油場銭の終焉

 次の日、池田恒興は井戸から水を汲み、鏡を使って身嗜みを整える。何せ戦場暮らしが長引いた。無精髭が結構伸びたので顔全体を剃る。顔を洗い、服装を整え、髪型を整える。烏帽子も被って準備は完了だ。

 これから関白の二条晴良と会談する。相手を不快にしない様になるべく正装を整えようという事だ。この会談はかなり重要である。恒興の計画は『油場銭の廃止』が骨子となっているからだ。既に山科権大納言言継にも依頼する予定だが、念には念を入れておくべきだ。現代風に言えば、デートの為におしゃれをして見栄えを良くしているのだ。会う相手は壮年のオッサンだが。

 身なりを整えた恒興は加藤政盛や護衛の親衛隊を従えて、二条晴良邸を訪問する。伴の者達は控えの間に置いて、恒興は二条晴良の私室に通される。


「お初にお目通り致します。池田上野介恒興で御座いますニャー」


「話は織田弾正忠から聞いている。関白の二条晴良だ」


 恒興が頭を下げる先に座っているのは、40歳くらいの壮年の男性。現職の関白・二条晴良である。線は細く、痩せ型ですっとした印象を受ける。目付きは鋭いが恒興を警戒している訳ではない。寧ろ、面白がっている様な視線を送ってくる。


「この度のご復権、誠に御目出度く」


「その気は無かったのだがな。近衛前久の置き土産とでも言うべきか」


 ごく最近になって二条晴良は関白に再任した。彼は関白を引退して近衛前久に関白位を譲って太閤となっていたのだが、近衛前久が追放処分となった為に関白復帰となったのだ。


「宣下の件を有耶無耶にするためですニャ」


「分かっている様だな。そうだ、足利義栄への征夷大将軍就任の宣下の責任を近衛前久に取らせたというのが実情だ。責任問題が主上や朝廷に火を点けないための生贄だ。弾正忠は気にしていないと言っていたが、あの公方がな」


 問題は織田信長上洛前、三好三人衆が擁立していた足利義栄に征夷大将軍就任の宣旨が下った話だ。これを足利義昭が取り出し、朝廷を非難したのである。足利義栄を認めるとはどういう事だと。今更、何を言っているんだ?となるが、攻撃出来る材料を探し出しては、大袈裟に責め立てる。朝廷と幕府の間柄はずっと変わらず、こんな感じだ。二条晴良も慣れてはいるが、辟易している様子だ。

 結局のところ、征夷大将軍就任に一万疋の献上を伝えた近衛前久が主犯という事にして追放処分となった。これ以上の問題延焼を防ぐ為に、近衛前久は何も弁明せずに出て行ったという。


「申し訳ありませんニャー。こちらからも働き掛けたのではありますが」


「気にしていない。寧ろ、近衛前久の追放だけで済んだのは僥倖というべきだ。彼は最近まで都を離れて関東に行っていたからな。まだ朝儀にもあまり関わっていなかったので、居なくなっても支障はない」


(うわぁ、あっさり見捨てられてるニャー)


「近衛前久も全て解った上で追放を受け入れている。連れ戻すのは骨が折れそうだ。やれやれ」


 近衛前久は織田信長の上洛前あたりまで関東に行っていた。上杉家の関東征伐に参加していたのだ。そこで長尾景虎の上杉姓継承や関東管領職就任などを手伝っていた。その為、『戦う関白』と呼ばれた。しかし近衛前久は関東に本拠地を移さない上杉景虎に失望した。関東を治める気は無いのだと、失意で都に帰ってきたのだ。

 朝廷の仕事はまだ復帰したばかりなので、居なくても問題は無い。という事で、幕府の追及を受ける生贄となった。二条晴良はほとぼりが冷めれば連れ戻すつもりだ。ただ、近衛前久は全てを理解した上で処分を受けたので、連れ戻すのは大変だと晴良は嘆息した。


