第9話 キソと呼ばれる力

 まるで馬面をさらに引き伸ばしたような、尖った顔は、さながらキリのよう。


 分厚いまぶたが、無機質な目を覆う。


 顔を支える、ずんぐりとした、短めの毛並み豊かな四肢は、総じて白かった。まるで黒いタンクトップを着たような身体模様。


 地面に向かって生えた、もう一つの支点。しっぽ。


 フェンスを超えて現れたモンスターは、そのような見た目だった。


 明らかに、人より二回りは大きいだろうか?


あり食いだ!」

「超蟻食いが出やがった!」


 ライト、センター、レフト。


 3人の『外野手』な先輩パイセンが、グラウンドを縦横に。明らかに、モンスターに対する陽動。


(アリクイ?)


 RPGゲームでも、『オオアリクイ』とかが敵モンスターとして登場するけれど、こんなにでかいのか……。いや、先輩パイセンによると、名前の頭に「超」ってついてたぞ?


 ドドドドドド!

 ドドドドドド!


 シュオッ!

 シュオッ!


「「「うおおおおお!!」」」

 ベテランチーム『紅組』の先輩パイセン達は。


 それぞれの守備位置から、風を切るように三塁ベンチに戻ったかと思うと、ベンチ裏の、傘立てのような縦長スロットからめいめいに、剣をシュオッ! と抜き取り、グラウンドへと再び躍り出て行く。判断からの行動が速い!



 シュオッ!

 シュオッ!

「俺たちもいくぞ!」


 新人チーム『白組』だって負けていられない。


 一塁側ベンチに、もとから待機していた部員達も、紅組の先輩パイセンと同様の行動を取った。攻撃側、打者側だったから、グラウンドに飛び出すのも早かった。


「えっ? えっ?」

 俺だけが、一塁ベンチ付近で、うろうろまごまごしていた。


「松村! お前も!」

 ついさっきまで、『ネクストバッターズサークル』にしゃがんでいたはずの、俺と同チームの田中が、手にしていた打撃棒バットを、やっぱり傘立てみたいなスロットにカラン! と素早くぶっ刺した。田中の手はすぐに、隣のスロットへと向かう。剣をシュオッ! と抜き、そしてグラウンドへ。


「ぐずぐずすんな! 松村!」


「お、おう……」

 俺は、田中の後ろを駆けようとした。しかし……。


「松村! おめーふざけんな!」

 バッターボックス付近から、この一塁側ベンチへと駆けて来た伊達カントクが、俺に向かって怒号をあびせた。硬直するように立ちすくむ俺。


「神聖なる打撃棒を魔物に使う気か?! おめぇそれでも野球部員か!? バカか?! 打撃棒は置いて剣を取れ!」


「は……はい! すいません!」

 と俺は叫びつつ、内心は。


(野球部の、バットに対するこだわりは半端ねぇな……)

 と思っていた。


 それはそれとして、俺もみんなに習って、バットを置き、傘立てみたいなスロットから剣を取る。少し短めの片手剣の柄には、『意・恣意恣意』と、謎の文字が小さく刻まれていた。


(ここだろ! 俺が女神さんから授かったチートスキル、『カタコト英語で相手に意図が伝わったら、ソレが具現化する能力』の発揮しどころは!)


 つややか長髪に野球帽が似合う女子マネージャーの椎名さんは、俺と同様の『地球出身』。彼女に向かって、英語で語りかければ!


 俺は、小さく身震いした。

 こんな感じの、『俺だけが持つスキル』で無双するような、そんなシチュエーションに会いたくて、震えていた。


(超アリクイを一撃で倒せる、必殺級の武器を、この世界に具現化したい!)


 ……。


 なんて表現すればいいの? 英語でin English……。


 いや。


 そのね?


 そもそもね?


『アリクイ』って、英語でなんて言えばいいの?

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