諦めない事は大切な事
甲賀の郷の三雲屋敷。
ここには観音寺城を脱出した六角承禎と六角義治が匿われている。この屋敷の主人である三雲三郎左衛門定持は甲賀合議の結果を主君である六角承禎に報告していた。三雲定持は甲賀53家の一つだが、父親の代から六角家重臣としても名前を連ねている。それ故に定持は甲賀豪族というよりは六角家臣としての性格を強く持っており、六角承禎の事を主君と仰いでいる。これも六角家の長年の甲賀懐柔政策の成果と言えるだろう。
合議の結果を聞いた六角承禎は冷静に現実を受け止めた。
「そうか、甲賀は動けず、か」
「申し訳御座いませぬ、殿。この三雲定持、一生の不覚。しかし必ずや挽回して見せますので、暫しお待ちを!」
三雲定持はひたすらに頭を下げるが、六角承禎は気にしていないと手で制す。三雲定持が懸命に動いてくれたのは分かっているからだ。その上でこの結果になったのだから受け入れるしかない。
そうと判れば、次の行動に出なければならない。六角承禎たる者が六角家の再興を諦める訳にはいかないのだ。
「いや、よい。此度は相手が上手であった。それは認めねばなるまい。それにワシらは甲賀を出るつもりだ」
「殿、何故です?織田家と和議を結んでも、織田家の者は一切甲賀には入れませぬ。絶対に匿い切って見せますとも」
「定持、ワシはお前を信じておる。甲賀の者達も信じてはおるが、全ての者がお前と同じだとは言えんだろう。中には織田家に媚を売る者も今後は出るやも知れん」
「そ、それは……」
「これから織田家の圧力も増してくるはずだ。そんな気苦労を甲賀の皆にしてほしくはない。それにワシは六角家再興を諦める訳にはいかん。自分に出来る事を最大限行うつもりだ」
六角承禎は甲賀で安穏としている訳にはいかない。それに甲賀者が信用出来るといっても、それは今現在だけだ。未来は分からないし、織田信長に靡く者が出てもおかしくない。自分達が甲賀に居る限り、甲賀の者達は常に織田家からの誘惑に晒される。六角承禎の存在は甲賀にとって悪い影響が出てくるはずだ。
ならば即座に出るのが上策だろう。そうすれば甲賀との関係悪化は無く、蜂起時に合力して貰える。そして六角承禎は御家再興に向けて、存分に動ける。
「何を為さるおつもりで?」
「まずは比叡山延暦寺に赴く」
「比叡山に!?六角家と比叡山は長らく敵対しておりましたが、力を貸してくれるでしょうか?」
三雲定持が驚くのも無理は無い。六角家と比叡山延暦寺の敵対関係は数年数十年の話ではない。鎌倉時代の佐々木家が近江国に赴任した時からなので、優に4、5百年にも及ぶ。佐々木家というのは六角家の元の家名で『源姓佐々木氏六角家』が正式となる。つまり六角家が誕生する前から既に敵対しているのである。
「たしかにな。しかし比叡山と係争した地域は今や織田家の支配下、織田信長が領地を譲るとは考えにくい。となれば、既に比叡山と敵対しているかも知れん」
「それは有り得ますな」
「それに六角家が焼いてやりたいほど敵対した比叡山にこのワシが行くとは、誰にも予想出来ないだろう。あの池田恒興とやらもワシの姿を探して右往左往するに違いないわ」
六角家と比叡山延暦寺が争っている問題は主に領土問題である。特に南近江坂本近辺が特に多い。
その昔、比叡山延暦寺は多数の荘園を保有していた。平安期など日の本の半分が寺社領と言われる程になった。そして武士が発生し、源頼朝が全国に地頭を配置して大部分を奪い取ったのである。これを正道に戻したと見るか、押領と見るかは人によるだろう。少なくとも比叡山は押領されたと騒ぎ立て、近江国に赴任してきた佐々木家との闘争が始まった。佐々木家が六角家と京極家に分かれても収まる事はなく争い続けていた。