「さて、世間話はこれくらいにしようか。織田弾正忠から池田上野介は出来る男だと紹介された。楽しみだ」


「はっ、此度は『油税』についての提言をさせて頂きますニャー」


「『油税』だと?あの税金もどきの『油場銭』の事を言っているのか?」


 二条晴良は『油税』と聞いて眉を顰める。思い当たるのは『油場銭』の事だが、晴良は『税金もどき』と吐き捨てた。あれは税金などではない、朝廷に一銭足りとも納められた事が無いのだ。それが『税金もどき』という言葉に込められている。


「はい。油場銭は平安期において、離宮八幡宮の神人に与えられた権利と記憶しておりますニャー。その範囲は『畿内』に限っていたはずですニャ」


「……」


「しかし神人は何を勘違いしたのか、油場銭を日の本全国で徴収しているのです。朝廷の意向を無視した、この様な無法は許されませんニャ!」


「ふむ、面白いな。続けよ」


 恒興は『油場銭』を畿内に限定していたものだと主張する。これはそうだとも言えるし、そうではないとも言える。何故なら油場銭が制定された平安期の経済圏は畿内だけであり、油が売れる場所も畿内がほぼ全てだった。だから油場銭が通用する場所は畿内だけだったのだ。

 しかし平安末期から鎌倉時代あたりになると経済圏は地方にも現れる。北陸に関東に九州に東北にと。大山崎油座の神人は油場銭を求めて全国に散り、『勝手に』畿内以外からも油場銭を取り立てたのだ。これは朝廷の意向を伺っていない違法行為だと恒興は主張しているのだ。

 聞いていないから違法、というのはなかなかの暴論だが、朝廷が認めれば違法に出来る範囲だ。それに恒興の主張は『決定権は帝に有るのであって神人には無い』と言っている。それは二条晴良にとって心地良い主張でもある。


「我が主、織田弾正忠はこの現状を嘆き、油税を元在るべき姿に戻すべきだと考えておりますニャ。そこで朝廷から出している油場銭の権利を廃止して頂きたいのです。その後は織田弾正忠が仕切り、朝廷に在るべき油税を収めさせて頂きますニャー」


「織田弾正忠が第二の大山崎油座になると?」


「そう取って頂いても結構ですニャー。結局、誰かが仕切らないと税金は出てきません。いえ、今の神人達は税金を納めた事は有りませんよね。税金を『朝廷に』納めると言うだけ、織田弾正忠はマシだと思われませんか?」


 二条晴良は織田信長が次の大山崎油座になりたいだけだろうと指摘する。油場銭を廃止し大山崎油座を無実化する事で、信長が代わりになりたいのだ。

 しかし恒興は誰かが仕切らない限り税金など発生しないと言う。これはその通りだ。朝廷に実務能力が無い以上、誰かが代行するしか方法はない。

 別に大山崎油座が朝廷の代わりに油税を徴収していた訳ではない。彼等は税金を納めた事はないし、自分達の権利としか思っていない。

 それならば、信長が徴収した金銭から朝廷に油税を納めさせる方が建設的なのだ。これ以上を望むのであれば、朝廷自体が誰よりも強い軍事力を持つ必要がある。恒興の言うマシ・・は現状の朝廷に出来る限界でもある。


「ふ、その通りだな。問題は如何ほど納めるのか、だな」


「販売益の割合で出す予定でありますニャー。現状では年間1万貫ほどになるかと」


「1万貫か。なかなかの数字が出てきたな。必要なのは油場銭の廃止だけか?」


「はい。新しい油税に関してはまだ制定しない方がいいでしょうニャ。叩き台を作って検査してからの方がよろしいかと」


「成る程な」


 恒興は朝廷に納める税金を1万貫に設定し、信長の取り分を5万貫程にする予定だ。金額を聞いた二条晴良は満足そうな表情をした。そして条件を聞いてくる。だいぶ、乗り気になっている様だ。

