閑話 光秀の性格

 南近江大津付近の砦に明智光秀の軍団が居る。そこから坂本へ、最終的には堅田へ進もうとしていた。しかし砦の抵抗を受けて足止めされ、攻略を余儀なくされていた。

 その砦の攻略を終わらせた明智左馬助秀満は大将である明智光秀に報告する。


「大将、砦の制圧が完了したぜ」


「そうですか。秀満、ご苦労様です」


「まったく、勝てる訳ないのに何で抵抗してくるんだか」


 明智軍団の兵力は3000。それに対して六角方の砦は100人程度で最初から勝てる戦いではなかった。


「武家の意地、というものでしょうね。その犠牲となるのは、いつも民百姓ばかり。守将は捕らえましたか?」


「いや、逃げた。兵を見捨ててな」


「そうですか」


 光秀は嘆息する。武家の意地に付き合わされて犠牲になるのは民百姓からなる民兵ばかりで、それを強いた武士は戦況が悪化すれば逃げてしまう。

 何故に武家はそんなに傲慢なのか?彼等は他人の命を粗末にして、事が終わればいけしゃあしゃあと戻ってきて支配者面する。何処にそんな権利があるのだと思う。

 そんな何処にでもある現実を光秀はおかしいと思うと共に、付き合わされる民衆は可哀想だとも思う。


「しかし日にちは掛かったから急ごうぜ。池田殿から叱責状が来たんだろ」


「ええ、援軍として柴田勝家殿が来るそうです。何時来るかは分かりませんが」


 既に光秀に恒興から書状が届いている。そこには早く堅田へ進む事と柴田勝家を援軍に送る旨が綴られていた。そのため光秀は砦を攻略しながら柴田勝家を待っているのだが、彼は一向に現れる気配が無い。

 おかしいと思う光秀に、柴田衆の動向を知っている秀満が報告する。


「……柴田殿になら既に追い抜かれたぜ。そこら辺の砦を根刮ぎ攻略して、今頃は坂本じゃないかね」


「ぇー……」


「援軍といっても合流する訳じゃなく、勝手に動くんだろ。もういいから堅田に行こうぜ」


「分かりましたよ。軍団を纏めてください」


 柴田勝家は青地城を攻略すると恒興の指示により北上。膳所ぜぜ、大津と通り抜けて坂本へと向かった。光秀が気付く前にえものを求めて通り過ぎて行った。そして途中に在る砦は残らず攻め掛かられて、あっという間に落城していった。

 その様を見ていた秀満はまるで猛獣だなと評した。


「と、その前に今回の被害は?」


「大した事はない。死者15人負傷60人くらいだ」


 光秀は秀満に被害者数を聞くと申し訳無さそうな顔になり、陣に置いてある机に向かう。そして紙と筆を取り出して一言。


「15人ですか。ではその家族に『お悔みの手紙』を書かねば!」


「……はあ、左様か」


「『このたびのご逝去を悼み、 謹んでお悔やみ申しあげますとともに、 心よりご冥福をお祈り申し上げます。貴方の夫は織田家の為に勇敢に戦い、その命を落とされました。全てはこの明智十兵衛の不徳の致す所。彼の献身を無駄にしない様、努めていく所存で御座います。つきましては……』」


 一心不乱に手紙を書く光秀。その様子に秀満はまたかと嘆息する。


(どんな長文を書くつもりだ?農民は読めるのか?まったく従兄殿は辛気臭いなぁ。兵を大切にするのはいいが、そのせいで強攻が出来ないし。部下や兵が死んだら、一々お悔みの手紙を書くし。……プッツンきたら後先考えず突撃するんだが)


 光秀が『お悔みの手紙』を書くのはいつもの事である。正直な所、明智秀満は従兄に当たる光秀のこの癖は辟易していた。

 明智光秀という人物は民を大切に扱っている。それはいいのだ、横暴な領主で民衆の支持を得られないよりは。問題は戦の時までそれを持ち出している事だ。

 結局、こんな小さな砦に時間が掛かったのも、被害を嫌った光秀が強攻を指示しなかったからだ。強攻しなかったからといって人が死なない訳ではない。寧ろ、短時間で終わらせた方が被害が少ない時もある。

