命を救う責任

 順慶はのえが示した村長の家に来ていた。その間、ずっと考えていた。どうやったら、のえを救えるのかを。命の恩人は人柱でした、なんてシャレにもなってない。

 だいたい、何でのえが埋められなきゃならない?こんな無法を池田恒興は許しているのか?分からない。何も。

 のえの表情に助けて欲しいというサインは無かった。迎えに来た村人も当然という顔をしていた。そしてタイミングだ。人柱が埋められる日に池田恒興は検分に来たのだ。なら、コレは恒興公認なのだろうか。分からない。聞くのが怖い。順慶は自分が外来者ストレンジャーなのだと、今回ほど感じた事はなかった。

 順慶は言葉も無く、村長の家に入る。そこには加藤政盛と親衛隊の者達が待機している場所だった。恒興はいない、おそらくは別室で接待されているのだろう。順慶はちょっとだけホッとした。今、恒興から人柱を肯定されたら、考えるだけで怖いのだ。

 順慶の姿を認めた加藤政盛は直ぐに彼に駆け寄る。


「順慶様、何処に行っていたんです?心配したんですよ」


「あー、うん」


「あ~あ~、こんなに泥だらけになって」


 加藤政盛は順慶の身体のあちこちを見る。怪我はしていない様で、張り詰めていた気が抜ける想いがした。有言実行の主君、池田恒興に怪我があったら首を飛ばすと断言されたからだ。

 順慶は自分が泥だらけになっているのを咎める政盛が帯刀していないのに気付く。この人は室内だと帯刀せずに置いている事が多い。武士はずっと帯刀しているものだが、彼は商家出身故か置いている事がある。置いてあるなら、荷物の所だ。あった。順慶が視線を向けると荷物が纏まっている場所に無造作に置いてある刀を見付ける。順慶はそこに行って、刀を手に取る。


「うん。あ、政盛さん、刀を借りてもいい?」


「は?」


「ありがと。ちょっと出掛けてくる」


「え?はい?」


 順慶は呆然としている政盛に礼を言うと外へ駆け出す。彼は思い付いたのだ、のえを救う方法を。それは身分の差で言う事を聞かせるという事だ。自分が刀を持つ立派な武士なら農民は「へへー」とひれ伏すものだ。時代劇ではいつでもそうだったと。

 あまりの事に政盛が呆けていると親衛隊員から声が掛かる。


「あ、あのー、政盛殿、これはマズくないですか?」


「マズいなんてもんじゃない。刀持って何する気か分からないけど、順慶君がケガでもしたら我々全員の首が吹っ飛んでしまう。物理的な意味で!」


「「「ギャーっ!!?」」」


 政盛は我に返ると現状を解説する。とりわけ、順慶が怪我でもしようものなら、ここにいる全員が斬首刑であるという辺りを強調した。知らぬ間に死刑宣告が目の前まで迫っていた親衛隊員達は絶叫した。


「今直ぐ追い掛けます!」


「頼む!私は殿に報告してくる!」


 加藤政盛は池田恒興への報告に動き、親衛隊員5人は直ぐに順慶を追い掛ける。外に出た親衛隊だったが順慶の姿は既に見えない。


「順慶様は何処だ!?何処に行った!?」


「あ、あれだ!橋の方に向かっているぞ!」


「もうあんな所に!?何故、あの方は足だけは速いんだ!?」


「順慶様ーっ!お待ちくだされーっ!」


 微かに見えた順慶の姿。既に村外れにある橋の方に向かっていた。既にかなりの距離を離されており、親衛隊員は順慶の足の速さに驚愕する。

 必死に追い掛ける親衛隊を尻目に、順慶は橋に到着。池田恒興が検分していたあの橋だ。その袂に人が一人入りそうな穴が掘られ、傍に白装束ののえがいる。間に合った、順慶はそう思い叫んだ。


「はぁ、はぁ。お前らーっ!のえさんを放せーっ!人柱なんて正気なのかよーっ!!」


「な、何だ、テメェ?」


 順慶は叫び、刀を抜き放つ。それを村人に向けて威圧する。村人は突然の闖入者に少し慄く。


「え?順慶さん?」


 のえも順慶に気付いて振り返る。その表情には何故?という疑問しかなかった。


「俺は侍だぞぉー、えーと、逆らったら酷いんだぞぉー!」


 そんな事は気にせず、順慶は村人を威してみる。しかし、荒事に慣れていない順慶では迫力というものが皆無であり、また口上も情けなかった。いや、口上を考えておくのを忘れていた。こういう時はだいたい島左近や松倉右近がやってくれていたからだ。

