閑話 当主のお仕事

 小堤山城に戻った恒興は部隊に休息を命じたので少し暇が出来た。そこで恒興は筒井順慶の様子を見に行く。彼が何時、犬山に出発するのか気になったからだ。


「順慶、いつ犬山に行くんだニャ?ここは一応、戦場だから長居させる訳にいかないんだが」


「今、左近と右近が土居さんに会ってるから明日じゃないかな」


 現在、筒井順慶が部屋で待機しているのは共に犬山へ行く予定の島左近と松倉右近を待っているからだ。二人はこれから世話になる池田家家老の土居宗珊の所に挨拶に行っている。彼等は今回の戦に参加しない。急に加えても編成出来る兵士はいないからだ。なので筒井順慶と犬山へ行く予定となっている。


「そうか。犬山の方は心配ニャい。全て大谷休伯が整えている手筈だ」


「うん、ありがとう……ふう」


「ニャんだ?寂しくなったか?」


 少し物憂げな表情を見せた順慶を恒興は寂しいのかと問う。まだ十代前半の彼が住み馴れた故郷を離れるのだから仕方ないとも思う。


「あんなんでも十年近く過ごしたからねー。武家の当主としての仕事をもっと上手く出来ていれば、少しは尊敬されたのかなーってちょっと思うのさ」


「まあ、それはあるだろうニャ。仕事しねー奴が尊敬されるなんて、まず無いし。そう思っただけでも成長したんじゃないか」


 順慶の悩みは自分が筒井家の当主として尊敬されてない感じがしていた事。当主の仕事を上手くこなせればなと。

 恒興もこれは同意だ。順慶も立派な当主になりたいんだなと、彼の事を少し感心した。


「そうかな〜。でさ、当主の仕事についての質問があるんだけど」


「おう、ニャんだ?ニャーに答えられる限りで答えるぞ」


「うん、まずは……当主って何をすればいいの?」


「そこからかニャー!!?」


 ここで順慶が何もしてなかった事が判明する。当主の仕事内容を何も知らなかった。その事実に恒興は驚愕し、そりゃ尊敬されねーよと納得した。

 気を取り直して恒興は説明を開始する。


「ニャー達、武家の当主の仕事はいろいろある。村を訪問したり、工事現場を視察したりな。その中でも特に重要でどの武家でもやるのが『訴訟事務』の処理だニャ」


 村の訪問と言うのは所謂、『顔を売る』という事である。自分が支配者だと教え、村長と話をするためだ。領地統治の基本とも言える。

 工事現場の視察はかなり頻繁に行う。領主自身が大金を使ってやるのだから気になるのは当然だが、領主が姿を見せる事で作業員を頑張らせる目的もある。

 それ以上に重要な当主の仕事が『訴訟事務』である。所謂、裁量権の行使である。


「訴訟?裁判って事かい?」


「ああ、そうだ。裁定とか裁量とも言うニャ」


「恒興くんは裁判官なのかー」


「ん、判官はんがんの事か?まあ、そう言えるニャ。これは武家が発生した元の一つだからニャ。疎かには出来ない」


 判官とは朝廷の役職の一つで治安維持活動及び犯罪者の逮捕処罰を行う。現代でいうなら裁判官と警察を合わせた様な役職である。検非違使も判官の一つで、就任した源義経は『九郎判官』と呼ばれた。


「武家の元?」


「ああ、武家は裁判をする為に居る。何故なら『民衆が民衆を裁いてはいけない』からだ」


「民衆が裁いちゃいけないの?」


「当たり前だニャ。大勢の民衆が小勢の民衆を裁く事になるんだぞ。大勢の民衆が間違っていても数の暴力で押し通す様になる。そんな事になったら、もう法なんて機能しない。それに大勢が小勢を裁くなんて、ただのイジメだ。大量虐殺だって有り得るぞ」


「うへぇ、割と重要だ」


 武家が発生した背景には、民衆同士の揉め事を民衆が解決する事は難しい、という切実な事情があるからだ。人の多少によって優劣が変わり、優勢な方だけが勝つ様になる。そうなると法だろうと違法だろうと優勢側の意見だけが通る。事と次第によっては劣勢側は強制的に黙らされるだろう。大量殺戮という手段で。

 だから武士が必要になった。優勢側も劣勢側もまとめて上回る武力を持ち、その力を背景に法を機能させる存在が。これが在地勢力として大名や豪族となった。


「村内までなら村長が決めるでいいんだ。だが村と村の争い以上の規模になれば、ニャー達が出ないと収まらない。なるべく双方の言い分を聞いて公平に裁くのが大事だニャ」


 村内で解決出来る細かい事柄に関しては村長に一任している。では村長は村内の独裁者かと言えばそうでもない。村長は元村人なので大抵の場合、学が無い。文字も読めない。そのため、村内にある寺の住職が村長の相談役になる事が多い。これが日の本の何処にでも寺がある理由にもなっている。


「それが当主の仕事なのかー」


「お前の場合は、たぶん叔父の筒井順政が全部やってたんだろうな。訴訟事務は覚悟を決めてやらないとツライからニャー」


「覚悟って?」


「お前は他人に死罪を言い渡せるのかニャ?」


「うっ、それは……」


「これは言えなきゃ困るぞ。そこで言葉に詰まる様じゃ、まだ無理だニャ」


 要は判決として誰かに死罪を言えるのか?自分の決断で命を奪う事が出来るのか?当主が裁判を行うならこの覚悟が必要である。

 これは精神的に悪い為、子供にはやらせないのが通例となり、当主が若年なら当主後見人が代行するのが常識となる。一般的には15歳以上で初陣を終えている、辺りが目安となる。


「え、えーとさ、どれくらいから死罪なのかなー?例えば、殺人事件。人一人殺したら罰はどれくらい?」


「殺し?私欲なら死罪だニャ」


 恒興はストレートに死罪だと答える。ただし私欲による殺人に限ると条件付きではある。


「いきなり死罪だったよ。……だったら武士なんてどうなるんだよ。戦争でたくさん殺してるじゃん」


「戦を含めるニャよ。ニャー達はお互い死を覚悟して『死合しあい』をしているんだ。『武士の観念』ってヤツがあって、戦場での出来事や恨みは持ち出さないものニャんだよ。ま、全員が徹底出来てる訳じゃないけどさ」


「そんなものなのかー」


 順慶は戦争をする武士は全員死罪になるんじゃないかと問うが、恒興からは『戦争は対象外』と返される。理想論ではあるが、武士の戦争というものは全員が死を覚悟して戦い命の奪い合いをする。故に戦場に臨む武士は既に死人であり、『死』を商売していると捉える。つまり戦争している彼等は既に死人なのだから、恨みに思うのはおかしい。だから武士は戦争での恨みを外に持ち出さないのが当たり前となる。これが『武士の観念』となる。これはただの基本で、従わずに相手を恨む者も少なからずいる。

 なので戦争での出来事を裁判したりしない。のではあるが、織田信長は兵士による民衆への暴虐は罪とした。これはかなり画期的な考え方であった。


「例えば、稲葉彦だニャ。ニャーの横に居ただろ」


「ああ、あの紅い鎧の美人さんね」


「アイツの大叔父である稲葉常通を殺したのはニャーだ。ニャーがこの手で命を絶った」


 恒興は犬山城攻略の時に、織田軍を阻止すべく襲い掛かってきた猿啄城主の多治見頼吉と稲葉彦の大叔父である稲葉常通と交戦した。そして多治見頼吉を佐々成政が討ち取り、稲葉常通を恒興が討ち取った。


「え?それで恨まれないの?」


「彦に聞いた事はあるニャー。そしたら「大叔父は強かったか?」と聞かれた。殺されかけた、と返答したら「ならば良い」と言われたニャ」


「どゆこと?」


「大叔父が立派に戦って死んだのであれば良い、という意味だろうニャー。更に討ち取ったニャーはその後、犬山城主に出世してるんだから、大叔父の死が無駄になってないって事だ。それを彦が恨みに思うのは大叔父の死を汚す行為になる。こういうのが『武士の観念』ってヤツだ」


 もしも恒興が稲葉常通を「弱かった」「楽勝だった」と貶す様な発言をしているのなら、稲葉彦は恒興を許さないだろう。だが恒興は自分が危なかったと稲葉常通の強さを認めた。大叔父の名誉は汚されず、恒興の記憶からも消えない。生死の別は戦場の常なのだから恨むなどお門違い。更に恒興は稲葉常通を討ち取った功績を足掛かりに犬山城主にまで成長した。つまり彦の大叔父は池田恒興を育てたと言えるので総合的に『良い』と言ったのである。稲葉彦は大叔父が死んで良かったと思っているのではなく、上記の理由から良い死に場所を得たとは思っている。


「何か深いね。という事は、戦以外の殺人って事かー」


「ま、殺人理由は私欲か怨恨が大半だからニャ。怨恨の場合は詳しく調べる。仇討ちが含まれるしニャー。仇討ちは推奨する地域もあるから困るんだよ」


「私欲の場合は人一人でも死罪確定と。結構厳しく感じるなぁ」


「順慶、これは被害者人数の問題じゃないんだニャ。人間は人を私欲を理由に殺した時、けだものに堕ちる。たがが外れちまうんだ。そうなったらもう次からは躊躇わなくなるぞ。理由さえ有れば人殺しが容認されるんだからな」


 人が私欲を理由に人を殺害する。一番多いのは金銭財産目当てであろう。これは現代でも変わらない。理由はどうあれ、私欲により殺人に及ぶ事は突き詰めると『自分の為に殺人を容認する』事に他ならない。この理由付けに辿り着いた者はもう人を殺害する時に躊躇わなくなる。『自分の為』なら殺人を犯してもよいからだ。つまり箍が外れてしまったのである。


「そっか、見逃したら被害者が増えるからか。死罪より軽い罰は何があるの?」


「いろいろあるニャー。公衆の面前で百叩きとか杭に縛り付けて数日晒すとかある。それらは途中で死ぬ奴がいるからあまりやらない。他の所では額に入墨ってのもある」


「何それ」


「一回罪を犯す度に線を追加して、四回目には『犬』って文字が完成するらしいニャー」


「何かヒドイ」


 軽犯罪に対する罰は各地でいろいろなものが考案されている。公衆の面前で体罰を加えるものが最も多い。公衆の面前で行うのは、罪を犯すとこういう罰があるんだぞと全員に教えるためである。


「ニャーの所で主流なのは『鉄鉱山強制労働』だ。これはなかなか便利で罪の重さで刑期を変えられる。ニャーが犬山城主になった時から織田家領内の鉄鉱山を一つ任されてニャ。慢性的に人手不足だから罪人を送り込んでる」


「ヒドイの代名詞キター!そこに入ったが最期、生きては帰れないという、あの!」


「んな訳あるか。鉱山には『金堀衆かなほりしゅう』っていう鉱夫達が居る。罪人の管理は彼等に任せてるニャー。完全な力仕事だから、ムキムキになって帰ってくるけどな」


 犬山池田家で主流となっている罰則は『鉄鉱山強制労働』。これは恒興が犬山城主になった時に織田家領内の鉄鉱山の運営を一つ任されたので可能となった。食い逃げや万引きの様な軽犯罪なら数日〜数ヶ月、殺人を伴わない強盗や怨恨殺人の情状酌量措置などでは数年と罪の重さで刑期を変えられるので恒興は便利だという。

 こうした鉱山で専門に働く者達を『金堀衆かなほりしゅう』と呼ぶ。鉱山で罪人を安全に働かせるなら彼等に管理を任せる方が理に適っている。恒興とて死罪ではない罪人はしっかり罪を清算して帰ってこいと思っているので死んで欲しいとまでは思っていない。なので労働内容も金堀衆に一任している。因みに相場よりは安いが給料は出る、刑期終了時に貰える。これが無いと出所後に自分を立て直す事が出来ずに再犯となる可能性が上がると恒興は考えている。


「どうだ、順慶。出来そうかニャ?」


「無理だ、こんなん無理だよ。恒興くんは何歳からやってるの?」


「15歳からだニャ。犬山城主になってからは訴訟件数が激増したから、ニャーと加藤政盛でやってたけど手が足らなくてな。現在は農村関連は土居清良、開拓事業関連は大谷休伯、商業関連は土屋長安、治安関連は飯尾敏宗が主に担当している。やっているのは訴訟事務だけじゃないけどな。こういう役職を『奉行』って言うんだニャー。それ以外はニャーと政盛でやる体制で落ち着いたニャ」


 恒興は初陣自体は早めに済ましている。織田信長と同時であり、彼が15歳で初陣なので恒興は12歳で初陣となる。それでも大事を取って、養徳院は恒興が15歳になるまで家政を任せなかった。なので恒興は15歳まではずっと信長の近習をしていた。

 池田家が1500石の頃は持ち込まれる訴訟も少なく、恒興一人でも問題は無かった。犬山城主になった時に恒興と加藤政盛の2人体制にしたが全く足りなかった。結局、開拓地が拡がり、商業が発達し、産業が興り、人が集まるにつれ、訴訟件数は爆発的に増えて直ぐに恒興はパンクした。そこで農村関連は土居清良、開拓事業関連は大谷休伯、商業関連は土屋長安、治安関連は飯尾敏宗が主に担当する事で訴訟事務体制を整えた。彼等の担当に当て嵌まらない訴訟を恒興と政盛でやっている。言わば分業したのである。

 彼等は訴訟事務だけを行う訳ではない。担当箇所の管理運営も行う。この管理運営裁量を纏めて行う役職を『奉行』という。


「おお、『奉行』!そうか、遠山の金さんも大岡越前もお奉行様だから、裁判するのか!」


「金さん?越前?誰の事だニャ?」


「いや、江戸のお奉行様の話です」


「江戸って……、ニャんでそんな離れた場所の事を知っているんだか。順慶、お前の年齢は今どれくらいだニャ?」


「今年で13かな」


「だと少し早いニャー。訴訟事務は精神的にくるから子供のうちはしないのが普通だしな」


「ふぅ、助かったー」


 恒興にまだ早いと言われて、順慶は胸を撫で下ろす。聞いているだけで出来そうにないのが分かってしまったからだ。


「他にも『首実検』っていうのもあってニャー」


「字面から嫌な予感しかしないよ!?」


「戦勝会でな、敵将の首を検分して褒賞を確定する当主の大切なお仕事ニャんだが」


「やりたくねー!」


 こちらも戦国時代ならではの当主のお仕事『生首実況検分』、略して『首実検』である。家臣や兵士が持って来た生首を見て、どれくらいの価値がある武将だったのかを判別し、褒賞の多少を決める。所謂、『恩賞事務』の一つ。これが鎌倉時代から騒乱の元になってきた程の重大事である。

 ただ、これも裁量権の行使と一緒で、年齢制限が暗黙的に存在している。


「……安心しろ。これも子供のうちはやらせないから」


「よかったー。ホラー系は苦手だからさ」


「幼子だと精神的に悪いからニャ。中国地方の大大名で毛利元就って知っとるか?」


「知らない」


 遠山の金さんや大岡越前というよく分からない人物は知っているのに、大大名の毛利元就は知らない。筒井順慶の知識は偏りが激しいなと恒興は思う。


「そ、そうか。まあ、その毛利元就は本来次男で家を継ぐ立場ではなかった。兄貴が家を継いだ時に別の城に行って井上何とかにイジメられたらしいけど。だけど元就の兄貴は早逝してな、幼子の甥っ子が毛利家当主となり、毛利元就は当主後見人になった」


 毛利元就は毛利弘元の次男として産まれた。元就が10歳の時に父親が亡くなり、兄の毛利興元が家督を相続する。元就は猿掛城に移るが井上元盛が所領を横領し、元就は城を追い出される。住む場所さえ無かった元就は廃屋に住み、その様子を周りの人々は『乞食若殿』と笑ったという。これに対して兄の興元が何か手を打った形跡はない。

 ここで元就は謀略を使う資格『絶望』を手に入れたのではないかと思われる。

 だが、同時に希望もあった。父親の側室であった『杉の方』が元就を守り養育したのだ。彼女も毛利弘元が死去して城から追い出された状態だったが、元就と二人で生き抜いた。元就は杉の方を養母として終生敬ったという。

 それから時が過ぎて、元就も大人となり立派に仕事をする様になった。しかし毛利家当主の毛利興元は24歳で死去。残された嫡男は僅かに2歳であった。このため、毛利元就は2歳の甥っ子の後見人となった。


「ふーん」


「興味無さそうだニャー。その頃の毛利家はせいぜい一豪族程度でな。大大名の大内家と尼子家の間を行ったり来たりしてた。そんな折りに尼子家の戦勝会があった。そこで尼子家当主の尼子経久は毛利家当主に首実検を命令したんだ」


「あれ?毛利家当主って幼子なんじゃ……」


「ああ、当時で9歳だったそうだニャー。だから毛利元就は尼子経久に嘆願した。毛利家当主は幼子だから首実検は止めてほしいと。だが尼子経久は大大名たる尼子家に一豪族が意見出来ると思うなとはね退けた」


