月曜日(6)

 ユミカはスマホを弄っていた。とても日常的な風景だ。僕が腰掛けると、これ見てよ、と画面を向けてくる。そこには澄み渡った青空を背景に、太陽の光を浴びる向日葵が生き生きと写し出されていた。

「私が撮ったんだけど、どうかな?」

 写真のことはよく分からなかったが、その一枚はなかなか感じが良く、アルバムに保存しておきたいと思った。それを伝えるとユミカは喜んで、他の写真も見せてくれた。木立の中で撮られたもの、夕日を背に家路を急ぐ人々の姿、犬を撮った連続写真等々。どれもがきちんと「写真」として成立していて、素人がなんとなく撮ったものとは違うのが僕にも分かった。流石にプロを目指している人は違う。

「これだけ良い写真が撮れるんだから、きっとプロになれるよ」 

 褒めたつもりだったが、ユミカは少し困ったような顔をした。

「ありがとう。でも、私は……」

 ユミカは両手をカップに添え、うつむいてしまった。先程の話だと、両親は彼女の夢に反対しているということだった。それを気にしているのだろう。やはり僕はかけるべき言葉を思いつかず、必死に頭を巡らせた。

「今日は、もう行くね。色々聞いてくれてありがとう。またね」

 ユミカは急に立ち上がって、引き留める僕の言葉も聞かず、そのまま店を出て行ってしまった。パートナーが勝手にいなくなるなど、僕の夢においては前代未聞の出来事だった。

 所在なくなり、絨毯に乗って草原まで移動し、青々とした草の上に寝っ転がった。風が草木を撫でる音が心地良い。僕はそのまま瞳を閉じて、地中に沈んでゆくような感覚に身を委ねた。


 目覚まし時計の音で目が覚めた。夢から覚めてもユミカの声、ユミカの温もりは鮮明に思い出すことができた。僕が感じた胸の痛みさえも。

 自分の特技を自覚して以来、夢の中で思いどおりにならなかったのは、憶えている限り今回が初めてだった。ユミカは生身の人間と同じように、僕の意志などお構いなしに振る舞った。それでも、いつもの朝とは違う充実感があった。

 もしもユミカと付き合うことができたら、こんな風に――。

 いや、それは過ぎた願いというものだ。石ころは石ころらしく、雨風をじっと堪え忍び、星を見て思いを巡らせていれば良い。そうすれば、誰も傷つくことはないのだから。


「おはよう」

 教室に入って席に着くなり、元気よく声をかけられた。右手にはユミカ、ではなく、山城が立っていた。

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