6.昨日

 一旦火が点くと、終わりに行き着くまで相手が誰であろうと変わりはない。舌や自分にはない相手の器官を、どこまでも貪ってやろうと思う。

 唾液で湿らせた肌や粘膜が、互いにくっつき合う。自分を動物だと思えば思うほど、理性はここにはいらないと、この行為に突き進める。使い古されて擦りきれた安っぽい言葉だろうが、全てが許容範囲にあると思える。


「濡れてきた。手が滑る。気持ちいい?」

「自分でするよりいいよ」

「……よく自分でする?」

「そんなに。大体途中で嫌になる。罪悪感で」

「今も……? 罪悪感」

「自分にはないけど、周防には感じてる」


 唇と舌にほぼ噛みつきながら、両手で尻を掴んで開いた。露わになっているはずのそこに突き入れることしか考えられずに、狛江の返事にまで頭は回らなかった。ベッドの下のコンドームの箱に手を突っ込んで、びらびらと繋がってきたそれを乱暴にちぎる。手早く取り出して、堪え性のない分身にあてがった。


「……もしかして被せてる姿、見てる?」

「見ない方がいい?」

「できれば」

「じゃ見ないよ……」


 おれを支配するゴムで覆われたおれを掴んで、温かくぬめった場所に押し当てる。

 この瞬間は、いつも相手を死ぬほど愛しいと思う。

 自分の肉が入り込んだ相手の肉は、自分を死ぬほど気持ちよくしてくれる。押し返そうとする場所に無理に入れようとする度に、望むべき加虐心に点火しそうになる。


「狛江、まだ半分しか入ってない……」

 声を押し殺して痛みに耐える狛江は、一生懸命身体の力を抜こうとしていた。その姿に心が弛むが、このままこうしていては終われない。強めに腰を突き入れると抵抗は一段と増し、狛江が耳元で呻いた。

「ごめん……周防。ちょっと動かないで。痛すぎる」

 指先まで痛い。狛江が零した訴えに、おれは手を取ってその指に口づけた。マニキュアも小難しい手入れもしていない狛江の爪は、ピンク色できれいだった。指先は酒の味と狛江の汗の味がした。


「なにか、おかしい?」

 額に汗を浮かせながら小さく笑った狛江に、おれも半笑いで訊いた。

「普段しないことばっかだから、おかしく感じる」

「まぁそうだろうな。普段はすっ裸で汗掻いて必死に腰振ったりしないもんな」


 ゆっくり引いてまた押す。

 粘った濡れた音がして、快感に顔が情けないほど歪んだ。

 下にある表情には苦痛しかなかったが、おれは気持ちよくて何度も擦り上げた。狛江はおれを見て、自分に入っている方のおれを見て、観察と確認を終えたみたいに目を閉じた。

 絡めた指を強く握り返される。

 狛江はもう何も言わなかった。

 愛しいと思う感覚が再びやってくるが、悲しいことに行為途中のおれに優先されるのはいつもそっちじゃない。

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