/3
この世界には貨幣というものが存在していながらも、その実あまり役に立っていない。この村のように自給自足を行う村にとっては、貨幣などほとんど意味も成さないのはわかりきっている。
勿論、もう少し発展していれば必要となるが、それでもやはり基本は自給自足というのがこの世界なのだ。貨幣よりもそれは食物、道具であればより良いのだ。
そのようになったのは、勿論理由がある。
エリストエルムがこの世界を管理することを決めた際、あらゆる文明が破壊された。今や書物でしか語られない、夜でも明かりを灯す電気というもの、ガスと呼ばれるものを利用した比較的安全な火の管理……数え上げればキリがないほど、旧時代には便利な発明品が溢れていた。
それを唯一神は禁じたのだ。
文明の発展を許しては、いずれ過去に起きた大戦を繰り返すからと。
しかし人類は戸惑った。便利だったものを捨てることに、抵抗を覚える者も少なからずいた。
その不安の代わりに与えられたのが〝祝福〟だった。
戦争終結後、この〝祝福〟を授かる若い齢の子が徐々に現れ始めたのだ。
ある者は炎を手から出すことができ、またある者は氷を作り出すことができた。またある者は人の傷を癒すことができたし、花を咲かすことができる者もいた。
その〝祝福〟に人類が混乱し始めたある日、空からあの声が響いたのだ。
――愛しき愛しき我らが子よ。
――貴様らも既に知っているだろう、我等の祝福を。
――貴方達が混乱していることも察しています。
――しかし恐れるな。貴様らの行いは我らが常に見守っている。
――まずは貴方達が失った文明を補うため、祝福を授けました。
――良いか。その祝福は若き命のみに与えた。
――若き命を尊びなさい。その子らはこれより世界を支える命。
――決して傷付けるな、愛し、育むのだ。
そうして文明の代わりに人間は祝福を手に入れた。これで少しは人類の不安は払拭された……のだが。
――そして次は、裁きを下しましょう。
――まずは戦犯からだ。
――恐れなさい、罪を犯した者どもよ。
粛々とエリストエルムは語る。
それから数日後、多くの雷が世界に落ち始める。それはこの世界のどの歴史書にもしっかりと記されており、〝原書の裁き〟と後に語られる。
その雷に、数えきれない多くの人類が打たれ、命を失った。
――恐れろ、我らが愚かな子よ。
――悲しみなさい、我らが愛しき子よ。
――今、戦を起こした者共全てを殺した。
――そしてそれに関わった哀れな愛しい子も。
――これにより、戦の裁きを終える。
――そしてこれからは、貴方達に猶予を与えましょう。
――貴様らに許されるのは七日だ。良いか、しかと聞け。
――今より陽が昇り、一週の始まりとする〝始まりの空〟が始まります。新しい一週に感謝なさい。希望を胸に抱き、その日を過ごしなさい。
――翌日を、労働に勤しむための〝労働の空〟とする。生きるため、生かすため、貴様らは働け。怠けるな、妥協することも許さん。働くのだ。
――翌日を、体を休めるための〝中休みの空〟とします。労働ばかりしてもいけません。少し働いて、少し休む。それをこの日は許しましょう。
――翌日を、自然を慈しむ〝自然の空〟とする。貴様らを生かすのはこの世界に根付くあらゆる生命である。それを慈しむことを忘れるな。
――翌日を、我らへ祈りを捧げる〝祈りの空〟とします。我らに祈りを捧げなさい。忘れないで。私達は貴方達の神です。祈りを捧げるのは、貴方達の義務です。
――翌日を、裁きへ向き合うための〝懺悔の空〟とする。この日だけは罪を告白しろ、隠すな。全て我らへ述べよ。
――翌日を、裁きを下す〝裁きの空〟とします。懺悔でも許されぬ罪を犯した者を、裁きましょう。大丈夫、愛しき子らよ。七日の言い付けを守るのならば。
――空の終わりには鐘を鳴らす。
――その鐘の音が鳴れば空が変わります。
――そして努々忘れるな。七日の言い付けを違えたならば。
――我々は裁きを下します。
そうして、この世界は出来上がった。
人々は徐々にこの世界に慣れ、そして……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます