七章 ◆飛翔
天涯の夜明 1
この夜、
前日より立ち上がり兵を送り出しつづける
長い舌を思わせる赤い光は、
人々が次々と倒れ動かなくなってゆく中、
次の瞬間。
目もくらむほどの光の大奔流が、漆黒の空を裂いて西へと向かった。
*
四つ目の巨大な山犬が、
「タキアさん!」
一声かけ、寸前でかわす。なびく尾に触れ転送する。
「すみません」
「
赤毛の女武官は、アズナへ余裕の笑みを見せ、すぐさま別の魔に
「イビアス右ッ」
手近な焼け落ちた小屋に
鳥型の魔を相手取りながら、イビアスが叫ぶ。
「便利だな。まとめて火口にでもたたき込めないか?」
「無茶言うな!」
悲鳴が聞こえた。
どこだ? 視線をめぐらせる。
見つけた。
アズナは全速でそちらへ向かう。
拾った棒で大ネズミをはらい落とし、即座に男を抱えて
「――っ」
とっさにつき飛ばしていた。忘れようとしても忘れられない、不愉快な顔つき。それはアズナを
「痛てぇ、痛てぇよお、死にたくねえ助けてくれよぉ」
自分をつき飛ばした者がだれだか気づいてないのだろう。土と、背の深手からの血と、涙と鼻水と恐怖のあまり漏らしたものとで汚れきった男が、アズナの
「このッ」
あの日の
アズナは湖の空をふり仰ぐ。そこにいるのは、いまだマガツヒに取り込まれ利用され続ける
――
一度だけなら。アズナの奥から〈神〉の思考が浮かびあがる。一度だけなら……一度ダケデイイ。助ケルンダ。護ラナケレバ。コレモマタ〈
二度はなくていいのだと導かれるまま自分に言い聞かせる。
「あんたの運次第だ」
噛みしめた奥歯の間から、言葉を
手近な兵たちのもとへ、男を転送する。あの傷と出血だ、生きられるかどうかはわからない。けれど、助かりそうなら
息をつく。意外なほど消耗している。体力も、気力も。
だが、まだ折れるわけにはいかない。残った村の者たちを逃がし、どうにかしてクラトを取り戻すまでは。くじけそうな我が身を
と、ゾワリとうぶ毛をなぞる
うなだれていたクラトが、顔をあげた。
男の足もとから新たに二本の竜巻が立ちあがった。竜巻は自在に動き、
――なんだ?!
圧倒的な何かが近づくけはいに、アズナは東の空をふり仰ぐ。遠くチカリとまたたく光――。
「逃げろ!」
またたきの正体に気づき周囲へ叫ぶとほぼ同時、視界をうばう強烈な輝きと圧力に一帯がなぎ倒された。
肺から叩き出された空気が
自身の落下時に大きくやぶれた屋根の穴からは、星もない暗い夜空が見える。〈
〈
それでも魔を呼びあやつる
――まさかあの〈
〈
いずれにせよ今の器の状態では、
エンシスは傷を負った体を半ば無理やり引き起こす。背に載っていた何かの破片がパラパラとこぼれ落ちた。
墜落する際に視界をうめたのは、船をふせたような形の建物だった。漂うけはいから察するに、どうやらこの
〈
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