天涯の夜明 3
地鳴りとともに足もとが揺れ始めた。
戦場のあちこちから、動揺の悲鳴があがる。アズナの中の〈
ふと見上げると、
炎の髪の流星が彼女に追いつき、すくい上げた。タキアだ。いまだクスビと融合したままの赤毛のクシの民は、剣をふるい、残る少数の魔から少女と自身を守りながら、アズナたちのそば、地面すれすれにまで
「ご
彼女は、気をうしなったままぐったりと抱きかかえられているイーリエに一言断り、
「
真珠色の光として見える
そうか、とぼんやりとしたままアズナは思った。日の柱も、この少女も、うしなわれるのか。それだけではない、ほどなくこの大地――ケルス四島は海に沈み、ほぼすべての〈種子〉たちがうしなわれる。
「アズナ?」
不審の声がかかる。
いつのまにかイーリエの手を取っていたのは、自分でもわからない何かに引き寄せられたせいだ。
「戻れよ」
アズナはささやく。
「
伸ばした
イーリエ、と
ほどなくして、固く閉じたままの少女のまぶたが、ピクリと動いた。
*
かの子どもがはじめてやってきた日を
それはクラトが生まれてから七年がたち、見た目と年齢が釣り合った年の冬だった。
夢に
雨のけはいが近づく中、暗みをおびた空に、
「このこはなあに?」
いく度もつま先立って
「
「アズナ?」
クラトは飛び
「そう。すべてを収める器、
「んんと……?」
わからない、と眉を寄せる幼ない息子の頭を、なだめるように母はなでた。
「いずれたくさんのものを背負う子です。でも、今はまだわたしたちと同じ
ふうん、とあいまいにうなずけば、また頭をなでられる。
そのあとすぐに、クラトが「あ!」と声をあげたのは、同じくらいの
「このこ、おとうとにしていい?」
「いいわ。お友だちでも良いのですよ」
ミトメは腕の中のアズナへふしぎな笑みを向けながら、息子へ答える。
「うん! どっちもにする。ね、アズナ、よろしくね」
クラトが
その日のうちにクラトと同じ七つほどに見えるまで成長した赤子は、よく彼になついて、ついて歩くようになった。
クラトだよ、と。彼は、少年の姿となった子どもに、自らを
「くら?」と、見た目の年よりも幼いようすの少年は、キョトンとしながら口まねる。クラトは首を横に振った。
「クラト」
くり返せば、少年はパチリとまたたいて、こうか、と言うようにもう一度口まねした。
「くらト」
「うん、そうだよ。それから、きみはアズナ」
今度は少年へと指を向ける。
「あずな?」
「アズナ。きみのこと。おぼえた?」
少年は、こくこくとうなずいた。
「アズナ」と名を受け取り、ひどくうれしそうだった。
まだ中身の幼いアズナは、好奇心の塊のようないきものだった。目に入るもの、耳に聞こえるもの、肌に触れるものすべてに、片端から手をのばして確かめようとした。きっと急いで
字を習いアズナも文字を読めるようになってからは、よく
『
『オレは絵の中の人みたいに、
もしもこの場所に行けたなら、とやってみたいことを言い合っては、声と心を
二人とも大人たちからは、ちゃんと手伝いもするおおむね良い子たちだと見られていたが、時おり母や姉にあきれられ、ふり返って自分たちでも顔を見合わせることをやらかしたのも事実だ。
楽しかった。
だからずっと忘れていたのだ、幼い日に「彼はいずれ多くを背負う者だ」と告げられていたことを。
やがてクラトは生まれてから十四年と半年を迎え、夏至を過ぎれば成人としてあつかわれる
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