♕【クイン】~永遠の17歳~
【市長】のことを語るには少々時間がかかる。
だがそれも仕方のないこと。
何といっても彼女は長い時間を生きている。
推定の域を出ないのだが、記録にあるだけでもざっと300年。
加えて彼女の人生はこの街・チェスボードシティの歴史そのものだ。
300年の歴史を語るにはそれなりの時間がかかるのも当然だろう。
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彼女の役職は【チェスボードシティ市・市長】であるが、もう一つ彼女にふさわしい名前がある。
彼女は【マジカルクイーン】の愛称で市民に親しまれ、同時に恐れられている。
それは彼女の権力が絶対的であり、その権力を維持する能力が絶大だからである。
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さて、彼女が女王になった『いきさつ』であるが、これを知るものは誰もいない。
ただただ彼女の記憶の中に存在しているのみである。
そして彼女がそれを思い出すのは、数年に一度。
『リプレイス』の呪文を行使する時である。
この呪文を行使する時のみ、一時的にすべての記憶がリロードされるからだ。
リプレイス/交換、それは彼女の持つもっとも特異な能力の一つである。
この魔法を使うことで、彼女は他人の体に乗り移ることができるのである。
ただ交換された対象は無事では済まない。
そこに300年あまりの時間が一気に流れ、枯死してしまうのである。
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そのリプレイス、5年に一度のサイクルで行われている。
女王はいつでも若く、美しい肉体に固執していたせいだ。
彼女は12歳でリプレイスし、5年間、17歳になるまでをその肉体で過ごす。
そして5年を経過すると、新しい12歳の体に乗り移るのである。
女王はそのサイクルを維持するために『娘』たちを常に用意していた。
毎年5人の『娘』が市民から選ばれ、きっかり15歳の誕生日まで女王のもとで庇護された。
リプレイスの対象となれば死。
選ばれることがなければ家族のもとに返される。
それは市民がこの街で平穏に暮らすための生け贄のようなモノだった。
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「で? あたしの『ミリア』はまだ見つからないの?」
そう言ったのは市長。
外見は17歳らしい、健康的な美少女だ。
だがその表情、目つき、纏う空気はぞっとするほど冷たく暗い。
「申し訳ありません、市長。八方手を尽くしているのですが、未だ行方も分かりません」
ゆっくりと答えたのがわたし。
副市長の肩書きはあるけれど、実質は彼女の身の回り全てを管理している執事みたいなもの。
ちなみにあたしの名前は『木佐貫サヤ』
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「サヤ、来週はもうあたしの誕生日なんだけど?」
「承知しております。ですが、誕生日を超えてもリプレイスは可能ではありませんか?」
そう、来週中に彼女は誕生日を迎える。
新しい体で迎える12歳の誕生日は目前だ。
「は? アンタそれ本気で言ってんの?」
ちょっと対応を間違えたことに気付く。
言葉の中にひやりとした殺気がこもるのが分かる。
「申し訳ありません。差し出がましいことを……」
「ホント、あんたって無神経よね。あたしは永遠に17歳でいたいの。いなくちゃなんないの。分かる?」
「はい市長。承知しております」
「何度も同じこと言わせないでよ、とにかく死体でもいいから見つけてきてよ」
「本当にそれでもいいのですか?」
「また何度も同じこと言わせるつもり? あたしが死者蘇生の魔法つかえるの知ってるでしょ?」
そうだった……それをすっかり忘れていた。
「そうでしたね。市長の魔法は万能でした」
「分かればいいのよ。とにかくあたしのミリアをさがしてきてちょうだい。あんなに綺麗な体、久しぶりなんだから!」
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彼女はそういうと膝の上にたたんでいた小さな衣装を広げた。
フリルの沢山ついたミニのワンピース。
セーラー服を基調にした可愛らしいデザイン。
昔にテレビで見た魔法少女が身に着けていたような服。
そして彼女のイスには先端に星がついたステッキが立てかけてある。
一見おもちゃのように見えるのだが、あのステッキは本物だ。
本物の『マジカルステッキ』なのだ。
「あの体でこの服を着るの! すっごく楽しみっ!」
彼女は待ちきれないようにその服を抱きしめ、ほおずりしている。
その肉体に潜むのは、300年の時を生きてきた稀代の魔女である。
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彼女は病んでいる。
生まれた時から病んでいる。
だが誰も彼女には逆らえない。
生みの親であるあたしでさえも。
それがマジカルクイーン/市長なのである。
♕
あたしは、はしゃぐ市長を残し、一礼して執務室を出る。
状況はかなり煮詰まってきている。
カウントダウンはすでに始まっている。
ミリアを見つけなければこの町に大災厄が訪れる。
それこそ町が消し飛ぶほどの、未曽有の魔法災害が。
瞬き一つで音声回線をつなぐ。
「犬飼さん、ミリアはまだ見つかりませんか?」
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