エピローグ むかし、むかしのきょうのぼく

 一体、どれほどの人間が対面し前を過ぎただろう?

 自分を見て絶望し慟哭する人間がいた。

 歓喜して笑う人間がいた。

 彼らは様々に呼称した。

『悟り』『啓示』と呼び、『絶対的他者』『自己』と名付け、『神』『悪魔』と畏怖した。

 彼らは長い修行や深い哲学の果てに、たどり着いた。

 しかし、彼は違う。

 彼は意図せず迷い込んできた。

 そして、様々な感情を与えてくれた。

 目の前にいる彼、平野平正行。

 彼のイメージでは真っ暗いトンネルの中にある店の店主であった。

 正行は店の前に立ち、『店主』は相変わらず店から出した椅子に座っている。

「さて、平野平正行。お前はこれからどうしたい? 『世のために』に自己犠牲をするのか? 『闇絡み』に支配されるか?」

 この問いに正行は宣言した。

「俺は、もう一度取り戻したい。いや、俺の世界を作り直したい」

 こんなにも真っ直ぐな声と目で自分の意思を伝える人間がいただろうか?

 聞かなくても分かっていた。

 かつて自分や世界に怯えて背を向けて泣いていた子供が、今、しっかり立って前を見ている。

 もう、一人ではない。

 背後には父や親友たちがいることを理解している。

 これからの人生で彼は何度も泣くだろう。

 何度も後悔をし、挫折し、悲しみに押しつぶされそうになるだろうが、今は仲間がいる。

 仲間を得て、泣いた分、正行は成長する。

 同時に他者の涙や傷をも背負う故に周りも彼の力になろうとするだろう。

 歩き出した彼は、もう、道を迷わないだろう。

 だから、快く送り出そう。

「いってらっしゃい」


 




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むかし、むかしのきょうのぼく 隅田 天美 @sumida-amami

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