 そんな辛気臭い従兄の癖はどうにかしないとなと秀満は考えていた。


(こんな事してたら、また池田殿から叱責が来るんじゃなかろうか……)


 秀満の予想は的を射ている。柴田衆を送ったのに明智衆が動いていない事に業を煮やした恒興は『さっさと堅田に行けっつってんだろニャー!いつまでも遊んでんじゃねぇギャ!』と手紙を送ったという。


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【あとがき】

恒「この話は何ニャ?」

べ「『南北山城軍記』に載っていた逸話だったと思う。それを本に作成した閑話かな。そこから読み解くに明智光秀さんという人物は才能は有るものの、涙脆く民の死に一々嘆く人柄らしい。その反面、民を死に追いやる武家や仏僧には激しい怒りを持っていたとも。だからこそ、それ等を抑え込む術を探していたのではないかなとべくのすけは考える」

恒「現代人なら理解出来る考え方だけど、戦国では異端な考え方だニャー。戦国時代は武家ありき、寺ありきで民衆はその下。自分達は上に逆らったり下剋上したりするのに民衆はダメという社会だからニャー」

べ「そういう意味では先進的な思想の持ち主かもね」


べ「のぶやぼ大志は初めてプレイしたけど面白いねえ。商圏、農兵と足軽、流民……新しい要素がかなりある。慣れるまで苦労はしたけど。ただ武将は減った様な気がするよ」

恒「例えば誰ニャ?」

べ「池田元助くん」

恒「ニャーの嫡男がー!?」

光「それは可哀想にね」

べ「最上義康くんも居ない」

光「何故なんだー!?ウチの(元)嫡男がー!?」

べ「ただ農兵<足軽は賛否両論が有りそうだね。足軽が農兵より強いなら『金ヶ崎の退き口』なんて起こらないから」

恒「何故、そうなるニャー?」

べ「織田軍30000オーバーvs朝倉・浅井連合20000弱だからね。地の利は相手側にあるけど、金ヶ崎城は落としたし一斉退却する状況じゃない。となれば、考えられるのが『兵の強さ、兵の質』だよ」

恒「う、そういえば足軽って、直ぐに逃げるニャー。そのせいで信長様は美濃で何回も負けたんだよニャー。斎藤龍興にも負けた事あるし」

べ「そういう事。足軽が強いなら先代の頃から足軽を使う織田家が100%農兵の斎藤家に負ける訳がない。そして六角家と年がら年中戦っている浅井家の農兵は凄く強いし、毎年一向一揆と戦っている朝倉家の農兵も凄く強いんだ。結局、足軽は数で虚仮威すしかない。金ヶ崎の時に戦える織田家の兵士は10000人いるかな?程度と見ているよ。10000vs20000なら即座に退却だね」

恒「じゃあ、ニャんで足軽は強いってなる?」

べ「答えは『鉄砲』だね。鉄砲は訓練しないと使えない。弾込めにも順序があるし、火薬の取り扱いも学ばなきゃダメだし、一斉射撃なんて訓練しないと無理だよ。だから鉄砲が出回り始めると訓練出来る足軽が圧倒的に強くなる。そして鉄砲という利器を手に入れた足軽は逃げなくなっていく。農兵は訓練している訳じゃなく、実戦に出る事で強いだけなんだよ。訓練してる暇があったら農作業してると思う。ただ鉄砲の大量生産は長篠の戦いより後だから、まだ足軽は弱い事になるけどね。長篠の戦いでも信長さんは鉄砲を他家から借用しなきゃいけない程だったしね」

恒「ニャるほど。でも、それはゲームには反映出来ないニャー」

べ「まあねー。でも強い傭兵もちゃんといるよ。雑賀衆なんてその典型で自分達で鉄砲訓練してくるから、引っ張りだこだったみたい」

恒「アイツらも惣国一揆ニャんだよね……」

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