六角家が数百年に渡り戦い続けている比叡山に自分が行くとは誰も予測は出来ないと承禎は言う。六角家 (佐々木家)が比叡山と数百年に渡って争っているのは日の本の常識に入る程だからだ。
「では、殿。この三雲定持も比叡山までお伴致します」
「それはよい、定持よ」
「しかし……」
「お前がワシに手を貸した事が織田信長に気付かれれば、甲賀に不利益となるやも知れん。ワシは甲賀には無傷でいてほしいのだ。……御家再興の戦いを始めた時に、手を貸して貰える様にな」
「殿……」
「長らく世話になったな。甲賀の者達にもよろしく伝えてくれ」
「ははっ!」
六角承禎は三雲定持の護衛を断って甲賀を出る事にした。定持が六角家に協力している事が織田家に発覚したら、流石に睨まれる事になる。そうなると後々に三雲家が織田信長に潰される事態になるかも知れない。
だから承禎は定持の護衛を断った。六角家再興の蜂起はまだ先になる。その時のために三雲家には無事でいて欲しいからだ。
三雲定持は甲賀の出口まで主君達を見送った。
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甲賀を出た六角承禎一行は比叡山を目指した。隠密性を重視して六角承禎、六角義治の他は10人程度しか居ない。夜の闇の中を進み、夜明け前には比叡山に着く予定である。
この強行的な移動に不安な六角義治は自分の父親に問い掛ける。
「良かったのですか、父上?甲賀に居れば安全なはずなのに」
「ワシはそこまで楽天家にはなれん。今回の戦いだって、甲賀から裏切り者が出ているはずだ。でなければ、甲賀の全ての道を塞ぐなど不可能だ」
「甲賀内にも裏切り者が!?」
「そこまでは判らん。だが今は居なくとも、この後は出てくるだろうな。織田信長もそういう風に外交攻勢を仕向けてくるはずだ。だから今の内に出る。追い詰められてからでは遅いからな」
六角承禎は甲賀が次第に織田家側に傾いていくと予測していた。今回の戦いとて池田恒興は甲賀に到る道を全て塞いだ。そんな芸当は甲賀者の協力無くして出来る訳がないのだ。つまり裏切り者は既に出ている。この後は増えていく一方だろう。
だから六角承禎は急いで甲賀を出た。裏切り者が増えて追い詰められる前に行動を起こす必要があったのだ。
「なるほど。しかし比叡山は力を貸してくれるのでしょうか?」
「それは一筋縄では行かんだろう。そもそも比叡山は動くまでに時間が掛かる。かの天文の乱の時、細川晴元が三好元長を始末させるのに使ったのが一向一揆だ。だが一向一揆は制御不能となり暴れ出した。当初、それに対抗するのは比叡山だったのだが、あまりの動きの遅さで間に合わんかったのだ。そこで細川晴元は代役として
「マジで鬼畜ですね、細川晴元は」
「ヤツは自分の保身しか興味がなく、周りの被害など一顧だにせん。一応、ワシの義兄に当たるのだが、ヤツとだけは関わりたくないな。何にしても比叡山は確実に匿ってはくれるはずだ。これ以上はない隠れ家と言えるな」
天文の乱の時、細川晴元は暴れ出した一向一揆を撃破する為に比叡山を頼った。比叡山延暦寺は浄土真宗本願寺派とは不倶戴天の敵と言える程に敵対していたので、即座に協力を約束した。しかし比叡山延暦寺はそこから全国に散らばっている僧兵を集めるので時間的に全然間に合わなかった。
