外伝 関東戦国 其の二

 常陸国府中城。

 少し薄暗い部屋の中に二人の大男が居る。薄暗くとも遠目ですら理解出来る筋骨隆々なシルエット。どれ程の益荒男が立っているのか、想像するだに恐ろしい程だ。そんな威圧感で満ち溢れた人物こそ常陸国府中城主・大掾貞国と常陸国水戸城主・江戸通政である。彼等はこれから戦う対小田家の打ち合わせをしていたのだ。


「ちょっと〜、北条家はちゃんと動くのかしら〜」


 江戸通政らしき人物が身体をくねくねさせながら、北条家に対する不信感を述べる。彼は今回の作戦には半信半疑なのだ。


「心配しなくても大丈夫だわーよぅ。計画では千葉家が鹿島や島崎のアホタレ共を攻撃、結城家が佐竹家を、北条家が小田家を攻撃する手筈になってるわーよぅ」


 それに対し、大掾貞国らしき人物が身体をくねくねさせながら答える。彼は今回の戦いの全容を語る。とはいえ、自分で計画していない物ではあるが。


「北条家が動くまで待った方がよくなくて〜?」


「なーに言ってんのよーぅ。待ってたら美味しい所、全部持ってかれるわーよぅ。江戸家は佐竹家からの独立を勝ち取り、大掾家は霞ヶ浦の利権を取るのーよぅ。乗るしかないのーよぅ、この大波に!」


 イマイチ北条家への不信感が拭えない江戸通政は、北条家が動き出すまで待つ事を身体をくねくねさせながら提案する。だが、利権を奪取する絶好の機会と見ている大掾貞国は身体をくねくねさせながらも聞く耳を持たない。


「でも、それっておかしくな〜い?北条家なら単独で出来そうじゃな〜い?」


「甘いわーよぅ。北条家は周りが敵だらけ。あまり力が出せないのーよぅ」


 大掾貞国と江戸通政は筋骨隆々な身体をくねくねさせながら話し合う。まるで身体をくねくねさせながらでないと喋れないかの様に。そう、二人はオカマ、なのである。二人の容姿的には筋肉大猿ゴリラが女装をしている感じだと、家臣からの評判である。


「さあ、行くわーよぅ」


(ほんとに大丈夫かしらね〜。……ま、いざとなったら見捨てるだけよね〜)


 大掾貞国と江戸通政は大して仲が良い訳ではない。常日頃から霞ヶ浦で勢力争いをしている間柄だ。外部から霞ヶ浦の利権を侵害されると連合する場合がある程度だ。だから江戸通政にとっては商売敵とも言える大掾貞国を見捨てる事は容易い決断なのだ。


「じゃ、あたしは水戸城に戻るわ〜。合流は明後日ね〜」


「待ってるわーよぅ」


 江戸通政は邪悪な笑みを浮かべて立ち去った。それに気付く事なく、意気揚々と準備に取り掛かる大掾貞国。その彼の所に、家臣が報告を持って来た。


「殿、小田軍がこの府中城に向けて進軍を始めたとの事」


「あーら、もう勘付かれたのーねぇ。まあ、いいわ、遅かれ早かれだものーねぇ。江戸通政が来るまで籠城かしら」


 大掾貞国は特に慌てる事もなく、仕方ない程度の感想しか出て来ない。ただ、勘付かれるのが早いなと思っただけだ。まあ、籠城して江戸通政が来るも良し、小田軍を引き付けて北条家が動きやすくするも良し。


「それで指揮官は?」


「小田家当主の小田氏治との事」


「おーっほっほっほ!アホじゃないの、あの小娘。小田城で大人しくしてればいいものを勝利を進呈してくれるとか。菅谷政貞だったら即籠城だけどーねぇ」


「菅谷には勝てないんですね」


「おだまりっ!とにかく出撃よーぅ!あの小娘を蹴散らして土浦城も小田城も貰ってやるわーよぅ!」


 大掾貞国は高笑いしながら出撃を即決する。小田軍を率いているのが小田家当主の小田氏治と聞いたからだ。これなら楽に勝てる。江戸通政や北条家を待つまでもない。寧ろ、待っていたら自分の取り分が減ってしまう。大掾貞国は土浦城も小田城も奪ってやると、意気揚々に出撃した。


