奥様は忍者
後日、加藤図書助は弥次郎兵衛と小雪を連れて池田邸にやって来た。奥の部屋に通されると、上座で池田恒興が待っていた。傍に加藤政盛が控えており、略式で登用挨拶を済ませようという事だ。
「今日からニャーの側仕えとして召し抱える」
「はっ、励みます」
「姓は図書助殿から許可があるので『加藤』、名はニャーと図書助殿から一字を取って『
「はっ、有り難き幸せ」
名前が『弥次郎兵衛』だけでは武士だと言えないので、姓は『加藤』、名は『興順』とした。加藤図書助の名字と一字、恒興からも一字を与えた。
「それから、これをやろう。大した物ではないがニャ」
「太刀ですな。こちらも有り難く」
恒興は立ち上がり太刀を差し出す。弥次郎兵衛は恒興の前に跪き、頭を下げながら両手を上げて太刀を拝領する。これも昔からある儀式の様なものだ。
受け取った弥次郎兵衛はそのままの態勢で後ろに下がり、姿勢を直してから座る。そして拝領した太刀を馴れた手付きで腰に差した。
「ふーん、弥次郎兵衛が武士だったってのは本当の様だニャー」
「何か分かる事がありますかね?」
「太刀を受け取る一連の所作だ。素人じゃニャい。しかもかなり古風なやり方だ。たぶんだが、お前が居た場所は古くからある名家なんだろうニャ」
「関東らしいってくらいしか分かんないですがね」
「関東かー。古い名家が多過ぎて判別が付かんニャ」
主が部下に武器を与える。これはかなり古くから有る風習で大陸から来たものと思われる。漢族であれば剣を、胡族であれば
そんな古式な作法を保存している武家は古い名家だと相場が決まる。ただ、関東は平安期からの名家が軒を連ねている場所なので、判別は難しいだろう。
「横に居るのは弥次郎兵衛の娘かニャ?」
「あ、家内でして」
「小雪と申します」
弥次郎兵衛の妻だと紹介された小雪は三つ指をついて丁寧な礼をした。小雪の表情も澄ましていて、その紹介で当然といった落ち着き様だ。
「妻!?若いニャー。まあ、いいけど。それなら女中として働くかニャ?」
「よろしくお願いします」
恒興は小雪の若さに驚く。弥次郎兵衛と比べれば、小雪は娘と思える年齢の筈だ。まあ、歳の差婚は珍しくないので、本人達で決めたなら恒興が口を挟む話ではない。弥次郎兵衛は恒興の側役の一人になるので、職場は池田邸となる。なので小雪にも池田邸で女中として働くように勧める。
「よし、政盛。弥次郎兵衛を案内してやれニャー。他の家臣にも顔合わせしろ」
「はっ」
恒興は加藤政盛に弥次郎兵衛を他の家臣に顔合わせするようにと指示を出す。命令を受けた政盛は弥次郎兵衛を連れて部屋を後にした。
「小雪はー。誰か、お藤を呼べニャー」
部屋には恒興と小雪、それと加藤図書助が残った。次は小雪の案内をと考えた恒興は外に控える従者に側室の藤を呼ぶように命じる。女中を仕切るのは本来、正室の美代の仕事だが身重である為に藤が代行している。
「何や、旦那様」
「新しい女中の小雪だニャ。お前が教育してくれ」
「畏まりました。じゃ、行くで、小雪」
「はい」
呼ばれて来た藤に恒興は新しい女中となる小雪を紹介する。藤は小雪を見ると笑顔になり、彼女を連れて出て行った。新しい仲間が来て嬉しいのだろうなと恒興は思う。
これで部屋に残るのは恒興と加藤図書助のみ。いや、もう一人居る。というか、現れていた。
「殿、一つよろしいですか?」
「ニャんだ、三之丞?……って、お前、今何処から来た?」
「天井裏から来ましたが」
「お前といい、幻柳斎といい、天井裏とか掛け軸の裏から出て来るのは止めろニャー。心臓に悪い」
「申し訳ありません。癖になってまして」
現れたのは犬山忍軍柘植衆頭領である柘植三之丞清広だった。彼は藤と小雪が部屋を出た時に、天井裏から恒興の背後に音も無く降りて来た。何故か恒興の背後を毎回取る三之丞やその叔父の幻柳斎に恒興は苦情を言う。