そのため代わりに駆り出されのが法華宗である。彼等は六角家と力を合わせて一向一揆を撃退し、山科本願寺を灰燼とし、本願寺法主を石山本願寺まで追い詰めた。石山本願寺を攻め落とす事は出来なかったが一向一揆は撃退した。そんな満身創痍の法華宗に細川晴元は準備が整った比叡山の僧兵をけしかけたのである。比叡山延暦寺は浄土真宗本願寺派もだが、法華宗も不倶戴天の敵なのである。いや、新興宗派はだいたい敵である。結果として法華宗の本山である『洛中法華二十一ヶ山』は京の都と共に灰燼に帰した。『洛中』とは『都の中』を意味しているのだから。
一応、細川晴元は六角承禎の義兄になっている。承禎の姉が晴元に嫁いでいるからだ。ただ、六角承禎としては細川晴元とは関わりたくないと考えている。
「では、比叡山に行く意味は隠れる為ですか?」
「そうだ。時間稼ぎと我が家臣や豪族と連絡を取り、蜂起を促す為だな。比叡山が織田家に靡く事はないから安全に工作出来る訳だ。ハッハッハ」
「ニャるほど〜。そうやってゲリラ活動ってか。させると思うのかニャー?」
六角承禎は機嫌良く、今後の見通しを話す。彼は動きの遅い比叡山延暦寺が動くとは思っていない。ただ匿ってはくれると確信している。もちろん係争地の譲歩などを迫られるだろうが、現在は織田家に接収されているので口約束程度だ。
何程の事もないと笑う六角承禎に応えたのは、草むらから出てきた見知らぬ男のものだった。
「だ、誰だ、貴様!?」
「織田家臣犬山城主、池田勝三郎恒興だニャー。待っとったぞ、六角承禎!」
「バカな!?池田恒興はワシが比叡山に行くとは読めず右往左往しとるはずではないのか!?」
「……何でニャーが右往左往してるって確定してるんだよ?お前が比叡山に行くなんて最初からお見通しだニャー!」(前世でもそうしてたからニャー)
名乗る恒興と共に兵士達が四方八方から出てくる。彼等はこの比叡山に到る道で網を張っていた。もちろん別ルートにも配置している。
六角承禎は街道をのこのことやってくる。それだけは恒興も確信していた。六角家の様な名族大名が乱波者みたいに道無き道を進むなど有り得ない。きっと堂々と街道を進む。隠れるといっても夜の闇に紛れる程度だと。
そして恒興が六角承禎の行き先が比叡山だと見切っていた理由。それは『前世の記憶』である。彼は前世でも甲賀を出てから比叡山に逃げ延びたのだ。織田軍は六角承禎が比叡山に行くとは予想しておらず取り逃がした経緯がある。だから恒興は確信を持って準備万端で待ち構えていたのだ。
「熊手部隊、前に出ろニャー!」
「「「おおっ!」」」
熊手というのは幾つか意味が違う。掃除用具としての熊手、縁起物としての熊手、そして武器としての熊手だ。武器としての熊手は槍の先にL字型の鉄杭を扇状に並べた物を付けている。このL字型の鉄杭に相手の衣服などを絡めて引き倒す捕縛専用武器である。更に利点があり、扇状に拡がった熊手の部分で刀や槍などの武器を搦め取れる。集団で使うと特に効果が高くなる。
六角承禎と六角義治を守ろうとする護衛と池田家親衛隊がぶつかるが勝負にならない。直ぐに武器を取り上げられ、衣服を絡め取られて組伏せられる。
「父上、このままでは!」
「義治、馬から降りるぞ」
「お、諦めたかニャー?」
不利を悟った六角承禎は即座に馬を降りる。そのまま馬で強行突破すると思っていた恒興は諦めたか、と感じた。もし強行突破していても馬の脚を引っ掛ける縄罠が周辺に配置されているので逃げられないが、落馬させる事になるので万が一がある。それを考えれば諦めてくれたのは幸運だと恒興は気を抜いた。
だが六角承禎は諦めてなどいなかった。馬から降りた彼は振り向き様に恐ろしい速さで弓を構えて恒興目掛けて矢を放った。
「アホ抜かせ!貴様を射抜いて悠々と逃げ
「ニャにぃ!?」
(弓を構えてからの動作が速過ぎる!?ダメだ、躱せない!?)