 小田軍8000は土浦城と府中城の間、左手に山地、右手に霞ヶ浦へ向かう平野部が広がる神立という地域に布陣。北東から現れた大掾軍2000と激突した。そして……小田軍は即座に崩壊した。菅谷政頼は信じられない速さで崩壊していく小田軍を目の当たりにして戦慄する。が、呆けている場合ではない。主君である小田氏治を逃さなければならない。そう思い、菅谷政頼は振り返る。


「やべぇぞ、前線が崩れてやがる。氏治様、ここは一旦……って、もういねえ!?」


 そこに小田氏治は居なかった。彼女が座っていた床几という椅子だけが残されていた。


「うわあぁぁーん!何でいつもこうなるのー!」


 敗戦のニオイを感じ取った彼女は既に脱兎、いや脱犬の如く走り出していた。この嗅覚だけは、日の本で彼女の右に出る者はいない。だから小田氏治は毎回捕まらないのだ。


「氏治様、待ってくだせぇー!おめえら、急げ!」


 菅谷政頼も主君である小田氏治の後を追った。自分が率いる精鋭である土浦衆を連れて全速力で。

 それを北側の山地に身を潜めていた真壁氏幹は見ていた。彼は信じられない光景を目の当たりにした。小田軍は大掾軍とぶつかった瞬間に、堪える事もなく崩れていったのだ。どんな戦術を採ろうが、前線が直ぐに崩れて勝てる訳がない。


「おい、何の冗談だ?ウチの軍、当たった瞬間に崩れやがったぞ」


「氏治ちゃんが率いるといつもこうなるんだよね。いや、まいったまいった」


「もう小田城から出すなよ!」


 菅谷政貞は小田氏治が率いるといつもこうなると嘆息した。真壁氏幹は小田氏治を小田城から出すなと怒鳴った。小田軍が勝つにはそれしかない、と彼は確信した。


「しかし大掾貞国は氏治ちゃんを追い掛けて、後ろがガラ空きだ。そろそろ、君の実力を見せて貰おうか?」


「やっと出番かよ。いいぜ、真壁衆、出陣るぞ!!」


 真壁氏幹は号令を掛けて真壁衆の先頭を駆る。真壁衆は山腹から突如として現れると雪崩の如く、山を駆け下りた。そして小田軍を追い散らして調子に乗る大掾軍の後方に突撃を開始した。


「死にてぇ奴は前に出ろっ!!死にたくねぇ奴は武器を置いて逃げるんだな!真壁左衛門佐氏幹、戰場いくさばまかり通る!!俺の征く道を塞ぐ奴は全てこの金砕棒が砕くと知れ!うおぉりゃああぁぁぁっ!!」


 真壁氏幹は金砕棒を振り回して暴れ回る。その力強さは一振りで4、5人を纏めて吹き飛ばす。大掾軍の兵士達は恐ろしい勢いで金砕棒を振り回す男が、『金棒を持つ鬼』にしか見えなかった。たちまち大掾軍は恐慌状態に陥った。その状況を菅谷政頼も認識し、軍勢を反転させて攻勢を開始した。


「全軍反転!真壁衆と敵を挟み込むぞ!」


「何やってるの、政頼!早く逃げないと!」


「いや、もう逃げなくていいんでやすよ、氏治様!」


 一緒に逃げていた小田氏治は状況が理解らず、まだ逃げようとしていた。政頼はもう逃げる必要はないと主君に訴えた。

 小田軍の挟撃を受けた大掾軍は瞬く間に潰走。軍勢は霞ヶ浦へと逃げて行った。彼等の多くは霞ヶ浦で働く水軍であるので逃走ルートに船が使えるからだ。流石に小田軍は船が無いので追い掛ける事は不可能である。敗走した大掾貞国は水路から府中城に戻った。その後に小田軍が府中城に到着、包囲を開始した。


