それら、叛くもの 2
北部フェミアの森林部湖で、赤い光が立ちのぼったちょうどそのころ。
「血迷ったか、エンシス!」
「血迷ってはおらんぞ。
「役割だと!? なんの役割だと言うのだ!」
「〈
息を
ほう? とエンシスが片眉をあげる。
「おまえがそれを言うのか、シャイア。いや、
ギリ、とシャイアは――
「エンシスおまえ……ッ」
おまえも同類だろうと低く
「
「いいや、
歯がみするリトナジアへ、男はたたみかける。
「
勢いを増した竜巻が、リトナジアへ襲いかかる。
肉を刻む千の
* *
血だまりに倒れた女を、エンシスは無感動に見下ろした。能力を満足に発揮できぬ崩れかけの器では、たとえ〈最高神〉と称される
エンシスの
遠い昔、航行中の事故によりこの
大破した
マナリアは計画の続行と〈
リトナジアは、当初どちらの主張を支持することもなく、最終的に決まった側にしたがうと見えていた。ただ彼女は、破損した
だれもリトナジアの言葉を疑わなかった。だれも――正確にはチームの中でナーシュナ一人はわずかに不審を覚えたようだったが、深く追及することはなく終わってしまった。
それが野心からの
リトナジアは、隆起後のまだ不安定な大地に動力部を組み換えた
彼女が〈最高神〉を名のり偽りの
風の
ならばもうこの場に用は無い。人工の神は踵を返す。
まずは
急ぐ心そのままに、
先を急ぐエンシスの足音が消え、床を汚す血だまりも冷え切ったころ、壁のすみから、柱の陰から、いくつもふわりと浮き上がるものがあった。
かけらのような光たちだ。真珠色のちいさな光たちはふわふわと寄り集まり、人の頭ほどの大きな光の
と、ゆら、と光の
赤い光の舌は、生きた人間たちの上から次々と
ひととおり集めた
空洞を吹き抜ける恐ろしげな風の音が響いた。いや、風ではない。真珠色に光る女が発した
『……エンシス、……マナリア……、サイアス……、ヒュレイア……』
歩きながら女は、
ふと何かに思い当たったようすで、女は歩みをとめた。
『……イーリエ』
つぶやいた唇が持ち上がる。
『
赤く
「うるさいわね! ちっとも眠れないじゃない」
寝台でしきりと寝返りをうっていたイーリエは、騒がしさについに耐えかね、かけ布を
この騒ぎは、
大げさすぎるわ。イーリエは茶にそえられた菓子をかじりながら、口には出さずに考えた。異教徒の数が百だか二百だかは知らないが、たかだかその程度、しかも
イーリエはにらんでいた扉から視線を外した。わずかに渇きを覚え、枕もとの小テーブルに手をのばす。置かれていた水差しをちょうど持ち上げたとき、聞こえていた喧噪がぱたりとやんだ。
イーリエ、とだれかが呼ぶ。
『イーリエ、
いく
にじみ出るように女の形をした白い影が像を結んだ。当代の
『イーリエ、
いくつもの顔が重なりぶれて見える白い女の影は、あまりの異様さに
『今こそ融合をはたそう。
赤い光があふれる。すべり落ちた水差しからこぼれた水が、寝台へとしみこんでいった。
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