第5話 異世界の異世界は同世界

「彼は新人の、松村だ。今日からこの球団に参加してもらう」

 伊達カントクのごつい手が俺の肩をつかんで、にげだせない!


 どうする? コマンド


「あ、あの……松村です! よろしくおねがいします!」


 ふかぶかと頭を下げる。

 日常系呪文の『アイサツ』ってやつだ。


 野球部はきっと、挨拶が命だ。

 体育会系って、多分そういうところ。

 そう読んだ俺は、最初の挨拶を大事にしたんだ。



 日本では、俺は野球部でもなんでもなく、

フラワーアレンジメント部に所属していた。



 ※ ※ ※



 日本の、フラワーアレンジメント部の部室。


 生け花と、女子部員の百合会話とを俺が愛でていると、窓の外から怒号のような掛け声も聞こえていた。


「あれ? 肩にゴミがついてるよ? 祥子さん?」


「ナイスバッティーング!」


「あ、ありがとうございます、伊藤先輩……」


「田村ー! オメー腹から出せ腹からー!!!」


「かわいいね、


「ナーーイスバッティーーーーング!!!」


「先輩……」


「ナーーイスバッティーーーーング!!!」



 ※ ※ ※



 と、まぁ、そんな現世での生活を送っていたわけだ。



 そんな俺は今、異世界で、伊達カントクに、その「ナーーイスバッティーーーーング!!!」の方に引きずりこまれようとしている。



 早くレベルを上げて、日常系呪文の『アイサツ』が、上級呪文の『アイサヅン』ぐらいにならないと、生き残れないかもしれない……。



「おう、新入り、よろしく!」

「お前どこから来たの? 地球から?」

「人型だから、地球だろ多分」



 先輩パイセン達が、開口一番にこんな調子なので、どうやらこの異世界には、異世界転移者が結構な数、やってきているのだと、すぐに理解できた。


 そして、後から気付いた。


 伊達カントクがさっき、

「彼は新人の、松村だ」


 ……と、俺の事をみんなに紹介していた。


 つまりおそらく、この野球団のメンバーの中にも、異世界人はゴロゴロしているのだろう。



(どのパイセンだ……? 俺と同様に、異世界からやって来た人は……)



 正直、俺があのチート能力を活かせるとしたら、その相棒は、異世界からやって来たパイセンになるだろう。



『カタコト英語で相手に意図が伝わったら、ソレが具現化する能力』



 俺が授かったその異能を発動させるには、も、英語を理解できなきゃいけないだろう。


 ところが。


 この異世界の住人は、かたくなに、英語を使おうとしない。


 和製英語すら使わない。

 日本語オンリーでしゃべっている。


 と、なると。


 この異世界から見た異世界人。つまり、俺と同じような境遇の人を見つけるのが、俺の異能発動の為の、最短ルートだと思われる。


 そういう意味では、この「ナーーイスバッティーーーーング!!!」の集団に放り込まれたのは、僥倖ぎょうこうなのかもしれない。


 練習の泥で汚れた野球部員の、その奥のベンチに、一輪の花が咲いていた。


 野球帽をかぶっている女子。

 おそらく、この球団のマネージャーだろう。


(か、かわいい……)

 思わず数秒、見とれるほどに。


 そのマネージャー女子(?)と、目が合った。



「新人さん? チャオ」



 彼女がどれだけ可愛いかについては、ちょっと後回しにするとして……。



「チャオ」だと???



 イ タ リ ア 語 ? !

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