狙いなど着けている暇など無かった筈なのに、その矢は正確に恒興の顔面を射抜くコースで飛んでくる。完全に気を抜いていた恒興は回避が遅れて避けられない。恒興の周りがスローモーションになり矢もゆっくりと確実に飛んでくる。ゆっくりに見えるのに恒興は自分の身体が上手く動かない。周りに居る親衛隊員も動けていない。恒興は何となく気付く。このスローモーションは死ぬ時のヤツかと。
(い、嫌だ!ニャーはこんな所で死ぬ訳にはいかないんだ!)
瞬きにも満たない刹那、恒興は生にしがみつく。しかし矢は確実に進んで来て、恒興は身動きすら出来ない。周りも動かないスローな世界で恒興は必死に足掻くも矢は無情にも進み続けて、十文字の槍に叩き落とされた。
「殿、危ねえ!」
「おお、才蔵!助かったニャー……」
あのスローな世界でただ一人だけ動いていた人物、親衛隊長の可児才蔵が矢を叩き落としたのだ。
才蔵は全く油断していなかった。何故なら六角承禎の闘気がまるで衰えていなかったからだ。何かしてくる、才蔵はずっと身構えていたからこそ動けた。
もう少しで走馬灯まで見えそうだった恒興は九死に一生を拾ったと安堵した。
「親衛隊、殿を下げろ!囲んで壁になれ!コイツの相手は俺がする!」
「「「ははっ!」」」
可児才蔵は親衛隊に号令を掛けて六角承禎と対峙する。
「ほお、やるではないか。今のを打ち落とすとはな。ならばこれはどうだ!」
「はっ!なんの!」
「父上、私も加勢を!」
「義治、後ろだ!手練れがおるぞ!」
「お前か!?」
「気付かれましたか!?……くっ!」
六角義治も父親の加勢に入ろうとするが、承禎に言われ後ろから迫る手練れに気付く。親衛隊副隊長の可児六郎が才蔵とは反対側から攻めようとしていたのだ。それに気付いた義治は即座に矢を放つ。彼も父親同様に速射を行い六郎を牽制する。
「一気に決めてやるさ!」
「ワシがそれをさせる程弱いとでも思うか?甘いわ!」
「くそっ!進めねえ!」
何とか槍の間合いまで進もうとする才蔵だが、そこに承禎の連続速射が襲い掛かる。素早く正確な承禎の攻撃に才蔵は防戦一方に追い込まれ進めなくなる。
「そらそらそら!いつまでそうしていられるかな?何なら打ち落さずに躱してもよいぞ」
「俺が躱したら後ろのヤツに当たる様に放ってるくせに、よく言うぜ。くぬっ!」
(何でニャーが直接相手する大名はこんなヤツばかりニャんだよ。100人以上死傷させるヤツとか、弓で才蔵や六郎と渡り合うヤツとか。お前らは大名として何か間違ってるよ!)
