織田信秀

犬山城攻略は冬に行うことになりました。

 何故冬かって、秋は農繁期だから戦争出来ないんですよ。

 織田家は常備兵、兵農分離だから関係ないって?

 いえいえ、今回の場合犬山が困るのでダメなんです。

 だって犬山は織田家の領地なんですから。

 そんなところに農繁期に攻め込んだら、最悪稲が全部焼かれて犬山の領民が餓死しますよ。

 犬山の民のヘイトを買っても何もいい事ありませんしね。

 だから冬にやるんですけど、もしかしたら必要ないかも。

 ニャーが助けたあの二人、飯尾敏宗と加藤政盛の効果がなんだかえらい勢いで出てるんですよ。

 どういうことかと言いますと二人が逃げてくる→ニャーが匿う→帰参が許される→二人がニャーの下で働く→犬山城に知られる→犬山の元同僚達がこの二人を通してニャーに取り成してくれと家族で逃げてくる←今ココ。

 ここまでの効果は期待してなかったんだけど・・・なんか凄い策略をニャーが謀ってしまった感じに。

 攻め込む前に犬山城が勝手に半壊してます。

 何でこんなに効果があるのかニャーなりに考えてみました。

 だって前の犬山攻略はかなり苦労したんですから。

 10以上の支城に犬山城で徹底抗戦されました。

 理由として挙げられるのは信長様の武威だと思われます。

 前は美濃攻略で何回も負けた後、犬山攻略でしたから信長様の武威がかなり下がってしまったんですよ。

 でも今回は桶狭間の直後にねじ込みましたので信長様の武威は最高潮なのです。

 やっぱり武家は勝ってなんぼです。

 それで犬山から逃げてきた奴等は信長様から帰参の許しが出て、大体信長様の新しい所領の管理を仕事にするそうです。

 その新しい所領というのはニャーの池田庄の開発出来なかった8割のことです。

 あの土地はニャーの物ではないのです、ただ堤防の管理上入っていただけです。

 ニャーの給料は千五百石と決まっているのですから。

 あ、でも今回の件で加増されました。

 五百石です、合わせて二千石となりました。

 それに伴い家臣3人も加増しました、いきなりですが。

 大谷の活躍は言わずもがな、加藤と飯尾も頑張っているので忠誠心を上げとこうというわけです。

 大谷は二百石、加藤と飯尾は百五十石づつです。


 この犬山の結果には信長様もお喜びで冬の犬山城攻略をわざわざ信清に通告するほどです。

 こんな状態になっても織田信清は一生懸命手紙を書いて援軍を呼び込もうとしています。

 信長様が「冬には犬山行くからな」と公言しているのは、暗に「犬山放棄してさっさと何処か行け」というメッセージなんですけどね。

 命は助けてやろうということです、やはり信長様はお優しい方ですニャー。


 先日ニャーの津島奉行就任が決まりました。

 みんな出世だと喜んでくれたわけですが、見ず知らずの大商人の集まりに顔を出すのは億劫です。


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 今回は織田家先代信秀様について語ろうと思います。

 ニャーにとってもこの方は大恩人で、池田家を継げたのは信秀様のおかげです。

 この方を知ることで織田家が何故あんなに津島を重要視するのかが解ると思います。


『応仁の乱』足利将軍家の相続問題に端を発した争乱は、京の都周辺を大いに荒らした。

 だが、戦いは全国に波及しており、尾張の国も例外ではなかった。

 越前と尾張を斯波家が治めていたのだが、相続問題がこじれた上に応仁の乱で親族同士の争いが勃発。

 越前と尾張で勢力が別れてしまった。

 その尾張を奪うべく越前から送り込まれたのが『織田大和守家』である。

 そして当時の尾張守護代『織田伊勢守家』と激しく争う。

 結果大和守家は尾張下四群、伊勢守家は尾張上四群を治めることで決着した。

 一見すれば大和守家の大勝利なのだが、大切なのはいつも戦後である。

 領地が大したことのなかった大和守家はいきなり20万石近くを治めることになってしまったのだ。

 ・・・当たり前のように人手不足だった。

 大和守家当主は自分の家に余所者など入れたくなかった。

 なら故郷の越前から連れてくればいいのだが、それは不可能になった。

 越前は朝倉家による下克上で奪われてしまったのだ。

 こうなっては余所者を入れるしか尾張を経営する術はないのだが、ここで一計を案じた。


「部下の三奉行を独立させて余所者を雇わせよう。この三家が大和守家を補佐すれば尾張を経営できるし、大和守家に余所者を入れずに済む」


 こうして独立したのが織田因幡守家、織田藤左衛門家、そして信長の織田弾正忠家である。

 信長の祖父・信定は勢力拡大に熱心で伊勢守家から勝幡を奪い、また上納金を得ようと津島を武力制圧しようとした。

