第14話 尿意さえなければ

 2度目の女神の森ヴィーナス・フォートレスでわかったこと。


 ……。


『別の異世界に行くにも、スキルチェンジにも、事務手続とお金が必要だ』ってこと。



(あれ? 最初の異世界転移のコストは、誰が負担してるんだろうか?)


 下り坂で、そんなことを考えている。


(『初回無料で、機種変更にはお金がかかる』みたいな料金体系? 女神様の職種って、情報通信業なのかも?)



 最初にこの坂を下った時と、今との間の違い。



・『尿意』という敵が居ない。


 

・歩きながら考えると、足裏がポンプになって血液が巡るようで、結構思考が進んでくれた。(※当者比)


 さて……これからどうしようか?


(ケツバット……いやだなぁ……)


 伊達カントクの所に戻る、っていう選択肢は、今は横に置いておこう。


 一応、女神の森を出る時に。

 女神様に、「尻の痛覚を無くす異能スキルとかって、ありますか?」と聞いた。


「変態なの? アンタ」

 と言われた。


 美人ヴィーナスにそう言われて興奮するようなこじれた性癖を、あいにく持ち合わせていない俺は、ひそかに落ち込んだ。


 俺の尻は、この時点ではまだ、普通の尻だった。


 つまり、度重なるケツバットには、とても耐えられそうにない。


 となると……。


 このままこの、『中世っぽいのに、日本語だけで会話を済ませて、英語を使わない異世界』をさまようっていう選択肢もアリかと。


 でもなあ……。

 食い扶持ぶちをどうする?


 住むにも、着るにも、食べるにも、お金は必要だから。


 『異世界ホームレス生活』っていうのもなぁ……。ラノベとかだと、やってる主人公イそうだけど。俺はラノベの主人公じゃないし。


 そもそも俺は、異能をまともに使えない。


『カタコト英語で相手に意味が伝わったら、ソレが具現化する能力』


 ……持て余すに決まってるじゃないか。そんな異能スキル。


 この時点で俺は、「ただの人」なわけだ。

 となると、特殊能力を使って食い扶持を稼ぐってわけにもいかなさそう。


 つまり。


『チート無しで、普通に異世界に溶け込むしかない』

 という結論に、容易にたどり着くことになる。


(くっそ……つまんねぇな……。もっと俺TSUEEEEEとか、キャー村松さん素敵ー! とか、ハーレム生活とか、そういう非日常を味わいたかったなぁ……)



 眼下の街は発展していた。

 流域の広い川があって、その川の左右に、住宅が広がっている。

 さながら、串団子のように。


 ……ま、串団子にしては、刺さっている餅が綺麗な円形ではないんだけど。


 壮観だね……。

 尿意さえなければ、こうやって落ちついて観察も出来るってもんだ。


 そして。

 リラックスして行動すると、良いことが起こるようだ。


 まるで需要と供給が一致するかのように。


 俺は、とある先生と出逢ったんだ。

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