六角承禎、義治親子の攻勢に池田家親衛隊最強の可児才蔵と可児六郎が苦戦する。その様子に恒興は頭を抱える。お前らは大名として、もっとやるべき事があるんじゃないのかと。そう言えば伊勢国の大名にもそんなヤツがいたなとも思い出した。
「ならば、これはどうだ?秘技・二本撃ち!!」
「ぐおっ!くうぅぅ……!やってくれんじゃねえか!」
「フハハハ、とうとう防ぎきれなくなったか?しかし悔しく思う必要はないぞ。この六角承禎の矢を防ぎ続けたのだからな。だが手負いとなった今、覚悟を決めるがいい。心配するな、お前ほどの男はなるべく苦しまぬ様に三途の川を渡してくれる!」
六角承禎が放った二本の矢の同時速射。才蔵は急所目掛けて飛んできた1本は叩き落とす。しかし同時に飛んできたもう1本の矢は右上腕部で受けざるを得なかった。一応、覚悟して受けたので才蔵が動じる事はなかったが。
才蔵の負傷を見た六角承禎は己の勝利を確信する。いくら達人と言えども負傷しては動きが鈍る。疲労も加速度的に増える筈だ。目の前の猛者にトドメをさすべく、承禎は腰の後ろから矢を取り出そうとする。
「……?あれ?あれあれ?矢が無い?おーい、義治~。ワシの矢が無いんだけど?」
「そんな連続速射してたら当たり前ですよ。因みに私ももう無いです」
承禎が矢を取り出そうとしたら、もう矢が無くなっていた。後ろにいる義治にも聞いてみるが、彼も既に撃ち尽くしていた。
それを聞いた才蔵はゆらりと六角承禎に近付いて来る。
「そうかい、じゃあ今度は俺の番か?」
「あ、いや、ちょっと矢を補充したいんだけど」
「俺が許すと思うか?」
「……」
「……」
「ひ、卑怯だぞ!丸腰の相手を襲うなど、武士の風上にも……」
「どの口が言うんだあぁぁぁ!!」
承禎の矢を数十本に渡り受け続けた才蔵のイライラは既に最頂点に達していた。それはそうだろう、一方的に矢で攻撃されていただけなのだから。その鬱憤を晴らすかの様に、才蔵は承禎に襲い掛かった。
「さて、こちらも終わらせましょうか」
「ま、待て、話せば分かる」
「ええ、ゆっくりお話しください。三途の川の
「ちょっとぉぉ!?この人キレてるんですけどー!助けてー!」
そして六角義治の矢を受け続けていた可児六郎もガチ切れしていた。襲い掛かる六郎から義治は助けを求めながら逃げ回った。
「おいぃぃぃ!才蔵、六郎、殺すニャよ!マジでー!それだけはホントにダメだからぁぁぁ!!」
「「分かってますよっ!!!」」
(良かったぁー。一応、冷静さも残ってたかニャー)
キレて襲い掛かる二人に恒興は慌てて注意する。そう、六角承禎も六角義治も殺してはならない。家督を奪うのは片方だけでも可能ではあるが、問題は『ここは合戦場ではない』という事だ。合戦なら大名が討死する事もあるが、今回はただの捕物である。ここで大名を殺してしまうのは明らかに風聞が悪い。暗殺と後ろ指を指される事態となりかねず、織田信長に悪影響を及ぼすだろう。それだけは何としても避けたい恒興だが、可児才蔵も六郎はそこは弁えている様でちゃんと返事は返した。
そして程なくして六角承禎と義治の親子は池田家親衛隊によって捕縛された。
六角親子が捕縛されたという事で、別ルートで待ち構えていた家老の土居宗珊が合流した。恒興から今後の指示を受けるためである。恒興自身はこのまま六角親子を京の都に居る織田信長の下に護送するからだ。
「殿の方の網に掛かりましたか。冴えておりますな」
「偶然だニャ。これでニャーも仕事が一段落した」
「では、いよいよ北近江ですな」
「ああ、そういう事だ。宗珊、ニャーはこのまま京の都に行くから、全軍を佐和山城に移動しておいてくれ」
六角親子を捕縛した事で南近江に関する作戦行動は終わった。甲賀の外で六角親子が勝手に捕まった事になるので、織田家は何の協定違反にもならず、甲賀豪族も文句が言えないだろう。