 この時の毛利家の事情は強い方に付く、勝つ方に付くといったお家存続を第一に行動している。そのため、ある時は大内家側に、またある時は尼子家側にと両家の間をふらふらしていた。そんな毛利家の態度を尼子経久は不快に思っていた。だから厳しく言ったのではないかと思う。だが、この命令は裏目に出る事になる。


「どうしてそこで意地を張るかなー。それで首実検は?」


「やったよ。やらないと叛逆になっちまうからニャー。毛利家の幼子当主は生首を見て吐いて倒れたそうだ」


「そりゃそうだよ」


「結局、幼子当主は帰った後も回復せず病気になって直ぐに亡くなったそうだ。その後、毛利家では跡目争いが起こり、結果として毛利元就が当主となった。そして毛利家は尼子家の味方はしなくなった」


「当たり前だって」


「話はまだ終わらねえニャ。当主になった毛利元就は勢力拡大を続け、遂に尼子家を滅ぼしてしまう。あの時、尼子経久が毛利元就に情けを掛けていれば、また未来は違ったかもニャー」


「因果応報ってヤツか」


「お、難しい言葉を知っているんだニャー。そういう話もあって幼子に首実検はやらせない。最低でも初陣を飾ってないとってのが常識だニャ」


 初陣で手柄首を挙げるのはかなり難しい。だが戦場の空気に、死の空気に慣れるために行う感じだろう。この空気に触れてからでないと、毛利元就の甥の様にトラウマを植え付けられてしまう訳だ。因みに初陣で手柄首を挙げた人物は近隣で評判となり、将来を期待されるそうだ。


「畿内の情勢が落ち着けば、お前も帰れるからニャ。それまではやる必要はない」


「帰りたくない……」


「ニャんでそこまで実家が嫌なんだよ?」


 恒興は帰ってから頑張れば大丈夫だと諭すが、順慶は俯いて帰りたくないという。そこまで実家での順慶の扱いは酷いのかと心配になったが、順慶は感情を爆発させる様に言い放つ。


「もう嫌なんだよ!毎日毎日、雑穀と山菜と豆腐のご飯はー!」


「?……ああ、順慶の家って武家というよりは『寺』だったニャー」


 勘違いされがちではあるが、筒井家というのは寺である。鎌倉時代に大和守護だった興福寺の宗徒となった豪族で、以降は寺として存在した。しかし戦国時代が近付くと武装化し、再豪族化し大名となった。だが本質は寺であり、一族で得度 (僧侶化)している割合が高い。だからではあるが、食事に肉と酒は出ない。


「そうなんだよ。もう精進料理は嫌だ、お肉が食べたいんだよー。もう十年近く食べてないんだよー」


 お肉の味を知らない人間はお肉が食べたくはならないだろう。だがこの筒井順慶の中身は現代からの転生者。前世では思う存分にお肉を食べている。だからこそ、お肉の味を知る順慶はもう堪えられなかったのだ。毎日、雑穀と山菜と豆腐の生活に。


「……もしかして、お前が犬山に行きたいって言い出したのは、まさかニャー……」


「その通り!犬山なら実家じゃないから堂々とお肉食べれるしね」


(当主が他家の人質に行く事案の中で『最も下らない理由』として日の本史に残りそうだニャー。とりあえずニャーは口外しないでおこう)


 そういえば自分も鮎の塩焼きを食べ損ねたなぁと恒興は思い出した。そして順慶の言う『お肉』は魚肉ではない事を恒興は気付いていなかった。


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【あとがき】


前回の解説は『性善説』の様ですニャー。間違えて覚えておりましたニャー。修正しますニャー。



太閤立志伝5DXの新規札が強いニャー。

『獅子奮迅』北条家特殊札で成功すると城門を一撃で開ける

『百発百中』本願寺・雑賀衆特殊札で鉄砲と砲撃5連射。もう『釣瓶撃ち』は要らん子に。伊賀衆の頭になった服部半蔵さんが意気揚々と石山本願寺に攻め込んだら1ターン目から法主様と頼廉さんが百発百中。半蔵さんの兵力が4000→2500になってビビった。

そして太閤立志伝の秀吉さんプレイでいつも感じる事。「観音寺城、堅すぎないかニャー。毎回棄てられるのに」

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