 油場銭を廃止するなら新しい油税を制定すべきではあるが、これには恒興が待ったを掛ける。誰にも悪用出来ない様に叩き台を作って実証実験をしてから穴の無い法令を定めるべきと主張する。恒興は今の現状で法令を整備され、自分達の動きが制限されるのを嫌がった訳だ。これは二条晴良も同意した。また油場銭の二の舞いは避けたいからだ。


「そして監査役職を朝廷で作って頂き、二条家の方に就いて頂きたいと思っておりますニャー」


「……」


「横山に来て頂いて、その仕事の視察はどうでしょうかニャ。滞在費用やその他諸経費は織田家で持ちますニャー。もちろんお土産も」


 監査役職を二条家の者に就いてもらう。これの意味するところは二条晴良への優遇措置だ。言ってしまえば『賄賂』である。

 恒興は頻りに『仕事』であると主張する。『仕事』なのだから報酬も当然の如く発生すると、物凄く俗物顔で恒興は語る。

 その顔を見て、二条晴良はストレートに聞く。


「それは賄賂か?」


「ととと、とんでも御座いませんニャー。ただニャーはお仕事をして頂くに当たって正当な報酬を受け取って欲しいと願っているだけですニャー」


「ふふふ、そういう事にしておこうか」


 二条晴良の指摘に恒興は少し焦る。

 恒興は二条晴良を調べた結果、決して清廉潔白の人ではないと見ていた。普通の人並みに物欲は有るし、稼ぎも欲している。ただ帝に対する忠誠は本物なので、そこさえ配慮すれば問題ないと思っていた。なので『賄賂』と指摘されて焦ったのだ。

 焦る恒興を見て二条晴良は少し笑った。つまりはからかったのである。恒興は心臓に悪いから勘弁してくれと思った。


「朝廷の利にならない油場銭の廃止はやぶさかではない。しかし問題が無い訳ではない」


「と、言いますと?」


 恒興の提案に二条晴良は『吝かではない』と答える。『吝か』の意味は消極的、嫌々である、行動に踏み切れない様を表す。それを『ではない』で打ち消すので、意味は「お前に言われるまでもなくやりたいよ」となる。つまり、やる気に満ちているという事だ。それくらいやりたかったが、出来ない事情があるのだ。


「比叡山の僧兵共だ。必ずや強訴に出るだろう。その対策は考えているのか?主上の安全が確保されておらねば話にならぬぞ」


 油場銭は比叡山の僧兵達の大きな収入源である。彼等が毎日、食っちゃ寝して遊んで暮らせる源なのである。その稼ぎを突然奪われて黙っている訳がない。必ず神輿を担いで朝廷に強訴しに来るだろう。

 強訴のやり方というのは僧兵や神人が神輿を担いで行進する。この神輿の進行を妨げる者は神仏の邪魔をする不届き者という事で仏罰や神罰という名の暴力が与えられる。その後も行進を続けて皇居を取り囲み、物音叫び声を上げ続ける。ここからは楽しい我慢比べの始まりである。あとは帝がを上げるまで騒ぎ続ける訳だ。強訴側は決して退かないし、邪魔をすれば暴力に訴える。皇居内に侵入する場合もあるので、朝廷が早々に屈するケースばかりだ。

 もちろん恒興も強訴対策は練ってある。まあ、暴力には更なる暴力で対抗するだけだ。


「はい。強訴対策に織田家の精兵400名を皇居外周に配置致しますニャー」


「400人か。足りるのか?」


「全員が一騎当千といかずとも選りすぐりで御座いますニャー。僧兵など物の数ではありません。帝の御住居の近くですので流血はなるべく避けますニャー」


「そこまで自信があるのなら任せるとしよう」


 恒興は強訴対策に最強の切り札を切る。ここは手加減する場面ではない。そう、池田家親衛隊の投入だ。総勢500人中の400人を皇居警護に就ける。恒興の護衛は100人でも問題はないはずだ。