恒興の標的はいよいよ北近江へと向く。信長から恒興に下された『京極高吉の嫡男を取り戻せ』という命令を実行するためだ。恒興としてはその前に信長と会い、堺にも行きたいので全軍を土居宗珊に預ける。
「畏まりました。護衛には親衛隊の他、敏宗の飯尾衆精鋭と清良の鉄砲隊をお連れくだされ」
「総勢1500といったところかニャ。全員、具足が黒一色で統一されているから見栄えが良い。入京の伴とするのに相応しいニャー」
「そういう事です。柘植衆はお借りしますぞ。浅井家の動向を探りますので」
「分かったニャー、運用は宗珊に一任する。もしもニャーの帰還前に浅井長政が動くようなら、防衛指揮権も与える」
「はっ、お任せくだされ」
恒興は入京の伴として池田家親衛隊500、飯尾衆精鋭700、池田家鉄砲隊300が随伴する。着いてくる将は加藤政盛、飯尾敏宗、可児才蔵、可児六郎、土居清良となる。1500人の精鋭を連れていくのは入京時の見栄えもあるが、万が一にも六角親子を逃さない為でもある。
残りは全て土居宗珊の指揮の下、浅井家対策として佐和山城に移動する。尚、木下秀吉の軍団もそのまま池田軍団指揮下を続行する。佐和山城に居た丹羽長秀は解任となり、後に織田信長指揮下で入京するとの事。同時に柴田勝家も入京し、後に佐久間出羽と合流予定。代わりに森三佐が明智光秀の援護として坂本方面の制圧に動く。
「ではでは、お楽しみの入京と行きましょうかニャー。六・角・承・禎・殿?」
「くそおぉぉ、ワシは絶対に諦めんぞ!絶対に、絶対にだあぁぁぁ!!」
恒興は満面の笑みで後ろ手に縛られた六角承禎に声を掛ける。六角承禎は絶対に諦めないと夜の月に吠えた。
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商談から帰ってきた仰祇屋の主人である仁兵衛は仰祇屋の番頭に話しかける。以前に命令した件について報告させるためだ。
「永楽銭の集まりはどうか?」
「これは大旦那様。ご指示通り、気取られない様に進めております。このまま推移すれば効果が顕在化するのは半年後くらいかと」
「ふふふ、そうか。では相手の目を逸らす為にも、他の手も打たねばな」
仕掛けは順調だと聞かされた仰祇屋仁兵衛は他の手段も講じなければと思案する。そこに番頭が得てきた情報も報告される。
「そう言えば六角家当主が織田家に捕縛されたそうですよ」
「何という役立たずか、六角承禎。何処かに潜伏しておれば支援してやろうと思ったのだが。少々、計画が狂うな」
この報告には仁兵衛も僅かに顔を歪める。織田家を倒さねばならなくなったのだから六角親子にも支援する価値が産まれたというのに、既に捕まってしまったのだ。利用出来る駒が減ってしまったなと、少し残念そうだ。
「浅井家の赤尾清綱からは兵糧の援助を申し込まれました。先の鎌刃城戦で失った物資が多く、このままでは対織田家で兵士を集める事が出来ないと」
「浅井家が今まで全く動かなかったのは、そのせいか。武家というのはどうしてこうも考え無しに暴れるのか。分かった、援助してやれ」
浅井家重臣の赤尾清綱からは援助を要請されていた。彼によれば浅井家は先の鎌刃城攻略失敗の影響が大きく、織田家の脅威が目の前に来ても動けなかった。もっと早く言えと仁兵衛は目頭を押さえる。まあ、織田家との敵対が確定する以前に援助する謂れは無いが。
「比叡山はどうか?」
「相変わらずです。意見が纏まらない為、まともな返事が返ってきません」
「天文の乱の時と同様に時間が掛かるか」
そして比叡山は相変わらず内部の派閥争いが纏まらず返事すら返って来ない。誰に聞いたら返事が返って来るんだという状態なので仕方ないのかも知れない。
「中々に上手く行かないな。後手に回っている感じが否めない。出来れば織田信長の虚を突く様に浅井長政を動かしたいものだが」
「しかし甲賀を攻略した池田恒興の軍団が佐和山城に向かっているそうです。狙いは浅井家でしょう」