 順慶の情けない口上を聞いた村人達は敵意の視線を向けてきた。中でも荒くれ風な村人は順慶に向かって歩いて来る。


「……だから何でぇ?」


「そんなへっぴり腰で何が斬れるんじゃい」


「あ、あれ?侍だよ?」


 彼等は刀を持つ順慶をまったく怖れない。恐ろしい怒気と殺気を放ちながら寄って来る。順慶に向かって来る二人の荒くれ村人だけではない。この場に居るすべての村人が順慶に怒気を向けていた。


「大事な儀式の邪魔をしやがって!」


「ぶっ殺してやらぁ!」


「ひいぃっ!?何でこうなるんだよ!?」


 順慶は自分が刀を持つ侍なら農民はひれ伏すと考えた。時代劇ではいつもそうだったと。

 しかしそれは間違いである。特に時代背景が違う。順慶が見た時代劇は全て『江戸時代』だからだ。『刀狩り』が徹底され、戦がほぼ無くなった江戸時代の農民だからだ。武器を取り上げられ抵抗力が無くなった農民はひれ伏す以外の選択肢が無いだけなのだ。侍が偉いからひれ伏すのではない、ひれ伏す以外に生きていく術がないからひれ伏すのだ。

 順慶が荒くれ村人に襲われる寸前に、彼と村人の間に入る者がいた。そして極大の殺気を込めて叫ぶ。その場の全員を凍り付かせんが如く。それが本物の武士の業、『猿叫』である。


「貴様らぁぁ!その御方から離れろっ!たたっ斬るぞっ!!」


「順慶様、お下がりください!我等の後ろに!」


「あ、親衛隊の皆さん」


 順慶を追い掛けてきた親衛隊員が到着したのだ。自分達の生殺与奪に関わる順慶を護る為なら、警告を無視する村人の2、3人は殺す覚悟は既にある。そんな覚悟と殺気をぶつけられた村人は恐慌する。


「ひいぃ、本物が来たぁ!?」


「この人達、池田のお殿様の護衛の!?」


「近寄れば、その首を落とす!退けぃっ!」


 親衛隊員5人は順慶を中心にして周りを固めた。誰一人近付くんじゃないと、殺気と刀で威圧する。

 そこに走って来る影が三つ。


「双方、待てニャアァァー!」


 池田恒興が到着したのだ。その後ろには加藤政盛と老人が一人。老人はおそらく村長であろう。順慶は恒興の姿を認めると、今回の件を訴え掛ける。


「恒興くん、俺さ……」


「うるせえ、黙れ。喋るニャ」


 恒興は順慶の訴えを聞く前に黙らせる。そして周りを見渡して状況を把握する。結論は直ぐに出た。


「ふーん、『人柱の儀式』かニャー」


「そうなんだよ、恒興くん!こんな事、許される訳が……」


「うるせえ、黙れ。何遍も言わすニャ」


 恒興は直ぐに『人柱の儀式』であると断定した。順慶がこんな行為は許されないと訴えたが、恒興は即座に黙らせる。

『人柱の儀式』は戦国時代においてポピュラーなものであり、各所で行われている。儀式というからにはやり方が存在している。ただ対象を殺して埋めても人柱とは言わない。人柱は生きたまま埋めなくては意味が無いのだ。そう、『生き埋め』である。

 やり方は地面を掘って土室を作る。そこに対象を入れて蓋をする。この時に対象が窒息しないように空気孔を空けておく。そして絶対に出られない様に蓋の上に土をかけて岩で塞ぐのだ。何故、ここまでするのか?それは人柱とは命を神に捧げる儀式であって、人の手で奪ってはならないからだ。だから死体を埋めるのは人柱とは言わない。ただの死体遺棄だ。

 だが理解出来るだろうか。この『人柱の儀式』はあの最強の捨身修行『即身成仏』と同じなのだ。厳しい修行を積んだ僧侶ですら失敗が後を絶たない極限の苦しみを与えられるのである。殺して埋める方が苦しまないだけまだマシと言えてしまう非道を常識だとしているのが戦国時代なのだ。いや、割と江戸時代までやっていた。

