スターマイン(4)

          ☆    †    ♪    ∞


                         [翌日]

                 [午前九時〇〇分]

     [公立春日峰高校 一年一組教室]


「はーいめんどくさいけど授業始めるぞー。とっとと席につけー」


 一時間目、現代文。職務怠慢であることを隠しもしない教師・芥葉あくたばシヅカが頭をかきながら教室に入ってくる。

 そこで、ある一点が目に入った。


「……乙海いつみ。それ、どうした」


 言われて、教室中の視線がマユナに注がれる。

 マユナの膝の上にはアマネが抱きかかえられ、アマネは静かな寝息を立てていた。


「しーーーー…………」

「しー……じゃないよ。どうしたって聞いてんの」


 シヅカに向けて「お静かに」と人差し指を唇に当てるマユナだが、質問には答えてないのですこしだけイラッとするシヅカ。


「んー……なんか昨日、地球を守るのが大変だったみたいであんまり寝てないんだって。ノートはコマリンが取るから見逃してほしいってさ」

「……それが通るんなら俺だってこの時間自習にしたいよ」


 アマネの堂々とした仮眠に、シヅカは肩を落とした。

 昨日、宇宙艦隊や要塞を退けたアマネだったが、問題は

 別宇宙からの移民船団――寿命を迎えて滅んだ母星を後にして、新たな移住先を探して宇宙をさまよう一団が地球圏にやって来たのである。

 侵略者なら武力で滅ぼすだけなので対処は容易だが、アマネにとっては武力で解決できない問題を抱えた来訪者の方がはるかに難敵であった。

 少人数の観光ならまだしも大規模移民の受け入れはできないという地球の現状や、またそれはこの太陽系の他の惑星でも同じことを船団に説明するのに一時間。

 事情は飲み込んだが、地球圏を去る代わりに補給物資を要求する船団との交渉にニ時間。

 譲歩案として移民船団を別宇宙まで誘導し、〈フレアセルガ〉の力で船団を受け入れるに足る新しい惑星を創造するのに六時間――アマネが自宅に戻れたのは日本時間の午前三時過ぎだった。


「ほら、今こうしてフツーに授業ができるのもアマネちゃんのおかげだと思って、ここはシヅカちゃん先生の広い心で大目に見てやってほしいワケですよ」

「……お前だって言うほどそんな実感ないだろうし、それどころか単に陽村を抱っこしてたいだけでしょ」

「………………そっ、そんなことないでゲスよ」


 ストレートに図星を突かれて目を高速で泳がせるマユナに、シヅカは深いため息をついた。


「……せめて保健室に置いてきなさい」


 ――異星人が地球に来訪してから半世紀。

 その間、侵略者から地球を守り続けてきた守護者がいた。

 今、マユナの腕の中で無垢な寝顔をしている少女がその守護者の一人であることを知る者はほとんどいない。それを知る者でも、地球の平和が守られているという実感などないに等しい。

 ゆえに称賛はない。栄誉もない。


 しかし、それでも少女は地球を守る。


 称賛や栄誉のためではなく、ただ普通の日常を――放課後に友達とスイーツを食べたいというありふれた幸せのために。


                     [スターマイン:end]

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