三章 ◆皇都
蠢動する神 1
「……ではそのように、引きつづきはげめ。次の知らせもまた、我が心を躍らせてくれるものであるよう、期待しておる」
送られてきたちいさな物体を指先でころがしながら、いくつかの指示をあたえ、クシの民との接続を切る。
疲労に黒ずんでいた
軽く水気をぬぐった体に
「また
男が一人、立方晶ジルコニアの
男の姿を認めた瞬間、シャイアは眉根をわずかに寄せる。だがすぐに追い出さなかったのは、彼女の機嫌がこの上なく良く、相手をしてやる気になったからだ。
「エンシスか。いつもながら
「出したさ。
「それほどに負担なら、本格的にくずれる前にさっさと
エンシスがすすめたのは、肉の器の代替わりだ。シャイアが
しかしこの耐用年数は、置かれる環境の差によってしばしば伸び縮みする。たとえば五代前の
「あれと
「なぜだ?」
「
「
「つまらぬではないか、それでは」
シャイアは、
「あれはまだ熟しきっておらぬ。今乗り
「……悪趣味め」
エンシスがうそ
「して、今日の用向きはなんだ? ただ
「おう、それだ」
エンシスが快活な笑みを浮かべる。
「いい知らせだぞ。
「ほう、それは……」
シャイアは目をほそめた。
「
《世界がまだ水や油のように形無くただよっていたころ、水の上におりてきた
《
《
これはオルメイス正教の教義とともに民間に広く信じられる『
だが、彼ら
神族の寿命にしておよそ七世代半前、創世二神こと最初の器となる男女がこの惑星に
シャイアたちが欲しているのは、
「そうだ。この
「
「そう。〈
エンシスがつづけた。
遠い、もうずっと遠い昔、
エンシスが、シャイアのもてあそんでいた
さらに二、三の政務にかかわる話と軽口のあとに、エンシスは退出の
「
遠く思いを
*
それはいつも夢の形を取っていく度も少女のもとをおとずれた。深い闇の
その者を、泣くな、と彼女はなぐさめる。泣くな、私がいるから、と。とこしえにあなたをささえる、私がいるから、と。そしてその背に手をそえ――自分の手が見知らぬ男の手にすりかわっていることに驚いて悲鳴をあげるのだ。変わりはてた自分の姿に、同じく変わりはてた声で悲鳴をあげるのだ。
「……またこの夢なの?! もう! かんべんしてよ」
目が
レトナ・イーリエ・ラナ・フェミア。彼女の名だ。
ものごころついたころには、彼女はフェミア王の養女であり、
このところ悪夢が頻繁になっている。イーリエは枕を抱きしめながら思った。いく度も見るくすんだ者とその者に寄りそう男の夢は、いったいなにを表しているのかはわからないが。もしかすると、このまま「レトナ」のままでいつづけることになるのではないか、という不安が呼び寄せてみせているのかもしれない。そう分析する。
扉の向こうがみょうにざわついていると気づいたのは、茶の道具一式が運び入れられるさいだ。
「なんなの? 今日はさわがしいわね」
イーリエは枕にもたれたまま
「
「いつものことじゃない」
「さようでございますが、お連れになられましたのが、
「ふうん」と、イーリエはかんばしい茶をすすった。今の
――興味をひかれる。
イーリエは
それから、「
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