第101話 勝負の行方
「「なっ!?」」
優志と浩輔の声が綺麗に重なった。
今まさに、王国騎士団と召喚獣が一致団結して超大型魔人を撃破するため突撃をしていったのだが――それを阻むように乱入してきたのが、
「喋る魔人が……」
かつて、フォーブの街近くにあるダンジョンに出現し、優志のスキルによって意識を失っていた喋る魔人であった。
「その見苦しい図体をこれ以上衆目のもとに晒しておくのは忍びない――まあ、同族のよしみで楽に消してやる」
言うやいなや、喋る魔人は姿を消した。
「えっ?」
「ど、どこに!?」
優志と浩輔は消すと言っておきながら自分自身が消えてしまった喋る魔人の行方を追って首を右へ左へと振る。だが、その姿は確認できず。
「……てことは――上か!?」
その優志の予想は的中していた。
喋る魔人は恐るべき跳躍力をもってあっという間に超大型魔人との距離を詰めていた。
「さ、さすがに凄いな」
呆れたように優志は言う。
浩輔も、喋る魔人の底知れぬポテンシャルに開いた口が塞がらない状態だった。
一方、魔人は、
「失せな」
それだけ言って、大きく足を振り上げた。
その行為の意味を、優志たちは理解できていなかったが、次の瞬間、超大型魔人の巨体がまるで石ころのように宙を舞ったことで先ほどの行為が「蹴り」であったことを知った。サイズ差などお構いなしに、その桁違いのスペックを見せつける喋る魔人。
「な、なんてパワーだ……」
「あの巨体をあんなに軽々と吹っ飛ばすなんて……」
優志と浩輔だけでなく、総攻撃を仕掛けようとしていた騎士やサンドラゴラさえも動きを封じられた。
それほどまでに、喋る魔人の力は圧倒的だった。
――しかし、喋る魔人は攻撃の手を緩めない。
「次だ」
吹っ飛ばされた超大型魔人のさらに上を行き、今度は逆に地面へ叩きつけるよう大きく膨らんだ腹部へと拳を叩き込んだ。
「グオッ!?」
短い断末魔をあげて、超大型魔人は猛烈な勢いで地面に叩きつけられる。着弾直後には激しい衝撃によって生まれた横揺れが辺り一帯を襲い、優志は思わずその場に尻餅をついた。
立ち昇る砂煙。
大地に深々とめり込んだ超大型魔人の姿があらわになる頃には、喋る魔人は着地を華麗に決めてパンパンと手で体に付着した砂を払っていた。
圧巻。
まさにその言葉がピタリと当てはまる。
――だが、
「あの喋る魔人……様子がおかしい」
少なくとも、ダンジョンで遭遇した時にはもっとおかしかった。
おかしい――という表現は適切でないのかもしれない。
というのも、おかしいと感じているのは人間サイドである優志たちの考えであり、魔人としてはあれがノーマルの状態であった可能性もある。
だとしたら、今の落ち着いた様子の魔人の方が「異変」と呼べるのかもしれない。
何より、大型魔獣から人間である自分たちを助けてくれた――少なくとも、優志はそのように解釈していた。
なので、
「あ、あの」
勇気を振り絞って話しかけてみた。
浩輔は必死に優志を呼び止めているが、肝心の優志の耳には届いていない。今の優志の瞳には喋る魔人しか入っていなかった。
「ああ……あんたか」
喋る魔人は不快感を抱いた様子もなく、近づく優志を一瞥してそう漏らした。
敵意は感じない。
だが、だからといって特別こちらに興味を持っているふうでもなかった。
「ご覧の通り、とりあえずこいつは気絶させておいた。あとはあんたたちで煮るなり焼くなり好きにすればいいさ」
喋る魔人は動かなくなった超大型魔人を指さして言う。
遠巻きから様子をうかがっていた騎士たちは、その言葉でハッと我に返り、気絶している超大型魔獣を取り囲んだ。
この現状から察するに、
「もしかして……俺たちを助けてくれたのか?」
そう考えるのが自然か。
しかし、喋る魔人は、
「どうだかね。俺自身、なんであいつをぶちのめしたのかいまいち理由がわからない」
とても歯切れの悪い返しをしてきた。
「なんというか……何も感じないんだよな。あんたらを救いたいとも、あいつらに加担しようとも」
迷いがある。
優志は魔人の口ぶりからそう予想した。
「……迷いがあるように見えるけど?」
「迷い、か……俺のこの感情が迷いだと言うなら――俺は何に迷っていると思う?」
「え?」
問われて、優志は固まった。
何を言っているんだ、とも思ったが、魔人は純粋に自分の行動について十分理解してはいないようだった。
「君は――」
「いやいや、よくやってくれたよ」
困惑する魔人へ声をかけようとすると、
「! べ、ベルギウス様!」
優志と浩輔はササッと姿勢を正す。
「報告に聞いていた以上の力だ」
ベルギウスは上機嫌でそう語った。
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