 勝幡は無事制圧したが、津島からは激しく抵抗された。

 戦国を生きる商人は弱い存在ではない。

 銭で傭兵を雇い、勝幡に逆襲を仕掛けるほどだった。

 これには信定も堪らず津島の有力商人に娘を嫁がせて和睦した。

 でも上納金は諦めなかった。

 そこで津島の商人から出された条件が「上納金を取るなら、その分稼がせろ」である。

 これを受けて信定は自分が持つ市を津島に開放し、その利益から上納金を得た。

 津島の商人は利益を拡大し、弾正忠家は上納金を得た訳だ。

 ここから両者のWIN - WIN の関係が始まる。


 その後、信定は隠居し信長の父・信秀が当主になる。

 信秀は勢力拡大のため、他の奉行達の市を押領し津島の利益拡大に努める。

 このことが主家である大和守家の逆鱗に触れ戦となった。

 石高差にして10倍以上あったが信秀は互角に戦い、戦上手の名声を得る。

 基本石高差とは兵力差になる。

 10倍以上の敵に勝つなど伝説になるレベルなのだが、信秀はこの前提条件となる兵力差を覆した。

 津島を見たことで知っていたのだ。


「兵力が足りないなら、銭で傭兵を雇えばいい。そのためにはもっと津島の利益を拡大せねば」


 そのために萱津の物流を仕切っていた土田家から正室を迎え傘下とする。

 この物流路(主に海路や川渡)を使い安全に効率良く市場に品を届けることで、更に利益を拡大した。

 因みにこの正室の女性が『土田御前』と呼ばれる信長の母親である。

 そして信秀は那古野に目をつける。この頃那古野城は今川家の支配下だった。

 それは今川家による後の尾張攻略の楔として名将伊勢宋瑞(後に北条早雲と呼ばれる)が打ち込んだものだった。

 今川の縁戚の那古野氏を再興させるという名目で敵地のど真ん中に城を建ててしまったのだ。

 並みの将に出来る事ではない。


「今川の城を尾張に建てさせるなど、後で尾張攻略の拠点にされるに決まっているだろうが!大和守家にはアホしかおらんのか!だいたい那古野は私が欲しかったんだ!」と信秀は嘆いた。


 信秀が那古野城を欲しがったのは今川の拠点を潰すことも目的の一つだが、それ以上に『熱田神宮』が必要だったからだ。

 この那古野城は熱田神宮を監督するのに絶好の位置にあった。

 信秀は熱田神宮そのものに用事があるわけではない、その鳥居前市(門前市)が欲しかったのだ。

 基本市場とは神社仏閣の門前に出来やすい、人が集まりやすいという理由だ。

 特に熱田神宮の様に社格が高いと全国から参拝客が来るため、その門前市も大賑わいだった。

 その門前市に津島の商人を参加させる&熱田の商人を取り込んで上納金を納めさせることを目的としていたのだ。

 この後信秀は奸計を用いて那古野城を奪取、城主は追放した。

 こうして信秀は津島から上がる上納金を殖やしていったのである。


 信秀は斎藤道三により追い出された美濃守護・土岐頼芸を担ぎ美濃に攻め込む。

 だがこの戦いは斎藤道三が勝ち、信秀は弟・信康を失う大敗北を喫する。

 斎藤道三は尾張に攻め込む構えを見せたが、信秀は帰国するとあっという間に兵力を立て直し防戦の準備を整えた。

 銭で傭兵を雇ったのである。

 これには道三も驚いて尾張侵攻は中止、その後直ぐに娘を嫁に出して同盟を結ぶ。

 斎藤道三も理解したのだろう、銭が有る限り織田弾正忠家は戦い続けることが出来る事を。

 そして信秀の美濃侵攻を受け続ければ美濃が荒れ果ててしまうことを。

 戦国時代の大名とは一敗しただけでも命取りになることが多い。

 そんな中、この織田弾正忠家は何回負けても直ぐ様立て直すことができた。

 信長も舅・道三を助けるべく斎藤義龍に長良川で挑んで大敗北を喫した事がある。

 この時も直ぐ様傭兵を雇って立て直した。

 この様に傭兵、武器(槍や鉄砲)、防具等に銭を使い、織田家は勢力を高めていったのである。


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 ここまでくれば織田家にとって津島がどんな存在かお分かり戴けたでしょうかニャ。

 そしてニャーはこの度津島奉行に任命されたわけです。

 今度津島(熱田も含む)の商人連合『津島会合衆』の茶会にお呼ばれしましたので行って参ります。

 もし津島会合衆を怒らせでもしたらニャーの首が飛びます。

 解雇ではなく斬首の意味で。

 だから佐渡殿も村井殿も行きたくないのです、失敗してどれだけバカにされたとしても耐えなければならないからです。

 武士が商人に笑われるのはとても耐え難いことですからね。

 ニャーも上手くやれるか不安です。

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