 この池田家親衛隊は元々、織田信長の親衛隊であった。信長が下級武士の子弟の就職先として、池田恒興を隊長に据えて作られた。その為、かなり武芸に偏った集団であり、農作業はおろか侍の仕事すらしていない。毎日、武芸を磨いている集団なのだ。しかし信長は新たに母衣衆なる親衛隊を作ったので、彼等は恒興にそのまま払い下げとなった。恒興は親衛隊の在り方を変えず、そのまま運用していた。更に恒興は大きく出世したので、親衛隊を持つに相応しい人物となった。なので池田家親衛隊は実力を落とす事なく存在している。可児才蔵や可児六郎という本物の強者を迎えた事で、以前より強化されたと言っていいだろう。今回は可児六郎に400人を預ける予定である。皇居の警護任務に可児才蔵が向いているとは思えないし、万が一があっては困るどころの話ではないからだ。

 では400人で大勢の僧兵に勝てるのか?まあ、楽勝であろう。実は僧兵が強いというのは地方の話であって、都周辺の僧兵はだいたい弱い。特に比叡山の麓で食っちゃ寝しながら遊んで暮らしている僧兵は弱い。しっかり食べているので身体は大きいだろう。しかし鍛えてはいないので、結局は痩せた農民庶民を脅すしか能が無い。命を懸けて戦うなど出来る訳もない。

 それが一番表れた戦いが『法住寺合戦』という。これは平安末期、後白河法皇と木曽義仲の戦いである。後白河法皇は摂津源氏や比叡山の僧兵などを味方に付け、総勢2万もの大軍勢を率いた。天台座主も味方に付き、殆どが比叡山の僧兵であったという。結果は木曽義仲軍700騎に完膚無きまでに蹂躙された。後白河法皇は捕らえられ、協力した親王や天台座主は討ち取られるとかいう、とんでもない大敗北を喫した。一番の要因となったのが『僧兵が怖じけて逃げた』である。毎日食っちゃ寝して遊んで暮らす彼等に戦う覚悟など無かったのだ。大多数の比叡山僧兵が逃げ出した為、現場は混乱し摂津源氏も巻き込まれて崩壊。2万人が700人に敗けるとかいう大惨事となった。比叡山の悪僧達の質など、この頃から全く変わっていない。強い僧兵など全体の1%いたらいい方ではなかろうか。

 池田家親衛隊はその強い僧兵より更に強い上に400人も居るので敗北は無いと恒興は信じている。


「ところで関白殿下。一つお聞きしてもよろしいですかニャー?」


「何かな。私の機嫌が良い内に聞くといいだろう」


 恒興はついでとばかりに、あの事について聞いてみる事にした。あの事とは小西隆佐に依頼された綸旨の撤回の件である。関白ほどの高位公卿が協力してくれたら、撤回も叶うのではないかと期待したのだ。


「はっ、お言葉に甘えまして。実は知り合いの商人に『うすはらい』の綸旨を何とか出来ないかと依頼を受けましてニャー」


「ふむ、『大うすはらい』か。それは今回の件に影響有る事か?」


「何分、大きな商家であります故、協力が得られなくなりますと少なくない影響がありますニャー」


「そうか、ならば真面目に考えるとしようか」


(真面目に考える気無かったんかーい!この人はなんか捉え所が無いニャー)


 恒興が小西隆佐から受けた依頼は『大うすはらい』の撤回である。これが存在する為、ルイス・フロイスなどの南蛮人宣教師が京の都に入れなくなったのだ。キリスト教の布教拡大を目指す彼等は日の本の首都での活動を切望している。それを堺会合衆の豪商である小西隆佐が支援している訳だ。

 恒興としても小西隆佐の不興を買うのは避けたい。堺会合衆の中でもかなりの親織田家であるし、西国に広く商売をしている隆佐にも油を売ってきて欲しいのだ。真面目に考えると答える二条晴良に恒興はツッコミそうになる。


