閑話:赤ずきんさま
赤ずきんさま(1)
☆ † ♪ ∞
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ある一人の少女が、整地もされていない森の中をオフロード仕様のセグウェイで疾走していました。
歳は十ほどか、新雪のような白い肌と、それを包むのは同じく白いレースのワンピース。
その純白の上に鮮やかに映えるのは赤い髪、紅い瞳、そして朱いフード付きのケープ。
人形と見紛うような、極めて完成に近い玉貌。
可憐かつ鮮烈。その特徴的な服装から、少女は赤ずきんと呼ばれていました。
赤ずきんは若いながらも
自然保護官とはおおむねその名の通り、森林の維持管理、絶滅の恐れがある野生生物の保護/調査、増えすぎた鳥獣や外来生物の駆除など、自然の環境保全が主な仕事です。
赤ずきんは今、同じく自然保護官である祖母――おばあさんが住んでいる監視小屋に向かっていました。
おばあさんからの定時連絡が途絶えてから一時間。その安否を確認するために。
木々が開けた場所に、その監視小屋はありました。
総面積およそ二〇坪。丸太……ではなく二つの木材を貼り合わせたラミネートログ材で造られた、一見すると近代的でシャレオツな外観。
人一人住むには充分か、すこし持て余す程度の広さでした。
赤ずきんはセグウェイから降りて、小屋の周囲を観察しました。
荒れたような形跡はありませんでしたが、二つ、気になる点がありました。
ひとつは焚き火がそのままになっていたこと。薪がくべられないまま、あと数分で火が消えるという様相。
おばあさんが普段から機械のように几帳面であることを知っている赤ずきんからすれば、事態はすでに只事ではないという確信を抱かせるには充分でした。
もうひとつは決定的――人ならぬ獣の足跡が、小屋の玄関へと続いていました。
足跡の大きさはおよそ二七センチほど。すくなくとも小型の獣ではなさそうでした。
おばあさんも自然保護官として、イノシシ程度なら一人で駆除できる戦闘力があることを赤ずきんは知っています。
そのおばあさんから連絡が途絶えたということは――最悪も想定せねばなるまいと、赤ずきんは冷静に覚悟しました。
赤ずきんは静かに、しかし臆することなく小屋に入りました。
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