第4話 草野球
日本の学校でさ。
勉強なんか、ほとんどしてなかったわけだよ。
テストの点がどうとかより、遊んでた方がいいじゃないか。
日本は平和なんだから、今頑張らなくても。なんて思ってた。
「英語はしっかり勉強しておいた方が良いぞ。これから日本は、グローバル化の波にさらされるからな?」
高校担任の矢野が、口を酸っぱくしてそう言ってたのを、俺は右から左へと受け流していた。
「英語……勉強しておけばよかったな……」
この異世界に来てそう実感するのは、もう少し先のことになる。
異世界人が、野球をしてたんだよ。草原で。
服装に統一感は無いんだけど、胸元に紋章みたいなのをつけてた。紋章は統一感があった。
(こっちの世界にも野球があるのか)
と思って、土手に座って観察してたんだけど。
「しまっていこうぜー!」
「おー!」
って、掛け声も、現世日本と一緒っぽい。
(この世界、単に中世っぽいコスプレして生活してるだけの、『現世』なんじゃないか?)
と、少し疑った。
でも違った。
「いい球!」
「いい球二!」
(ん? ストライクじゃないの?)
「打者、追い込まれたな……」
トイレを貸してくれた『伊達』って名のおっちゃんが言った。俺の隣で、土手に腰を下ろしている。
まあ、「ちょっと野球観戦付き合えや。行くとこも無くてひまなんだろ?」って言われて、連れて来られたんだけどね。
「そ、そうみたいっすね」
と俺は相槌をうった。
「あの投手な。冒険者共同体の中でも有名な『矢野』っていう遊撃手で、狙った魔物の急所は外さないんだよな。制球力が、野球でも魔物討伐でもすげえんだよ」
伊達のおっちゃんが立板に水のごとくしゃべった。
(このおっちゃんは何を言ってる?)
なんでショートがピッチャーやってるの?
あと、魔物討伐? 冒険者共同体?
俺は色々と混乱した。
「あの、、伊達さん。もしかして、あの野球やってる人達って、、冒険者か何かですか?」
「監督と呼べ」
伊達のおっちゃんは、伊達カントクだった。伊達カントクは続けた。
「何を当たり前の事を。冒険者が野球やるのは当たり前だろう? 階級上げないと、かの伝説の龍、『田町龍』は倒せないじゃないか」
(伊達カントクは、何を言ってる?)
野球の話なのか、冒険者のモンスター退治の話なのか、しっかり分けて説明して欲しい気持ちでいっぱいだった。
そして俺は、ようやく気づいた。
(この世界の住人、英語を一切使わないな……和製英語すら)
「ん? どうした?」
伊達カントクは、俺を野球チームに入れたそうな目で、こっちを見ている。
どうする? コマンド
こんな世界で、俺が女神さんからもらった『あの』チートスキル、役に立つのか?
『カタコト英語で相手に意図が伝わったら、ソレが具現化する能力』
って、チートスキルなんだけど……。
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