暴風(5)

『ビオス』の屋上駐車場の一部が崩落してからおよそ五分後。裏手にある商品搬入口から脱出するコマリ。


「遠見……!」


 その姿を見つけ、ランセが駆け寄る。

 コマリが脱出するなら恐らく目立たない裏側から――と山を張り、付近に身を潜めてコマリを待っていた。

 どうしても、独りだけで最後まで逃げることはできなかった。

 しかし、コマリの姿を見てランセは二の句を失う。

 外傷はまったくないにも関わらず、口元や制服はペンキをぶちまけたかのような血塗れ。

 それ以外にも制服は所々が破れ、髪や肩は埃をかぶっていた。

 駐車場での戦闘――ではなく、暴虐がいかに一方的で苛烈だったかを雄弁に物語る、凄絶な風体。

 それも全ては、己の浅慮が招いた結果――

 なにも言えなくなったランセに対し、コマリは唐突に口を開いた。


「――

「…………っ!」


 嫌味ではない。

 それはコマリにとってただの確認に過ぎない。

 だからこそ余計に、深く、その言葉はランセの胸に突き刺さり、


 ある、一つの感情を呼び起こした。


 無言でジャージの上着を脱いで、コマリに着せるランセ。

 警察に見つかっては確実に止められるほどの血痕を隠すために。


「……ここを離れよう」

「首領の任務は――」

「オレがアイツに言っておくから、それはもう忘れていい……行くぞ」


 コマリから顔を背け、先導するように駆け出すランセ。

 先導といえば聞こえはいいが、実際の所はこれ以上コマリに今の顔を見られたくなかった。


 ――その日、ランセは一〇年ぶりに己の弱さを呪った。

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