「上野介は『大うすはらい』の内容を知っておるかね?」


「いいえ。噂から南蛮の伴天連の宣教師を京の都から追放する命令だと思っておりますニャー」


「確かに、その認識は間違っている。正確には『悪しき毛唐人けとうじんの都への侵入を禁じる』というものだ。別に宣教師を狙い撃ちにしているのではない」


「南蛮人、全員ですか!?それじゃ抜け道を探す事も出来ませんニャ」


 毛唐人とは南蛮人と同義語ではあるが、差別用語とされている。何故かと言えば、身分の高い人が使っていたからだ。こういう人達は最初から相手を見下しているので、毛唐人がそのまま差別用語になった様だ。身分の低い武家を犬扱いして人間扱いはしない彼等に悪気など存在していない。ごく自然な事だと思っている。

 そして『大うすはらい』の範囲はキリスト教とかの関係だけではなく、南蛮人全員であった。これでは布教抜きで入京させる事も出来ない。信長と面会させる為には、信長から出向く必要がある。どう説得したものか、と恒興は思案する。仔細は分からないが、南蛮人宣教師は信長と会う事で布教を認められたからだ。

 思い悩む恒興に二条晴良はあっさり言う。


「何を言っている。大きな抜け道が有るではないか」


「はい?」


「『悪しき』毛唐人、と言っただろう。ならば『悪しくない』毛唐人なら良いのだ」


(ニャに、その屁理屈!?)


 二条晴良の言う通りではあるのだが、それは言葉遊びの屁理屈である。そんな屁理屈が通用する法令とはいったい何なのか?恒興は頭を抱えたくなる。


「まあ、この抜け道はワザと残したのだがな。松永弾正に対する当て付けだ」


「ニャるほど、意趣返しでしたか、はは」


 この屁理屈の意味は松永久秀に対する『嫌がらせ』であった。松永久秀や三好三人衆の武力に脅された朝廷は彼の願いを叶える振りをして大穴を仕掛けておいたのだ。それが『悪しき』という形容詞の意味だ。本気で南蛮人を追い払うつもりなら、そんな形容詞は必要ないのだから。


「やり方は簡単だ。織田弾正忠が意中の毛唐人に許可を出せばよい。朝廷はそれを追認する。これだけだ」


「確かに簡単でありますニャー」


『悪しくない』南蛮人の判断は信長がしてもいいらしい。その後、朝廷が追認して許可を出せば問題はないとの事。これならルイス・フロイスが入京して信長と会えば大丈夫だろう。


「上野介、一つだけ約束して貰う。毛唐人を上京に入れる事を禁ずる。それさえ守れば許可を出す」


「下京のみという事ですニャー。南蛮人はお嫌いですか?」


「嫌いではない。好く理由もない。天照大神を信奉している我等が『でうす』などという訳の分からぬものを信奉する輩と話す事は無い。それだけだ」


 二条晴良は南蛮人に興味がない。だから『大うすはらい』の綸旨を出す事も大して反対もしていない。信じる神が違うというのは口実に過ぎない。実のところは信じる『文化』が違うからだ。自分達が保有する『文化』こそ最高であると信じている公家は、異なる『文化』を持つ南蛮人を積極的に受け入れる気は無いのだ。もしも自分達の『文化』が否定される事になったら、天子とは何か?価値はあるのか?と疑問を呈されかねない。

 これは恒興も理解っている。公家の文化を信長なりの権力者が有り難がる事で、諸国大名に価値の有るモノだと示している。それが日の本を纏める無形の力にもなっているのだ。

 この日の本古来からの『文化』を否定したならば、乱世はより酷くなる。そしてお隣の王朝の様にゴロツキや奴隷が皇帝になれる程の乱世が来るのだ。どれ程の血が流れるのか、想像も出来ない。


「はっ、了解致しましたニャー。上京には立ち入らぬ様にキツく言い渡しますニャ」


「それで良い。無駄な争いは好まぬからな」


 恒興は南蛮人が上京に立ち入らない様に規制すると約束する。この日の本の秩序の根幹はキズ付けるなという二条晴良の考えは理解出来るからだ。

 この後、恒興は二条邸から退出した。次は山科言継の邸宅に向かう。彼にも同じ話をする予定だ。見返りとして、油の税務監査役を山科家で担当して貰う感じだ。

 恒興はもう少し頑張れば犬山に帰れると息を入れた。もう少しで幸鶴丸やせんに会えるのだと二人の顔を思い出していた。


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 この日、朝廷では正親町帝の御前に朝臣が集い、朝儀が行われていた。その終わり頃を見計らい、二条晴良は発言した。