 戦国時代で人柱を嫌っていた人物は何人か居る。例えば織田信長である。織田家の領内に大蛇が住むと言われる池が有り、災いがあると鎮める為に人柱を立てたという。それを聞いた若き信長は大激怒、「池の水を全部抜いてやる!」と兵士まで動員して池を干上がらせた。結局、大蛇など居らず、迷信であると宣言した。この時の池の水抜きには恒興も参加している。織田信長が人柱を嫌っている様に、池田恒興も人柱が大嫌いである。

 だが、話は好き嫌いでは収まらない。池田恒興の敵となっているのは『戦国時代の常識』そのものなのだ。


「殿様、儂らはただ橋を守らんが為、ひいては殿様の為に」


「いやいや、村長。みなまで言うニャ。人柱を立ててまで尽くそうという皆の気持ち、この池田上野介恒興、いたく感じ入っているニャー」


「「「おお」」」


 村長が村人を守ろうと恒興に訴える。橋の為、恒興の為なのだと。

 恒興は順慶には「うるせえ、黙れ」としか言わなかったが、村長には感じ入っていると礼を言った。すこぶる上機嫌な笑顔で。それを見た村人達は自分達が罰せられる事はないと安堵した。


「そうで御座いましたか、殿様。では儀式の続きをば」


「あー、待て待て、村長。一つ、頼みがあるんだニャー」


 人柱の儀式を続けようとする村長を恒興は急いで止める。頼み事があると。


「はあ、何で御座いましょうや?」


「実はな、ニャー、『大唐の最新技術』を聞き付けてニャー。試してみたいんだよ」


「最新技術、で御座いますか?」


 恒興は『大唐の最新技術』を試してみたいと村長に提案する。話が見えて来ない村長は終始キョトンとした顔をしている。


「そうニャんだよ。それを行うと、ニャんと!人柱の数百倍の効果が得られると評判なんだニャー!」


「何とぉーっ!?数百倍ですっとぉーっ!!」


「数百倍だってよ。すげぇな」「大唐だもんな、そりゃスゲーよ」「さすがはお殿様だなー」


 数百倍と聞いて村長は絶叫する。村人達も驚愕しながら『大唐』だからスゴイと納得してしまう。

 これも日の本の常識の一つ『大唐はスゴイ』である。何しろ日の本の文化を形作ったのだから、その影響力は絶大だ。

 いや、何百年前の話だ?と思われるかも知れないが、これは日の本の公家がずっと言っているからだ。公家が持つ文化は殆どが『唐王朝』から来た物だ。だから自分達の文化を有難がらせるには『大唐はスゴイ』が根底になくてはならないのだ。

 だから権力者である恒興が『大唐の最新技術』と言えば、村人は「大唐はスッゲーな」と無条件で納得してしまう訳だ。理論や理屈を問うたりはしない。


「方法はニャ、徳の高い偉い坊さんを招いて、質の高い石工を呼ぶ。坊さんがその土地に合った経典文字を選んで、石工が文字を彫る。最後に坊さんが文字に法力を込めて完成だニャ。それを橋の袂に立てれば人柱の数百倍の効力を発揮するそうだ」


「お坊様に石工ですか?しかし殿様、儂らはそんな方々を呼ぶお金は……」 


「あー、心配要らん。此度はニャーの連れが迷惑を掛けたからニャ。その詫びとして、今回はニャーが資金を出す」


「何と、殿様が!ありがたや、ありがたや」


 恒興が言う『大唐の最新技術』は徳の高い僧侶が土地に合った経典文字を選び、質の高い石工が石碑にその文字を彫る。これを橋の袂に設置して完成である。この方法で人柱の数百倍の効力を発揮すると、恒興は解説する。

 村長は徳の高い僧侶や質の高い石工を連れて来る資金は無いと訴えるが、今回は恒興が詫びも兼ねて全額負担すると申し出る。恒興の申し出に村長も村人達も感激の涙を流す。池田のお殿様は自分達の事を考えて下さるのだ、と。