「それでニャんだ?」
「あの娘は忍です」
三之丞の報告は、小雪の正体は『忍』であるという事だ。家の中に忍が入り込む、これは敵対組織の諜報員だと考えるのが一般的だろう。恒興は加藤図書助を見るが、彼もかなり驚いている様だ。とはいえ、事情は聞かねばならない。
「ニャに!?忍だと!図書助殿、これはどういう事ですかニャ?」
「え?えええ!?小雪が忍?忍なんて、ワシは何も」
問われた加藤図書助もかなり狼狽していた。それはそうだろう、池田家内部に間諜を放ったとなれば裏切り行為に他ならない。つまり命の危機すらある問い掛けだ。だが、彼の救いの手となるのも三之丞だった。
「あ、殿。一概に図書助殿の仕業とは言えないので」
「ん?どういうこったよ?小雪が忍だと言ったのはお前だろニャー」
「そ、そうなんですが、何と言いますか、えーと」
「はっきり言えニャー」
三之丞は言葉を濁しつつ、加藤図書助の関与を否定する。ただ、何と説明したものかと三之丞は悩んでいる様だ。
「あの娘が忍である事は確実です。何しろ忍の技である『忍び歩き』を使っていますから。ただ、何で人前で『忍び歩き』をしているのかが不明でして」
「……ああ、そういう事かニャ。小雪は自分が忍だと宣伝しながら歩いてんのか」
「はい。『忍び歩き』は他人に気付かれない為に行う歩行術ですので。使えるという事は彼女は忍なのですが」
三之丞が小雪を忍だと断定した理由は、彼女が忍特有の訓練された歩行術『忍び歩き』を使っているからだ。忍び歩きは音を極限まで立てない様に、床では足をスライドさせながら体重移動をさせていく。地面なら差し足抜き足となる。これで音を立てずに他人の警戒をかい潜る忍の技術なのである。主に敵地潜入などで使われる忍の基礎と言える。
しかし忍び歩きは訓練して身に付ける歩行術なので、三之丞くらいの忍なら一目で判ってしまう。つまり人前でわざわざ忍び歩きしている小雪は、自分は忍だと宣伝している事になる。この意味が理解出来ないと三之丞は悩む。
「図書助殿は何かご存知ですかニャ?」
「実は小雪も弥次郎兵衛同様、記憶喪失なのですよ。それが関係しているのかも知れませんな」
そう、弥次郎兵衛と小雪は共に記憶喪失なのだ。二人共、自分の名前が分からないので図書助が付けた偽名を名乗っている。結局、彼等はその偽名を自分の名前として違和感なく生活している。なので図書助も記憶喪失は嘘ではないと感じている。
「は?二人共記憶喪失って……そんな事あるんですかニャ」
「ワシもそうは思うんですが、二人の行動からも嘘ではないと感じますがなあ」
「それならば彼女があの様な行動をしている説明が付きます。忍である事を忘れているんですよ。しかし、身に付けた技は身体に染み着いている。だから無意識に使っているという事かも知れません」
図書助の説明を聞いて、三之丞は「それだ!」という感じで納得した。記憶喪失になった小雪は自分の本当の名前も住んでいた場所も自分が忍であった事さえ忘れているのだと。
となれば、小雪は悪意ある誰かが送り込んだ忍ではなく、忍である事を忘れた娘となる。それなら警戒する必要はないかと恒興も納得する。
「織田家に悪意があって忍び込んだ訳ではないって事かニャー。まあ、それなら問題にする事もないか。三之丞、それとなくは見張っておけ」
「はっ、お任せを」
事情を知った恒興はとりあえず他の女中と同じ扱いにしようと決める。ただし、三之丞には監視は付けておくようにと命じた。
その頃、藤は小雪を連れて廊下を歩いていた。このまま正室の美代の部屋に挨拶に行こうと考えている。藤は世間話程度の軽さでざっくりと自己紹介しておく。