「な、何とか江戸通政の援軍が来るまで耐えるのーよぅ!」


 今回の敗戦で残った兵士は2、300人しか居ない。兵士の大半が逃走した大掾貞国には、もう江戸通政の援軍を待つしかなかった。


「貞国様、大変です!」


「何よーぅ?」


「江戸軍、水戸城に引き返したそうです!」


「おんどりゃぁぁぁー、裏切ったわーねぇ!江戸通政、オカマの風上にも置けないわーよぅ!」


 そして大掾貞国に凶報が届く。援軍で来るはずだった江戸通政は突如、水戸城に戻って行ったという。大掾貞国は裏切ったなと憤慨した。


「ど、どうしましょう?」


「ふ、慌てるんじゃないわーよぅ。こんな事もあろうかと島崎安定に鹿島治時にも声を掛けておいたのーよぅ。さあ、南方三十三館の力、今ここに結集するのーよぅ!」


 江戸通政に裏切られた大掾貞国だったが、彼に抜かりはない。今回の戦いに際して南方三十三館の仲間である島崎安定と鹿島治時にも声を掛けておいたのだ。彼等まで来ると大掾家の取り分が減るので出来れば避けたかった。しかしこうなっては四の五の言うべきではないと大掾貞国は認識した。


「あ、それなら返事が届いてますよ」


「そういう事は早く言うのーよぅ!およこし!」


「すみません」


「えーと、島崎からはーとぅ……『愚の骨頂』?ナニコレ?」


「バカにされてますよ、ソレ」


「まだよ!霞ヶ浦の狂戦士バーサーカー・鹿島治時なら…鹿島治時ならきっと何とかしてくれる…!!そう期待している……!!わーよぅ。えーと、鹿島からの返事は……『死ね、むしろ殺す』……。ナニコレ?」


「もう宣戦布告されてますよ、ソレ」


 島崎安定と鹿島治時からの返事は既に来ていた。二人の答えを要約すると『バーカ』『kill you』となる。明らかな拒否である。


「ちょっとーぅ!どぅーなってんのよーぅ、南方三十三館の団結はー!?」


「あの、常日頃から勢力争いでバチバチに争ってるんですから団結とかした事ないですよね。ていうか、島崎家と鹿島家は小田家と懇意じゃないですか。桜川の財を荷受けしてるんですから」


 南方三十三館というのは霞ヶ浦で水運を営む者達の総称であって、組織名ではない。なので彼等は連合などしておらず、寧ろ毎日勢力争いをしている。

 彼等が力を合わせるのは『霞ヶ浦の利権』が侵された時だけだ。大掾家の都合だけで動く訳がない。

 そして島崎安定と鹿島治時からすれば小田家はお得意様である。桜川水運の荷物を荷受けしているのだから。それを大掾家が仕切る様になる方が、彼等にとっては悪夢である。


「終わった、終わったわーよぅ。大掾家はアチシの代で滅びるのーよぅ」


「貞国様、大変です!」


「滅びの時が来たのーねぇ。言わなくても分かるわーよぅ」


 勝手に四面楚歌になった大掾貞国は最期の時を確信した。家臣の報告を聞く前に覚悟を決める。だが、家臣からは意外な報告をされる。


「いえ、あの、小田軍、帰りましたよ?」


「そう、アチシを滅ぼしに帰ったのーねぇ……いや、何で帰るのよーぅ!?」


「いや、知りませんけど」


「え?マジで何なのーよぅ?」


 大掾貞国が城の櫓に登って見渡すと小田軍は整然と撤収して行った。行き先は出陣元の土浦城だろう。絶対に勝てる状況から帰って行く小田軍の行動を、大掾貞国は頭に『?』を浮かべながら見送った。

 小田軍が退却する少し前、小田氏治の軍と真壁衆は合流していた。そして将が全員集まる場で菅谷政貞は全軍退却を提案していた。


「は?退却する?何でだ、政?」


「そうだよ、大掾家を攻略して『私のおやつ』を増やすんだから!」


 真壁久幹も小田氏治も退却すると言われて、疑問しかない。特に氏治は『おやつ』を増やすのだと息巻いている。


「大掾家を攻略なんてしたら、おやつは増えるどころか無くなっちゃうよ。それでもいいのかな?」


「何でー!?無くなるってどういう事なのーっ!?」


「説明してもいいけど、聞く?」


「ぐすん。もういいの、政がそう言うならそうなるから」


 菅谷政貞に『おやつ』が無くなると言われて、驚愕する氏治。政貞は説明してもいいと言うが、氏治は聞かなかった。聞かなくても政貞がそう言うなら、そうなると知っているからだ。氏治はしょんぼりして俯く。


