第九章 手紙

「うわあー……」

 たっくんは仏壇に線香をあげながら、声を上げて泣いた。


 マー兄ちゃんの友達が家に来るのは初めてだった。


 マー兄ちゃんの通夜にもお葬式にもオレたちしかいなかった。

 友達に連絡をとろうと思ったら携帯電話もメモ帳とかもなくなってたらしい。


「すいません。信じられなくて。

 イヤな予感がしたんです。

 電話しても通じないし、ラインも返事がない。メールも戻ってくるし。

 俺は今は沖縄に住んでます。

 なかなか来れなくてすいません」


 たっくんに、じいちゃんがわざわざすいませんといろんな話をしていた。


「俺、正広に助けてもらったんです。高校の時の喧嘩相手が、ずっとうらんでたらしくって、うちの店(マー兄ちゃんの自転車屋)に来て刺されそうになって」


 その日のうちに、たくさんの退職金をくれて。

 それで、たっくんは沖縄のばあちゃん家に引っ越したんだって。


「感謝してます。相手はたちの悪い不良でやばい奴だったんで、あのままだと俺は今いなかったかもしれないです」


 夕飯どきだったので、母ちゃんがチェーン店の寿司の出前を頼んだ。

 じいちゃんとたっくんは酒を飲み始めた。

「それで」

 たっくんは一通の手紙を出して渡した。

「何ヶ月か前に届いて。中身はあけないでくれって。うちの家族に、来年渡してくれって、手紙がついていて。たくみしか預ける相手がいないって書いてあったんで」


 たっくんはマー兄ちゃんが旅にでも出るのかと、そう思ったそうだ。

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