第2話 問題が2つあって

 まさか、女神の森ヴィーナス・フォートレスが、ジオラマだったなんてね……。


 俺、びっくりしたよ。


 せせらぎの音はスピーカーから出ていた。

 青空は、「青空照明」とかいうシロモノらしい。


 四菱電機とかいう会社の「青空照明」の製品説明書が、わかりやすく、草むらに落ちてるんだもの。読んでくれと言わんばかりに。



(転生だとしても、もうちょっと状況説明してもらえないと、俺、動きようが無くね?)



 とか思って、女神さんを追った。

 端っこまでたどり着き、ジオラマのトビラを開けたら、一面真っ白な何もない世界に、地平線がズバーンと横薙ぎしていた。


「なんだよここ……何も無いじゃないか……」

 思わず漏れる独り言。


 地面を見ると、車のタイヤ跡だけ、2つあった。

 1台の車が、この森(ジオラマ)にやって来て、そして帰って……。そんな感じの、V字になったタイヤ跡だった。

 肝心の車は、影も形も見えない。



(地平線遠すぎ……。そんなに歩けないよ。面倒だし)



 ジオラマの周りを、ぐるりと一周したけど、壁しかないし。

「進撃の巨人の、ウォールなんちゃらかよ……」



 この状況からの推測。

 俺、車に乗せられて、この森……っぽいジオラマの中に、連れてこられた?


 どうしよう。

 これは本当に異世界転移?

 単なる監禁的なアレ? 映画『キューブ』みたいなサスペンスチックなやつ?


 真っ白な世界を、さまよう?

 ジオラマの中で、女神さんの帰りを待つ?

 おとなしく、異世界へと転生する? いや、転生できるの?


(うーん……)


 あのね。

 状況がもう少し明確に分からんと、どうにも動きようがないのよ。何が最善行動なのか分からんから。


 女神さんが、クサッツとかいう温泉から帰ってくるのを待つか。

 次のチート能力を思いついたら帰ってくる、みたいな口ぶりだったし。



 ◆



「遅い! 遅すぎる」

 スマホも無い、草木だけのジオラマで長時間過ごすのは、都会っ子の俺には無理だった。


「あの美人の女神さん、どんだけ長風呂なの?」

 たぶん、次の転生者さん用の、チート能力のアイデアが、まだ出てこないんだろうけどさ。才能の枯渇した作家みたいにさ。


「はら、へったな……」

 森の木の実とかは、思い切って食べてみたけど、苦いし。


 あと、トイレにも行きたい。

 大自然ならともかく、ジオラマの中で、ってのもねぇ……。

 外の、何もない白世界で、ってのもねぇ……。


 どうする? コマンド



> おとなしく、異世界へと転生する(可能なら)



 これを選択する以外、無いじゃないか。


 日本のRPGゲームのように、実質的に1択を迫ってくる感じというか。

 洋ゲーとかだと、もっとオープンワールドで、もっと行動が自由だったりするのに。



「ま、自由すぎても、何すれば良いか分からなくて飽きるんだけど」

 ため息をついて、俺は、異世界へと続く……らしい小道を進んだ。



(ん? 下ってるな、この道)



 そういえば、ジオラマの白壁は、森をぐるりと取り囲んでいた。


 異世界は、横方向じゃなくて、下方向にあるのか。

 

 この時俺は、女神さんからもらったチート能力について、もっと考えておけば良かったのかもしれない。



『カタコト英語で相手に意図が伝わったら、その意図が具現化する能力』



 俺、英語苦手なんだけど……。

 それが問題だ。



 ただ俺はこの時、もっと大きな、別の問題を抱えていた。



「はぁはぁ……とにかく、急がないと」



 漏れたら大変だもの。

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