「まあ、ここで帰ればおやつは増えるかもね。少々、楽観的だけど」


「え?そうなの?じゃあ帰る!」


 だが菅谷政貞は今帰れば『おやつ』は増えるという。そう聞いた氏治は即決で帰ると決めた。その顔はぱぁっと明るくなった。


「おいおい、話はまだ……」


「んじゃ、親父。俺達も帰ろうぜ」


「おい、氏幹」


「はっ、死にかけの大掾なんぞぶっ飛ばしても何も面白くねえ」


「悪いね、氏幹くん」


「……敵はアンタが決めればいい、俺はソイツをぶっ飛ばすだけだ」


 尚も食い下がる真壁久幹。その父親を真壁氏幹は連れて帰ろうとする。最初から我関せずという態度だったが、『敵を決めるのは自分ではない』というものであった様だ。自分の怨恨では戦わないという、彼なりの信念であった。


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 小田家vs大掾家は一応、小田家の勝利に終わった。別に小田家が何かを得た訳ではない。これで『おやつ』が増えるのだろうか?と疑問に思う小田氏治だった。

 しかし次の日には事態が急変した。何と大掾貞国が単身自ら小田城に来訪したのだ。


「よお、大掾。自ら来るなんて殊勝な事だなぁ?死ぬ覚悟は出来たって事か〜、ああん?」


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってよーぅ」


「敵地のど真ん中で何をほざきたいんだ?おい?断末魔を聞かせたいってか?」


「ひいぃぃぃ……」


 当然だが、大掾貞国にとって小田城は敵地である。小田家臣のほぼ全員から敵対的な視線を送られている。居心地悪そうに正座する彼を真壁久幹は脅しを掛ける。


「止めなよ、久」


「親父、構うこたねえ!こんなオカマ、やっちまいましょう!」


「お前も落ち着け、頼」


 菅谷政貞は真壁久幹を止めるが、それに反対する様に菅谷政頼も声を挙げる。

 何故、大掾貞国が自ら来たのか?それは大掾家ならではの事情がある。大掾家は大名と言えるくらいの勢力を持っているのだが、その前に彼は『水運業者』なのだ。当然、大掾家の家臣も傘下も『水運業者』ばかりだ。その水運利益を拡大する為に桜川利権を握る小田家に戦いを挑んだが敗れた訳だ。

 だが話はそれで終わらない。大掾貞国が小田氏治と敵対してしまったが為に、大掾家の家臣や傘下も小田家から桜川水運の仕事を受けられなくなったのだ。戦争するくらいの敵対なんだから当たり前だろう。もし、大掾貞国が勝っていれば家臣や傘下に多大な恩恵があったのだが。

 つまり大掾家の家臣や傘下のままでは小田家の仕事が受けられず、彼等は破産の危機を迎えているのだ。大掾貞国は家臣や傘下が離反するかも知れない。いや、可能性はかなり高い。だから大掾貞国は危険を承知で小田氏治に謝罪に来たのだ。素早く小田家との敵対関係を解消しなければならないからだ。


「どうしようか、氏治ちゃん?」


「うーん、戦争はしたけど自分から謝りにきたんだし、そこまで厳しくしなくてもいいんじゃないかなーって思うんだけど……」


 方針を問う菅谷政貞に小田氏治は答える。氏治の方針は厳しく責任を追究する必要は無いという感じだ。皆が厳しい意見を出す中、菅谷政貞だけは宥める側に回っているところを見ても、コレが正解かな?と氏治は思うのだ。『おやつ』を増やす為には正解を選んでいかなければならない。

 だが、菅谷政頼は床をダンッと殴って反論する。


「甘えですよ、氏治様!」


「ぴぃっ!?」


 政頼の迫力に怯える氏治。これには政貞が直ぐに反応し、政頼を叱る。


「頼!お前、いつから主君に口答え出来る程偉くなったんだ?」


「う、すいやせん、親父。でも……」


「大方針は主が決める。臣下がそれに口をはさむんじゃないよ。久も分かったな」


 大方針というのは小田家の行く末を決める方針の事だ。これは武家の当主が決める事で家臣はその実現の為に動く。例えば織田信長であれば最初に『尾張国統一』があって『美濃国制圧』『上洛』と変わっていった。つまり大方針とは主君の意志という意味である。まあ、間違った方向なら菅谷政貞が止めるだけだ。