「ウチは藤、池田恒興の側室や。正室の美代が身重やで、家の奥を仕切っとるんや」
「小雪です。よろしくお願いします」
「小雪はどんな仕事が得意なんや?希望があるなら聞くで」
「そうですね。力仕事などなら」
「そうなんか……。若いのに感心やな」
14、5歳の娘が力仕事を得意としている。意外な答えが返ってきて藤は多少驚く。
庭に面した縁側に来た二人。美代はいつもならこの場所で日向ぼっこしている事が多い。しかし、今は居ない様だ。代わりに前田慶が槍の稽古をしていた。ああ、それで美代が逃げたのかと藤は察した。
その前田慶が二人に気付き、藤の後ろにいた小雪をジッと見る。
「お藤様、ソイツ誰です?」
「ああ、お慶か。この娘は新しい女中の小雪や」
「女中……?フンっ!!」
藤から新しい女中だと紹介されたが、慶は訝しげな表情だ。しかも一息入れると彼女は表情を一変させ、獲物を狙う獣の様に跳んで来た。そして藤の後ろにいる小雪に容赦ない石突きによる一撃を加える。
「なっ!?くうぅっ!」
小雪はこの不意討ちに両手を☓の字に組んで防御する。刃の無い石突きとはいえ、前田慶の手加減無い突きに小雪は身体ごと吹っ飛ばされ、歩いて来た廊下の端まで飛ばされる。ただ、「ギィンッ」という謎の金属音が響き渡り、飛ばされたはずの小雪が態勢を崩さずに立っているという奇妙な状況ではあった。
状況がさっぱり理解らない藤は慶に苦情を入れる。
「ちょ、何するんや、お慶!?」
「お藤様、離れて!コイツは曲者よ!」
前田慶の疑念は確信に変わる。この曲者は手練れだと。不意討ち気味だったのに、腕を交差して槍の石突きを受け止めた。それだけではなく、曲者は腕に何かを仕込んでいる。でなければ、刃は無いとはいえ槍の一撃に耐えられる訳がない。更に当たった衝撃も予想より少ない。これは曲者が槍の衝撃を利用して自ら跳んだのだと慶は直感で理解した。
「いきなり何をするんですか!?」
「……やっぱり。その袖、変な動きをしていると思ったら、『寸鉄』を入れてるわね!」
前田慶のいきなりな行動に小雪は抗議する。しかし慶は無視。それより、小雪の両袖に寸鉄が入っている事を見破る。この寸鉄で槍を受け止めたのだと。
寸鉄というのは忍者が主に使う道具で、腕くらいの長さの鉄棒と側面に取っ手が付いているのが一般的だ。石垣に刺して足場にする。投擲武器として使う。障害物を破壊する。トンファーの様な近接武器にするなど、用途は多岐に渡る便利な道具だ。
「袖に寸鉄なんか当たり前でしょう!」
「何処の女中が袖に寸鉄を隠してんのよ!」
「……え?寸鉄仕込みは常識じゃないの?」
「コイツ、この前田慶をバカにしてる訳?良い度胸じゃないの」
小雪は真面目な顔で寸鉄は当たり前だと主張するが、袖に寸鉄を入れて仕事をしている者などいない。特殊な事情が有る者を除いては。
慶に袖に寸鉄を入れる常識などないと指摘された小雪は心底困惑した顔を見せた。小雪は寸鉄仕込みが常識だと思っていたのだ。それが余計に慶を苛立たせた。バカにしているかと。
「あかん、あかんて、お慶!ちょっと誰か来てー!!」
藤には武芸の心得は全くない。故に彼女では慶も小雪も止められない。なので彼女は声を挙げた、人を呼ぶ以外に出来る事がなかったからだ。藤が声を挙げると廊下を走って来る音がして、姿を現した。
「ゴニャアアァァーッ!!何を騒いどるんだニャー!!」
恒興である。彼は三之丞と話した後は加藤図書助を見送って部屋に戻ろうとしたところで藤の悲鳴を聞いた。それでダッシュで現場に急行した。
「……お前か、お慶!またお前かニャー!」
「何よ、あたしは曲者を見付けたから」
恒興の目に入った光景は、槍を構えた前田慶と腕を交差させて臨戦態勢を取る小雪だった。状況を確認した恒興はまた慶かと嘆息した。