「スマンかったニャ。人柱の準備までして貰ったのに」


「いえいえ、我等の思いを汲み取って頂き感謝の念に絶えませぬ。では皆を帰らせますので。おい、のえ、お前も帰るぞ」


 村長も人柱は必要があっただけで、のえを殺したい訳ではない。声を掛けられたのえは愕然とした表情で、ビクッとだけ反応した。それを見た恒興は村長を遮る。


「あ、待った。ちょっとその娘は置いていってくれ。連れ絡みで少し話があるんだニャー」


「はあ、承知しました。では、儂らは戻りますので」


「おう、皆もお疲れさんだニャー」


 こうして橋の袂には恒興と順慶、のえ、加藤政盛に親衛隊員5人だけが残った。村人が見えなくなると、恒興は貼り付いた笑顔を剥がして真顔に戻る。そして即座に政盛を呼ぶ。


「政盛、この場所を人払いしろ。ここはニャーと順慶と娘だけでいい。誰も近付けるニャ」


「ははっ」


 加藤政盛は命令を受けて、親衛隊員と共に橋から離れる。村人が戻って来ない様に見張る為だ。

 全てが終わり、人柱の儀式も無くなった。順慶は安堵して、のえに声を掛ける。


「のえさん。良かった、もう大丈夫だよ」


「……何で、何でこんな事したんですか?」


 のえは震えていた。もう何もかもが終わりだ、そんな顔をしている。絶望に染まった彼女は順慶を見ようとしない。


「え?何でって……。俺はのえさんを助けようと思って」


「何も知らないくせに!……う、うあああぁぁぁ」


「どういう事なんだよ……」


 順慶は混乱する。意味が分からない。どうしてそうなるんだと。順慶が混乱していると、恒興が遠くを眺めながら語り始める。


「この辺は少し凶作気味だったらしいニャ。おそらくは娘の家族は暮らしていけないくらいだったじゃないかニャー」


「え?」


 当然ではあるが、恒興は知っている。この辺りの状況を。だから恒興はわざわざ・・・・視察に来たのだ。何がどれくらい不足しているのかを把握する為に。そして橋を掛けたという事で補填措置を考えていたのだ。まあ、時間的にのえは埋められた後だろうが。順慶が早まった真似をしたお陰で間に合ったというべきか。

 しかし、この粗忽者には理解させなければならない。自分がどんな火遊びをしているのかを。


「そういう時、農村はどうするか知ってるかニャ?『口減らし』をするんだよ。働き手にならない幼子から減らされる。子供なら山に置き去り、乳幼児なら井戸に沈められる。こういうのを子供を神に返す行為『子返し』って言うんだ」


「そんな……」


「それをさせない為に年老いたジジババが自ら山に登り自分を捨てに行く。『姥捨山』は元来、そういう話だニャ。お前が生きてるココは決して優しい世の中じゃねぇんだよ」


「……」


 これは戦国時代の常識なのだ。皆が満足に生きる事すら難しい世界なのだ。山に捨てるのは、山は神が住む神域と考えられていたからだ。そこで死ねば命は神に返されるという理屈だ。乳幼児に関しては井戸もあるし山もある。

 子供を死なせない為に老いた者は自ら山に登り、そこで死ぬというケースもある。『姥捨山』は物語としていくつかあるが、一番多いのはこのパターンだろう。孫やひ孫を守る為という理由だ。

 恒興は最近に浮浪者の城を掃除した。そこで発見した親のいない子供達が『子返し』された子供達である。山から逃げ出したのだ。だが、行く当ては無い、帰る訳にはいかない、死んだ事になっていなければならない子供達なのだ。

 恒興は保護した子供達に別の道を用意した。親元に帰せないからだ。しかして、これは恒興の罪の一端でもある。織田家の領地で『子返し』が行われている理由の一つに『人買い商人』が来ない事も挙げられる。子供を『人買い商人』に売れば、少なくとも生きてはいけるのだ。子供も親も。

 恒興は自分の失策にも腹が立つ。どうして、その程度が分からなかったんだ、と。


「本当なら『口減らし』を行うはずだったんだろニャー。でも橋の建設が始まった。それで人柱の話が出たから、この娘は立候補したんだ。人柱になれば村の全員が残った家族に補償をくれる。自分が犠牲になれば、残された家族は生きていける。それを邪魔したのが順慶、お前だ」