「そういうこった。親父、黙ってよーぜ」


「氏幹、お前はそれで納得出来るのか?」


「興味無いね。俺は主が敵と定めたヤツをぶっ飛ばすだけだ。そう言ったろーが」


「流石は氏幹君だ。分かってるね」


「フン」


 真壁氏幹の態度は変わらない。彼は自分の感情のままに力を振るう事を嫌う武芸者の性格がある。主が敵だと決めた相手のみと戦うと決めているのだ。


「それで処遇なんだがね、大掾の。お宅もウチの傘下に入らないか?」


「えーと、それはー、どのくらいの傘下なのよーぅ?」


「ただの傘下。小田家を支持する、以外は何もないよ」


「え?それでいいの?それなら是非になーのよぅ」


 菅谷政貞は大掾家の傘下入りを打診する。しかし傘下と言っても様々である。外交権や裁量権はあるのか、家督は保持出来るのかが大掾貞国は気になる訳だ。

 それに対する政貞の答えは『小田家を支持する』だけだった。つまり小田家に与力する武家というだけで、やる事といえば戦争の加勢くらいだ。

 この条件で傘下入り出来る事に貞国は感激した。ほぼ何も失わない傘下入りな上に、立場は小田家所属の肩書が付くので小田家の仕事を難なく受けられる。大掾家の家臣や傘下の者達も満足するだろう。傘下入りに関しては戦の結果なので文句は少ない筈だ。


「お、おい、政。それは甘過ぎないか?」


「真壁家もウチと戦争したけど、それで済ませたっしょ」


「いや、まあ、そうなんだが」


 真壁久幹は甘過ぎると反論するが、政貞は真壁家もそれだけで済ませたと答える。そう、真壁久幹も小田家と敵対して戦争したが敗れて傘下入りしている経緯がある。流石に久幹もぐうの音も出ない。


「キツくしたところで南方三十三館を刺激するだけさ。氏治ちゃんもそれでいいかな?」


「良きに計らえなのー」


「じゃ、そういう事で」


「ありがたいわーよぅ」


 話は大掾家が小田家の傘下に入る事で決着した。大掾貞国は温情采配を行った小田氏治に深く感謝した。これで大掾家の崩壊は免れたと。


 その少し後、大掾貞国はまた小田城に来ていた。真壁久幹と同じ様に小田家重臣のつもりなんだろうか。真壁久幹は小田家と敵対する前は、小田家重臣だったので別におかしくないのだが。元の鞘というヤツだ。大掾貞国までそうなるのかと、菅谷政貞は少し警戒する。


「で、何でまた来たんだ、お前さんは?」


「いやー、府中城に戻ったらお客様がいらっしゃってたのーよぅ」


 このオカマは世間話にでも来たのだろうか?いや、そこまで暇じゃない……と信じたい。


「へえ、それで?ウチに関係あるのかい?」


「小田家、というよりはアンタによーぅ。はい、コレ」


「書状?」


「佐竹殿からの招待状よーぅ。たしかに渡したわーよぅ」


 そう言って、大掾貞国は一通の書状を菅谷政貞に手渡す。佐竹家からの招待状だと。おそらく私的な呼び出しなのだろう。公式なら佐竹家の使者が来ている筈だ。


(佐竹家の英主と名高い佐竹義昭殿からか。これは一筋縄でいかないかもなぁ)


 やはりというか、大掾貞国は佐竹義昭と繋がっていた。もし大掾家を制圧したりすれば、小田家は佐竹家と敵対する可能性があった。これは小田家にとってかなりの大損となる。それこそ『氏治のおやつ』などと言ってられない程に。

 佐竹家は平安中期から続く河内源氏新羅三郎義光嫡流本家。当代の佐竹義昭は英主と名高い人物だ。これは一筋縄ではいかないだろうと思案した。


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【あとがき】


 歴史上には説明出来ないほど強い人物が時折現れます。項羽やアレキサンダー大王やリチャード獅子心王などです。項羽は何故強いのか?項羽だからです。こう答えるしかない強さな訳ですニャー。

 氏治ちゃんも一緒なんです!氏治ちゃんが何故弱いのか?氏治ちゃんだからです!そんな氏治ちゃんのグロリアスビクトリー『vs大掾家』


 オカマって難しいニャー。

 そしてファンタジーですニャー。

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