それに対して慶は小雪は曲者だと主張する。
「小雪は理解ってて雇ったんだニャー。お藤、小雪を連れて行け。ニャーはお慶に説教しとく」
「お任せや。ほら、小雪、行くで」
「は、はい……」
小雪が手練れであるというのは三之丞も言っていた。織田家の害にならないなら、それは実力者を雇えただけの話だ。美代や藤が出掛けた時の護衛の足しにもなる。ここに居ると話をややこしくする者がいるので、恒興は藤に小雪を連れて行かせた。
「あ、曲者が」
「お前の相手はニャーだ、馬鹿野郎」
「誰が野郎なのよ!」
藤と立ち去る小雪を慶は追い掛けようとしたが、その進路を恒興が塞ぐ。
「この池田邸に曲者が入れる訳ないだろ。もうちょっと考えてから行動しろニャー」
「はあ?あたしも楽勝で侵入したけど?この程度で厳重とか言いたい訳?」
「そういえばそうだったニャー。あの時の事も含めて仕置きをくれてやろうか」
「やれるもんならやって見なさいよ。武芸ではあたしの方が格段に上だと思うけどね」
池田邸の周辺は毎日、厳重な見廻り体制が敷かれている。恒興の家族を守る為である。この内側に筒井順慶も暮らしている。そんな場所に曲者が入り込むなど容易ではない。
しかし前田慶は以前にこの池田邸に忍び込んで、恒興にイタズラを仕掛けた事があった。とりあえず慶は前田利家に怒られたので、恒興自身から仕返す事はなかった。
恒興が仕置きを考えるというも、前田慶は余裕の構えだ。武芸において恒興が慶に敵う訳がない。それが理解っているから、慶は挑発の様な事を言う。因みに慶は反撃する気、満々である。
「お前はニャーが謀略家だという事を忘れてんのか?」
「へえ、どんな謀略を見せてくれる訳?」
「もう終わったニャー」
恒興とて武力で慶に敵わない事など百も承知だ。だからこそ彼は慶より優る部分『謀略』を使う事に決めた。
慶は笑って謀略の結果を楽しみにしている様だ。恒興は彼女を愚かだと思う。何故なら恒興の謀略はとうの昔に発動しているのだから。
謀略は終わったと恒興が宣言した時、ポンと前田慶の肩に手を置かれる。慶が誰だと振り返ると、そこにはにこやかに微笑む女性が居た。
「お慶、暴れたそうですね」
「よよよよ、養徳院様ーっ!?」
前田慶の後ろにいたのは恒興の母親である養徳院桂昌だった。表情はにこやかでも、その言葉には少々、怒りが見え隠れしている。
「ふ、これがニャーの謀略『母上が来るまで時間稼ぎ』の計だニャー!」
「思いっ切り他人任せじゃない!」
これが恒興の謀略『母上が来るまで時間稼ぎ』の計である。この謀略は池田邸でのみ発動可能で織田家において最強の効力を発揮する。発動条件の中に『養徳院が定めた池田家法に違反する』がある。当然ながら池田邸内は暴力禁止となっている。慶が暴れた事を聞き付けて、養徳院はやって来た訳だ。
戦国時代を生き抜く謀略家池田恒興はこの程度の事はお見通しなのである。
「では母上、後はお任せしましたニャー」
「あ、ちょっと、待ちなさいよ!」
「待つのは貴女ですよ、お慶」
「あう……」
という訳で、恒興は母親の養徳院に全てを任せて立ち去る事にした。前田慶は恒興を止めようとしたが、その前に養徳院によってガッシリと肩を掴まれていた。
「般若心経100枚書き取りです。誤字脱字は許しません。一週間以内に提出なさい」
「ひゃい……」
今回の罰はまたしても般若心経の書き取り100枚である。とりあえず期限は一週間あるので、一日あたり15枚書けば終わる。無理という訳ではない。ないが、書が不得意な慶には15枚では済まないだろう。
流石に前田慶といえど養徳院桂昌を蔑ろには出来ない。これまでかなり世話になっているからだ。慶としても、彼女を蔑ろにする気は無い。
(くぬぅ、あの曲者女、絶対に許さないんだから!)