「主上。臣、二条晴良が奏上致します」


「関白よ。何か」


 正親町帝は穏やかな声で二条晴良に応える。織田信長が上洛して以来、朝廷では昔ながらの朝儀が復活していた。信長が資金を出し、信長が都の治安を守っているので、朝廷は次第に在るべき姿を取り戻していた。正親町帝はこれを喜んでいた。


「はっ。平安の御世より続きし油場銭でありますが、時代の流れと共に今世に合わなくなっております」


「そうなのか」


「はい。油場銭は日の本が畿内のみであった頃の法令なのです。しかしながら今の日の本は畿内だけではありませぬ。その為、法令を悪用し民草を苦しめる者が後を絶ちませぬ」


「何と、その様な事になっておったのか」


「民草の現状をよく知る織田弾正忠から訴えがありました。油場銭を廃止し新たな油税を制定すべきとの事」


 二条晴良は油場銭を『税金』として話す。平安時代に制定された税金であると。

 正親町帝は至って平静に聞いてはいるが、心中は「???」である。実は教えられていないのだ。油場銭の話は公家の中でも二条晴良や山科言継の様な朝廷の実務に携わる者しか知らない。何しろ今まで一銭たりとも納められた事がない税金など認識出来る訳がない。

 二条晴良は多少誤魔化しを入れながら説明する。油場銭を知らない帝や公家は、そういう物があったのかとしか思わない。油場銭を知る者にとっては朝廷の恥に当たる部分なので、二条晴良の誤魔化しを指摘する者もいない。真実などを言っても恥でしかないからだ。

 最後に二条晴良は油税の刷新を求め、正親町帝に伏礼する。


「山科権大納言はどう考えるか?」


「織田弾正忠が提出した新しい油税は今世に即した物でおじゃります。運用すれば朝廷の財政に大きく寄与するでしょう。また油税を刷新する事は多くの民草を苦しみから救う事になりましょう。新たな油税に関しましては、試験を行い精査した上でより良い物を制定すべきと考えまする。おかみ、ご裁可を」


 正親町帝は財務に詳しい山科言継に意見を求める。山科言継にも恒興から油場銭撲滅計画が伝えられている。朝廷にとって屈辱でしかなく、1銭たりとも寄与しない油場銭など、此の世から消し去りたいと願って止まない物だ。山科言継は織田信長を支援してきた甲斐があったとまで思っている。故に彼も油税の刷新を求めた。


「そうか。では、朕の名を持って勅を下す。『油場銭を、廃止せよ』」


「「「ははーっ」」」


 遥か昔に認めさせられた油場銭という利権。朝廷は力を無くし、どうにも出来なかった。鎌倉幕府は都に興味は無かった。室町幕府は積極的に加担した。もう誰にもどうにも出来ないであろう油場銭は東からやって来た大名によって崩されようとしている。この好機を二条晴良も山科言継も逃す気はない。

 この日、帝が発した勅令により、油場銭は直ちに廃止となった。


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【あとがき】


 ウイニングポスト10が発売!買えば必ず小説は止まりますニャー。しかし新ナンバリングという事はエディット不可、所謂『無印』なんですよニャー。今回はマルゼンスキーから更に遡り、あのセクレタリアトやフォアゴー、サンデーサイレンスの父親であるヘイローが現役ニャんですよ。

 ですがエディット不可は資金繰りの問題が出ます。海外牧場早期開設は死亡フラグに為りかねないですニャー。また牧場も作り直しだし一周目は大変キツイです。

 只今、体験版をプレイ中ですが、う~ん、一年後まで待つか、悩みどころですニャー。(ゲームで苦労したくない派のべくのすけ)

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