「そんなのって……」


「お前がどう思っていようが関係ニャい。お前の行動の結果だ。だからニャーはお前にこう宣言する」


 恒興はのえが人柱に立候補した事くらいは理解っていた。何故なら人柱は覚悟を決めて貰わなければ成立しないからだ。対象者は自らの意志で神に捧げられなくてはならない。だから彼女が死に際し納得するだけの『補償』が用意されている筈なのだ。あとは推理するだけで簡単に答えが出る。

 のえは家族全員は生きていけない事が分かっていた。この時点で誰かを口減らしする筈だったのだが、村長は恒興の歓心を買う為に農閑期の冬に橋の建造を決めた。そこで『人柱』の話が出たから、のえは立候補したのだ。自分が犠牲になって家族を生かすか、全滅するか。考える選択肢はこれだけしかなかったのだ。

 順慶が乱入した事で恒興が介入し、人柱の話は消えた。つまり、のえの目の前には『家族の全滅』があるのだ。いや、それ以外は無い。人柱の補償が消えた今、のえ一人を減らしたくらいでは足りないのだ。

 だから恒興は順慶に断言する。その胸ぐらを掴み上げて、顔を接近させて、これ以上なく厳しい表情で叫ぶ。


「『命を救った責任』を取れっ!!逃さんぞ、ニャーがお前から責任を取り立て続ける!」


『命を救う責任』を取れと恒興は叫ぶ。『命の責任』、命に関わる全てに責任がある。命が助かれば良かろう、とかいう低い次元の話はしていない。命は産まれた瞬間に死の定めを持っている。生きていればいいというものではない。生きる事すら許されないのも悲しいが。

 恒興は命の進むべき道に干渉した責任を取れと言っているのだ。生くべき命を死に至らしめたのなら責任を取れ。死すべき定めを生く道に戻したのなら責任を取れ。恒興が言っているのは、ただこれだけだ。

 恒興の突然の豹変と威圧に順慶は泣き出す。


「そんな……こんな事になるなんて、俺……」


「順慶、お前もお慶と同じで『クソガキ』だニャ。責任取れねぇクセにやらかしやがる。あのなぁ、救うなんて誰にでも出来る事ニャんだ。救えばいいんだから。肝心なのはその後だろ。お前は救った後でどうするか、ちゃんと考えてから救ったか?一時的に生き長らえて何になる?死ぬのが遅まっただけじゃねーギャ」


『責任』と言われても、順慶は何も思い付かない。そんな順慶を恒興は『クソガキ』と評する。何も考えずにやらかす、責任の取り方を知らない。池田軍団の誰かさんと一緒だと。

 恒興の指摘通り、順慶は後の事を一切考えていない。ただ、のえを助けたかっただけなのだ。それが全部、裏目だと言われて、順慶は頭が真っ白になる。情けなくて涙が止まらない。


「うう……」


「泣きたいのは、後ろの娘だろ。お前の『正義』を押し付けられて、家族全員が餓死するんだからな。お前の責任がどれくらいか理解るよニャー」


「そんな……俺、どうすれば……」


 順慶が干渉しなければ、犠牲はのえだけで済んだ。彼女の家族は補償を貰って生き延びただろう。それが順慶の勝手な『正義感』で家族全員餓死という道に入ってしまった。つまり順慶が背負うべき『命の責任』は、のえだけではない。彼女の家族の『命の責任』を背負わなければならないのだ。

 それが死の定めに干渉した結果だと恒興は断言する。

 いつまでも結論を出さずに泣く順慶に、恒興はしょうがないなと溜め息を吐く。恒興はのえの状況を理解している。なら対応策など幾らでも思い付く。長々と説教したのは、順慶がどんな火遊びをしているのか理解させる為だ。


「……ったく、しょうがないニャ。おい、娘!お前のウチは何人だ!?」


「え?」


「家族構成を聞いているんだニャ。父ちゃん母ちゃんは健在か?兄弟は?他には居るのか?」


「えっと、お父さんとお母さんは居ます。あと幼い妹が一人」


 のえは両親と幼い妹が一人居るという。四人家族という訳だ。ああ、成る程ね、と恒興は思う。13、4くらいにしか見えないのえが長女だ。両親も30代くらいでかなり若いだろう。なのに祖父母が居ない。事故や戦争で喪う事もあるが、この場合はおそらく『田分け者』だ。余った良くない土地を田分けされ、少しの凶作でも生きていけないのだ。だから『田分け者』は大馬鹿者という意味を持つ。


