2018年10月4日 【天使】

小さいころ、もう使えなくなった丸い蛍光灯を頭の上に掲げて


「見てみて! 天使!」


そういうと、父も母もこちらを見て笑みを湛え


「本当だ、あなたは天使ね」


と私を優しく抱きしめてくれたっけ



今はもう、蛍光灯を頭の上に掲げたって天使にはなれない



満員電車の窓の外に


水たまりに移る空の景色の中に


スマートフォンの中に


一杯のコーヒーの中に


実家で眠る卒業アルバムの中に


幸せそうな友人がこちらを見つめる瞳の中に


栄養剤の瓶の中に


帰宅して見た時計の中に


そこに映し出される私の中に



私は、あの小さな天使の背中を探している








友人の子どもが花冠を頭の上に掲げて


「見てみて! 天使!」


私は顔に笑みを湛え


「本当だ。あなたは天使ね」


そういって子どもを抱きしめる


子どもは


「あ!」


いいことを思いついたという様子で私の上に花冠を掲げる


「大きな天使!わっか、ちょっと小さいけど」



そうか


私の中の天使はもう小さくなくて


私と同じように大きくなっていたのかもしれない


そう思ったとたん


満員電車の窓のように


水たまりに移る空の景色のように


スマートフォンのように


一杯のコーヒーのように


実家で眠る卒業アルバムのように


幸せそうな友人がこちらを見つめる瞳のように


栄養剤の瓶のように


帰宅して見た時計のように



もう真っ白ではないけれど


揺らめきながらも淡く光る羽が


私の中の端っこに


ひらっと


舞い降りてきた気がした



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