その為か、前田慶の怒りの矛先はあの曲者女・小雪に向けられ、彼女は激しく敵愾心を燃やした。いつか必ず化けの皮を剥いでやる、と。
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相模国某所 風魔の里。
ここの山中に剣の稽古に励む少年と指導をしている男が居る。
「小太郎、甘いぞ!もっと一振りに力を込めろ!」
「はい!兄上!」
指導をしているのは少年の兄である影一。小太郎と呼ばれた少年は短めの太刀『小太刀』に力を込めて、兄に打ち込んでいく。それを影一は難なくいなしている。
刀には大まかに『大太刀』『太刀』『小太刀』『脇差し』と長さで分かれる。大太刀は刀身90cm以上を指し『斬馬刀』と呼ばれる事もある程の長さ大きさで1.5mを超える物もあるというロマン武器である。平安末期の武将・源為朝は身長2m超えで八人張りの強弓(八人掛かりでやっと弦が張れるという意味)を使い、1.5mくらいの大太刀を振るったという。化け物か。太刀は刀身90〜60cmの物となる。小太刀と脇差しは60cm以下となり、太刀は短くなると防御向きとなっていく。大太刀は攻撃全振り、太刀は攻撃重視、小太刀は攻防一体で取り回し重視、脇差しは完全に防御用となる。
そこに初老の男性がやって来て、二人に声を掛ける。
「やっとるのう、影一、小太郎」
「父上でしたか」
「どうじゃ、安三郎から『小太郎』に名を改めた感想は?」
「気が引き締まる思いです、父上。あの巨悪の首魁たる菅谷政貞を討ち果たした小次郎姉上の様な立派な忍になって見せます」
初老の男性は二人の父親で風魔衆の頭領である。小太郎と呼ばれている少年は前は安三郎という名前だった。『小太郎』という名前は風魔衆の頭領が継ぐ名前で現在の『小太郎』は彼等の父親だ。対外的には彼が『小太郎』なのだが、風魔の里の中では『頭領』としか呼ばれないので、後継者に『小太郎』と名乗らせている。それによって、頭領の跡継ぎである自覚を持たせようという措置だ。
そもそも、『小太郎』だったのは兄である影一だった。しかし影一は関宿城の戦いの折りに足を負傷し、全力で走る事が出来なくなってしまった。その為、『小太郎』不適格となり、弟の安三郎が新しい『小太郎』となった。
「そうか。励めよ、小太郎」
「小太郎、今日の稽古は終わりだ。帰って明日に備えよ」
「はい、父上、兄上、お休みなさい」
小太郎は二人に一礼して集落へと戻って行った。
頭領は夕焼けに染まる空を見上げる。小太郎が小次郎の名前を出したので思い出してしまったのだ。
「小次郎か……。何故、アヤツはあんな無茶したのじゃ……」
「菅谷政貞が北条家にとってかなりの邪魔であったのは事実ではありますが」
「御本城様も小次郎の事を褒め、悼んで下さった。報奨金もたくさん頂き、里は潤ったがのう」
「小次郎と最後に会った嘉助の話では、私が負傷した事で頭に血が昇っていたと聞いてますが」
小次郎は菅谷政貞の暗殺に成功した。これは北条家とってはかなり大きな成果だった。まず小田家が機能不全に陥っており、攻略が容易になりつつある事。小田家を攻略出来れば、反北条の主力である佐竹家と里見家を分断し各個撃破も視野に入る。反北条同盟の紐帯といえる菅谷政貞が消えた事で、同盟にヒビを入れる事も出来るだろう。
なので北条氏康は小次郎の功績を認めて、風魔衆に報奨金を出した。報奨金は通常よりも多めで、おそらく頭領に対する見舞金も含まれている様だ。
「「……。」」
((まさか、死んだとか早とちりしたんじゃないよな))
何故、小次郎が無茶をしてまで菅谷政貞の暗殺に及んだのか。兄の影一が死んだと勘違いして仇討ちに行ったのではなかろうか。と、二人の脳裏を
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【あとがき】
エイプリルフール投稿ですニャー。
小雪さんの事情2。
関宿城の戦いの負傷で兄の影一さんが死んだと勘違いした
→勝手に菅谷政貞さんを暗殺しに行く
→二人共に行方不明
→北条家の任務ではなかったけど、菅谷政貞さんは厄介な敵だったので北条氏康さんは報奨金を出す
→兄の影一さんは指導員に、弟の安三郎くんが跡継ぎになる
という流れですニャー。
やはり能力は有っても早とちり忍者小雪さん。
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