第83話 問題解決の道
『冒険者シン……その名は私もよく耳にしている』
町長の家から帰宅後、仕事の後片付けをしてから自室へと戻り、コールの魔鉱石を使ってガレッタを呼び出した。
ちょうど、リウィルに関する定期報告のためにコールを使う予定だったので、ガレッタはすぐに応答した。報告後に町長の家で名前の出た伝説の冒険者にたずねてみたが、
『しかし、その男が君たちのいた世界の住人であるという話は聞いたことがないな』
「例えば……試験的に行った勇者召喚の際に誤って召喚したとか?」
『たしかに勇者召喚の儀を実際に行う前に予行演習はした。私もそれに立ち会ったが、その時には何も起きなかった』
「そうですか……」
冒険者シンは召喚された日本人説を提唱しようとした優志であったが、確信を得られなかった。
ガレッタが嘘をついているのでは?
そんな疑惑も胸に浮かんではきたが、通信越しのガレッタはシンの名前を聞いても特に声色などに変化は見られなかった。
それどころか、
『気になるのか、その男が』
「ええ」
『では、こちらでも少し調べてみよう』
「え?」
思わぬ提案に、優志の方が驚いた。
「いいんですか?」
『ああ……実を言うとな、少々気になる別件があるんだ』
「別件?」
『ああ。冒険者シンと直接関係があるということではないのだが、どうにも無関係には思えんくてな』
「わかりました。そちらはお任せします」
『うむ。何かわかったことがあったら君にも知らせよう』
「いいんですか? 自分で言うのもなんですけど、俺は部外者ですよ?」
『そうは言っても、気になるだろう?』
「うっ……」
『気にする必要はない。それに、もしかしたら君の力を借りなければいけない事態になるかもしれないしな』
「へ? それって――」
『おっと、呼び出しがあった。悪いが今日はここまでだ。では、また』
そこで通信は終了。
ガレッタによって強制遮断された格好となった。
「……冒険者シンの件についてはガレッタさんに一任するか」
正直なところ、こちらはこちらで人材難解決という問題を抱えている。どちらかといえばこちらをどうにかしたいところだ。
「人材の確保……俺のいた世界なら人は集まりそうなんだがな」
皮肉っぽく言って、優志は全身をベッドに預ける。
「高い給金といったって限界はある。なんとか低コストで働く力を得られないだろうか」
今なら人事課の人間の気持ちがよくわかる――と思う優志であった。
◇◇◇
次の日の朝。
「優志さん、眠れませんでしたか?」
「ああ……少し考えごとをしていてな」
美弦が心配そうに声をかけてきた。
それほどまでに、寝起きの優志の顔は悲惨な状態と言えた。
「新しい従業員を雇いたいんだけど……うちだけじゃなくどこも人材不足みたいでな」
「最近、冒険者の数が増えましたものね」
そこへ、朝食の準備をしていたリウィルも加わった。
「冒険者は増えても住人が増えたわけじゃない……住人が増えてくれれば万事解決。問題ないんだけどな」
「住民を増やす……」
「う~ん……」
美弦もリウィルもそのまま黙りこくってしまった。
そんな時、
「放せよ!!」
「うるせぇ!」
店の前から話し声がする。
それも、かなり物騒な感じだ。
「なんだ?」
暴力沙汰なら町長へ報告しなくてはならない。
あの街には警察――まではいかないが、治安維持のための常駐兵がいる。
彼らに助けを求めるという手もあるのだが、まずは現状把握に努めようと外へ出た。
そこには、フォーブの街でパン屋を営むケビンという男と、そのケビンに首根っこをつかまれて暴れている10歳ほどの少年がいた。
「どうかしたのか?」
「お、回復屋の旦那か」
一瞬、こちらに気を取られた隙をつき、
「おらぁっ!」
「ぐおっ!?」
パン屋のケビンの膝を思いっきり蹴ったくった。
その痛みで手を放してしまい、自由を取り戻した少年はあっという間にダンジョンの方角へと消えて行った。
「くっそ! あのガキ!」
「ケビンさん、一体何があったんだ?」
「うちのパンを盗みやがったんだ」
「パンを?」
少年が走り去った方向へ視線を移す優志。
「まあ……裕福そうな格好ではなかったけど」
ボロボロのシャツにズボン。
何日も風呂に入っていないのか、髪はボサボサで肌についた土や泥はそのままの状態であった。
「ったく、ろくでもねぇガキだぜ」
「しかし、この辺りでは見かけない子だった」
「……言われてみれば」
フォーブの街にも子どもはいる。
だが、あの少年のように盗みを働くほど貧しい生活をしている者には心当たりがない。
「冒険者って感じとも違うな」
「そもそも若過ぎるよ。……一体どこから来たんだ?」
「ダンジョンの方角へ向かって行ったから、あっちに親がいるのか?」
「他所から来た冒険者の子ども、か」
現段階ではそれが有力か。
それにしても、いきなり盗みを働くというのはどうにも解せない。
「貧乏な冒険者なんだろうよ」
ケビンが言う。
たしかに、最近ようやく返済できたらしいが、あのダズも借金持ちだった。
貧しさゆえの犯行と言われれば、その線も十分に考えられる。
「とにかく、俺はあの子のあとを追ってみる」
「大丈夫か?」
「平気だ。危ないと感じたらすぐに戻る。そうリウィルたちに伝えてくれないか?」
「わかったよ」
あの少年は一体何者なのか。
正体を突きとめるため、優志はダンジョンへと向かった。
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