「そうか。幼い妹ってのは働けないかもニャー。じゃあ、お前と両親で働け。コイツの家で!」


「へ?」「え?」


 恒興は未だに泣いている順慶を指差して、彼の家の使用人になれと言った。二人共、素っ頓狂な顔をして気の無い返事をした。

 元々、恒興は順慶の使用人を雇うつもりだったから丁度良いのだ。


「一家、犬山に引っ越して働くって事だニャー。どうせ、この村ではやっていけないんだろ。人柱の娘なんて、村の全員から腫れ物扱いだぞ」


「そんな、都会で働く才能なんて私達には無いですよ!?ただの農民ですので!」


「炊事!掃除!洗濯!こんだけ出来りゃあ充分だ!コイツはその3つが何一つ出来ないからニャー!」


 人柱の娘が生きていて、身近に暮らしていたらどう思うか。自分達の都合で殺そうとした娘だ。さて、次の日からは笑い合って話せますか?という話だ。村人達にも罪悪感くらいはある。罪悪感があるから補償という話になるのだから。それはもう、触れないくらいの腫れ物だろう。

 のえは都会で働く才能なんて自分達にはないと勝手に決め付けている。こういう思い込みが有るから、村から逃げ出せずに人柱など受け入れるのだ。

 泣き言を言うのえに恒興は炊事と掃除と洗濯さえ出来ればいいと叱る。何しろ、勤め先の主人はこの3Sが一つも出来ないからだ。危うく屋敷ごと燃やされるところだった。


「そうか!その手があったのか!」


「テメェ、何回も使えると思うニャよ!」


「はい、スミマセン!」


 ソレだ!と言わんばかりに復活した順慶の胸ぐらを、恒興はもう一回掴み上げる。そして、これだけは言っておかねばと。


「救うな、とは言わん。だが、考えてから救え!あと、ニャーにちゃんと相談しろ!お前だけで動いてもロクな事にならんわ!!」


「はいーっ!肝に命じますーっ!」


 恒興が言いたい事は考えて動けという事だ。そして最重要なのが『相談しろ』だ。あの時、順慶が村長の家で恒興に人柱の事を相談していれば、こんなにややこしい話にはならなかった筈だ。恒興の所に村長も居たのだから、即時中止くらいは簡単だ。

 ああ、林佐渡もこんな気持ちなのかなーと、彼女の苦労が偲ばれる恒興である。


「娘、ここから選ぶのはお前だニャ。死にたきゃ断われ。生きたきゃ引っ越しだ。家に帰って家族と相談してこい。分かったニャ?」


「は、はい」


 どちらにせよ、のえはこの村には居られない。口減らしされた子供達と一緒だ。だが、順慶が体を張ってでも助けた縁がある。なら彼の使用人として雇う。家族と離れ離れも酷なので家族ごと連れて帰る。田分けされた家族だ、これからも村で生きていける保証は無い。順慶としてものえは見知らぬ他人ではない訳だし、彼の世話を十全に行う為にも、使用人は複数人必要だと恒興は思った。

 恒興は選択肢を示した。あとはのえが選ぶ番だ。恒興はこの死にたがりをだいぶ揺さぶったし、のえは家族に生きて欲しいから人柱になった経緯がある。だから大丈夫だと恒興は思う。彼女は家族を生かす道を選ぶだろうと。


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【あとがき】


 戦国時代の絵の具は超が付く程の高価だと忘れてましたニャー。……興福寺ルートで仕入れたという事でいきましょう。支払いは恒興くんでw


 ウイポ10、買ってから1ヶ月くらいですかニャー。やっと試運転が終了。お札を貯めて牧場を開発して30年以上プレイしたセーブデータを引き継いで再スタートですニャー。さーて、何をしますかニャー。まずは『大陸震わす下剋上』ジョンヘンリー系確立ですニャー。今回ならマニカトもいけるかもです。『空飛ぶスプリントキング』ウイポ9の22では所有出来ず、ただ強く、スプリントマイルを長く制圧。しかし騸馬なので血を残せず、悲しき厄介者でしたニャー。

 あと、フォアゴーのタマ返せニャー。

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