「うむむ、浅井長政への援助は厚くしておけ。浅井家が敗れて近江国が織田一強体制になるなど冗談ではない」
「はい、各商家にも通達を出します」
「長い年月を掛けて佐々木家を京極六角で分裂させたというのに。京極家が落ちぶれた後も六角浅井を焚き付けて敵対させてきた。この我らの苦労を織田信長はご破算にしようというのか。何とか阻止せねばな」
既に織田家は浅井家を狙っている。この事態は仁兵衛にとっても洒落にならない。彼が恐れているのは浅井長政が敗れる事ではない。というか、浅井家がどうなろうが仁兵衛にはどうでもよい。
問題はただ一つ、『近江国が一つの武家に支配される』これだけだ。近江国を一つの武家が統べるなど近江商人にとっては悪夢でしかない。近江国が分裂しているからこそ、彼等は好き勝手に出来るのだ。そのために近江商人は長い年月を掛けて佐々木家を六角家と京極家に分裂させて反目させたのだ。京極家が没落したのちは浅井家を支援して六角家による統一を阻んだ。本来、土一揆でしかない浅井家が大名クラスの力と組織力を有しているのは近江商人の支援によるものだ。そして土一揆の結束の対象は京極家であるはずなのに、六角家まで対象に入っているのも近江商人が手を回した結果だ。そうやって近江国の分裂を維持してきた。朝倉家が六角家の味方となり、浅井家を降した時も彼等が朝倉家を脅して退かせた。簡単だ、近江商人は敦賀を支配しているのだから。敦賀の売上は朝倉家の生命線に等しい。
「幕府から織田信長に対し私共の権利を認める様に再度通告して貰えた様ですが、織田信長は拒否したそうです。近江国の統帥権は自分にあると」
「だろうな。やはり織田信長は自分が幕府の内側に居るとは考えていないか。ふぅ、骨が折れる話ばかりだな」
「あとは、幕府の細川晴元様から大旦那様に話があるとの事で時間を作って欲しいと」
「細川……晴元……だと」
「如何致しますか?」
「あの男は危険だ。今は適当な理由を作って忙しいと言っておけ」
「はい、畏まりました」
(細川晴元か。追い詰められない限りは手を組みたくない。敵も味方も関係ない者まで破滅させる奴だからな。しかし本願寺との交渉には使えるか。日の本最強の朝倉家を動かすなら加賀国をどうにかせねばならない。悩み所だな)
細川晴元の名前を聞いては流石の仰祇屋仁兵衛も身構える。彼ほど『破滅』という言葉が似合う人間はいない。しかも敵も味方も関係なくとも破滅させる質の悪さである。しかし細川晴元は浄土真宗本願寺派の法主と相婿の関係である。戦国最強の一家である朝倉家を動かすなら、しつこく越前に侵攻してくる加賀国の一向一揆を抑えなければならない。仰祇屋仁兵衛は頭を悩ませた。
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【あとがき】
新しくリリースされたPCゲーム タワーオブファンタジーをやっておりましたニャー。かなり面白いゲームでしたが2週間で引退しました。理由はべくのすけのPCの性能が足りませんでした (笑)グラボが致命的で推奨環境で10万くらい必須環境でも2、3万は必要な様で、現状だとマルチの様な処理の重い場面で強制終了しますニャー。マルチに参加してくれた人に迷惑だし、ゲーム一つに数万円掛けるのかーと思うと無課金のまま引退を決めましたニャー。それを考えるとPSは偉大だニャーと思います。
仰祇屋仁兵衛の勘違い。
彼の中では一向一揆30万にたった1万で勝った朝倉家が最強で、動きさえすれば織田家も鎧袖一触で敵にすらならないと思っています。商人は数ばかりを見て、あまり個人を評価しない傾向があります。武家の場合は朝倉宗滴さんが居たからこそ勝てたという評価で、誰でも勝てたなどとは思いません。この辺りが商人と武家の考えの差ですニャー。
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