第100話 魔人VS召喚獣、再び
「デカい!」
魔人に対する第一印象はそれだった。
ダンジョン内で美弦の召喚獣と戦った者よりもさらに大きい。
「美弦ちゃん!」
優志は美弦の名を叫ぶ。
呼ばれた美弦はすぐに頷いて召喚獣を呼び出す。
それはもちろん――
「お願い! あの魔人を止めて!」
「ギョアアアアアアアアアアア!」
美弦の願いを受けた巨大な人型の樹――サンドラゴラは魔人に襲いかかる。まずは倒すというより王都に集まった人々を逃がすための時間稼ぎに務めた。
「召喚獣に続け!」
「「「オオオオオオオオ!!!」」」
パレードに参加していた騎士たちが、勇ましい雄叫びをあげながら続々と魔人に攻撃を加えていく。なんとかサンドラゴラを援護しようと必死だった。
だが、パニックになった人々を迅速に避難させるのは難しかった。
それでも、避難誘導にあたる騎士たちが身を挺し、なんとか人々を王都の外へと導いていった。
「……そろそろいいだろう」
ベルギウスからのGOサインを聞き取った美弦は頷き、サンドラゴラへ攻撃開始の命令を送る。
「ギョアアアアアアアアアア!」
待っていました、と言わんばかりに叫びながら魔人へ攻撃を加えていくサンドラゴラ。人間形態となっている今のサンドラゴラは、その右腕に蔦を何重にも巻いて太く強力にし、魔人の左頬に叩き込んだ。
煉瓦造りの家屋を五つほどぶち抜いたところでようやく勢いが死に切って止まる。立ち昇る土煙が視界を遮って魔人がどうなったのかハッキリとわからなかったが、
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
姿は見えなくても、怒気の混じった叫び声が健在であることを示す。
おまけに、殴り飛ばされたことで魔人の怒りに触れたようだった。
「あの程度ではやはり無理か」
「で、でも、あれ以上のダメージを望むとなると……」
「王都が跡形もなく吹っ飛ぶね」
あっけらかんとした様子で言い放つベルギウスだが、それはつまりこの王国の崩壊を指していた。
「暢気に構えている場合じゃないですよ!」
腰を抜かして座り込んでいたリウィルがベルギウスへ抗議する。もちろん、ベルギウスもこのまま放置しておくわけにはいかないと策を練っている。
だが、あれほど巨大な魔人を相手にするのは並大抵の実力では敵わない。それこそ、召喚をした者たち――勇者の力が必要になってくる。
現に、今では優志の店で従業員をしている美弦も、かつては勇者召喚によって導かれた美弦の召喚獣はあの魔人と対等の戦いを繰り広げている。
しかし、このままでは王都崩壊は時間の問題だ。
「なんとかしないと……」
優志もまた危機感を募らせていた。
未だに魔人と魔樹は激闘を続けている。
特撮怪獣映画を生で見ている気分に浸っていたが、そんな暢気な気持ちはもうとっくに吹き飛んでいた。
――その時、不思議なことが起こった。
突如、優志の視界がグニャリと歪んだ。
絵具を混ぜ合わせるように目の前の光景がひとつに溶け合う。
一体何が起きているのか。
事態の把握に努めるが、ひどく歪む視界がそれを阻む。新手の敵か、それとも――思考を巡らせているうちに、それまでいた場所とはまったく違う景色が目の前に出現した。
「ここは……」
見渡す限り緑一色に染め上げられた場所。
建物らしきものは何ひとつ見えない草原のど真ん中に優志は立っていた。
「ギョアアアアアアアアア!」
「グオオオオオオオオオオ!」
場所が変わっても、大怪獣2匹の激闘は続いている。
だが、周りにベルギウスやリウィルたちの姿は見えない。
「い、一体何が……」
「僕のスキルです」
背後からの声に驚き、振り返ると、
「き、君はたしか――三上くん、だったっけ?」
「浩輔でいいですよ」
魔人より先に空から落ちてきた召喚者――三上浩輔だった。
「傷は大丈夫なのか!?」
「あなたの回復水のおかげでもう平気です。それにしても、さすがの効果ですね。真田くんが絶賛していた理由がわかります」
真田というのは、以前、国王の風呂造りのために城を訪れた際に会った美弦と同じくこの世界に勇者として召喚された若者――真田猛のことだ。
「そうか。彼から聞いたのか。――で、さっき僕のスキルと言ったけど……」
「空間跳躍です」
それが、三上浩輔の持つスキル。
「空間跳躍……テレポーテーションってヤツか?」
「それがメインというわけではなく、言ってみれば応用技みたいなものですけどね」
「し、しかし、他のみんなは?」
「まだ王都です。あなたには、そのスキルで協力をしてもらうと一緒に来てもらいました」
「俺なんかが力になれるとは思えないけど?」
「その回復スキルは絶対に必要ですよ」
笑顔で語る浩輔。
だが、魔人と魔樹の戦闘によって生まれた横揺れで今が緊迫した場面であることを思い出した優志は、
「す、すぐにここから避難しよう!」
「大丈夫です。間もなく援軍が到着しますから」
「へ?」
浩輔の言葉を理解できなかった優志――だが、すぐに理解することとなる。
「突撃しろぉぉぉ!」
どこからともなく響いてくる絶叫。
いつの間にか、草原の真ん中で大暴れをする2匹を取り囲むように騎士たちが包囲網を展開していた。
「これは……」
「僕の空間跳躍で戦闘準備を整えた騎士たちをここへ送り込んだんです。これでサンドラゴラを援護できるはず」
たしかに、これだけの騎士がいれば多少は戦力になるかもしれないが――やはりそれでも力不足は否めない。もっと決定打になるような力を持った者がいれば。
優志がそう思った――まさにその時であった。
鳴り響く轟音と舞い上がる土煙。
「こ、今度はなんだ!?」
何か、別の存在がこの場にやって来た。
ただ事ではないと悟ったのは人間だけではなく、魔人とサンドラゴラも異変を関知して動きを止めていた。
土煙の中から現れたのは、
「ふん! 同族ながら呆れる醜さだ」
あの喋る魔人であった。
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