃん』って呼び方、可愛いのに。
まあ、二十一歳の男子に使う愛称ではないか。
私はつい、クスクスと笑ってしまう。
はっ?!
ジトっとした視線を感じると……案の定、シーカがこちらを何とも言えない顔で見ていた。
「……ごめん!」
私はランちゃんの待つテーブルの方へ慌てて逃げた。
シーカを怒らせて、朝食抜きになるのだけは避けたい。
デザートは別腹だから、私はお腹が空いているのだ……!
私がテーブルに着いて直ぐに、シーカが四角いトレーを三つ持ってやって来た。
「ほらよ」
シーカは私とランちゃんの前にそれぞれトレーを置いて、最期にランちゃんの隣に残りの一つのトレーを置いた。
「シーちゃんも食べるのぉ?」
『いただきます』の祈りを終えたランちゃんが首を傾げる。
「ああ。俺も休憩だ。一緒に食べて構わないだろ?えーと、ミーガルド様」
「全然構わないよ。ていうか、私の事は『唯』って呼んで?ミーガルドは言いにくいでしょ?」
私は『いただきます』をしてから、スプーンを取った。
「サンキュー。助かる。唯?」
「んー。あまり詳しく話せないけど……私、聖獣になる前は人間だったんだよね」
朝のメニューはパンに具だくさんのクリームシチューだ。
濃厚なシチューうまうま。
「へえ?……マジで?」
シーカは瞳を丸くして、私を上から下まで眺める。
「うん。信じられないでしょ?」
あははと笑うと、予想外な事にシーカは笑ったりしなかった。
絶対に笑い飛ばされると思っていた。
キョトンとした私の心情がまた読めたのか……
「笑わねえよ?そうか……大変だったな」
シーカは真面目な顔をして、ポンと私の頭に触れた。
……っ!!
不意打ちの優しさに一気に感情がこみ上げそうになる。
私はずっと誰かにこう言って欲しかったんだ。
謝罪だけではなく……ただ、一言、『大変だったな』って。
今の自分を客観的に受け止めて欲しかったんだ……。
「事情は分からねえし、説明されても理解出来ねえかもしれない。だけど、こうして話を聞く位ならいつだって出来るから……頼って良いんだぜ?」
「シーちゃん……」
「そも呼び方は止めろ」
「あはは!」
思い切り笑ったら……涙が出た。
私より年下なのに、シーカはしっかりしたお兄ちゃんだった。
ジルといい……この世界の男子は精神年齢が高い子が多い気がする。
「ミーガルド様は、唯ちゃんって言うんだねぇ。ランもそう呼んで良い?」
スプーンをモゴモゴと咥えながら、ランちゃんが首を傾げる。
『唯ちゃん』だなんて呼ばれるのは何年振りだろうか?それもこんな小さな子にだ。……少しくすぐったいけど、嫌じゃない。
「良いよ!呼んで、呼んで!ランちゃん!」
「わぁい!やった!」
「シーちゃんも呼んで良いよ?『唯ちゃん』って」
「呼ばねぇよ?!」
「「あはははっ」」
顔を合わせて笑い合う、私とランちゃん。
ジルやミーシャ姫といる時とはまた違う賑やかな幸福感……。
私はどちらもこのまま続いて欲しいと願う。
「唯は朝飯終わったらどうするんだ?送って行くか?」
「んーん。神殿に行こうと思ってるから、大丈夫」
クリームシチューの残りをパンで拭いながら私は答えた。
シチューを吸ったパンはジュワッと濃厚なミルクの風味がして、頬っぺたが落ちそうだ。
これにチーズを足してグラタンにするのも良いなー。
「神殿?じゃあ、俺が仕事終わるまで待ってろよ。もう直ぐ上がりの時間だし」
「へ?どうして?」
「神殿に知り合いがいるんだ。紹介してやるよ」
神殿に知り合い……?
口の悪いシーカなのに??
首を傾げる私にシーカは苦笑いを浮かべた。
「また失礼な事を考えてるだろ?」
「いやいやいやいや?」
あははと笑って誤魔化すと、またシーカにジトッとした目で見られた。
「……俺の幼なじみがいるんだよ」
幼なじみ?神殿関係者に?
「あー、クーちゃんだね!」
ランちゃんは両手を合わせて『ご馳走さまでした』をした後に、ニッコリ笑いながらこちらを見た。
クーちゃん?
この名前で思い付くのは……青い滴の様なキャラクターである。
寧ろ、それしか思い浮かばない……(汗)
ええと……シーカは幼なじみで神殿にいるクーちゃん(?)に私を紹介してくれるらしい。
正直、どうして出会ったばかりの私に、シーカがここまで良くしてくれるのか分からないけど……神殿関係者と繋がれるのはありがたい。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな? よろしくお願いします!」
私はシーカに向かって素直に頭を下げた。
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