5.昼
食堂で友達と昼飯を食べる狛江の姿を盗み見ながら、うどんを食っていた。
今日の狛江の昼食は、ハムサンドとオレンジジュース。ストローが差し込まれた唇に昨日は違うものが差し入れられていた情景を思い出して、うどんが宴会芸のように出そうになる。げほげほと咽せる間抜けな自分と、周囲ががやがやとうるさすぎて、背後で西田が呼んでいることに不覚にも気がつかなかった。
「おーい、聞こえなかったかー?」
「西田か……驚かすなよ……」
肩を叩かれて、ようやく西田の存在に気づいて、少し焦る。
がやがやとうるさいことを得意とする悪い友人に、おれが誰を見ていたかはあまり気づかれたくない。西田はカレーとラーメンが載ったトレイをテーブルに置くと正面に座り、おれは早速と言わんばかりに平然を装って先に話題を振った。
「お前、カレーにラーメンて……さっきパン食ったばっかだろ?」
「あれは前戯、じゃなくて前菜」
「あのな、メシ中に下品すぎんだろ」
「お前だって元々そんなお上品じゃないでしょーが」
ずるずると麺を啜ったりカレーを掬ったり、忙しく食物を摂取する西田はラーメンのスープを飲み干した後に徐におれに訊いた。
「それで考えてくれた?」
「一体なにをだよ」
「さっきの小夜の友達の件」
「はぁ? あれはあれで終わったんじゃねーの?」
「今日の夕方小夜に会って、返事をすることになってるんだよなー。もしいい返事ができたら、まぁ、俺はこれからも小夜に会える機会が増えるってわけで」
「なんだ、結局全部お前の都合の話かよ」
「髪のことは俺が説得してやるからさぁ、どうか周防様、この件、もう一回前向きに考えてくださらんかのぉ」
西田はちっとも可愛くない上目遣いで乞うように見てくる。その不憫なアホ顔に同情しないでもないが、残念ながらそれはないなと思っていた。
「あーあ、そっかー……元からすんごく期待してたわけじゃなかったけど、やっぱいい返事が戻ってきそうもないなぁ。あ、だけどもしかして周防、既に他に好きな奴がいるとか?」
「そんなのいないよ」
「えー、その言葉そのまま受け取れないなぁー。今、一瞬間があった」
「間なんかないって」
「ホントにぃ?」
「あのな、そこ追求するか? この話はこれで終わり、終了。それよりお前は自分のことを考えろよ。松倉とはヨリ戻したいんだろ? だったらおれに好きな奴がいるかなんてどーでもいいから、そっちを考えろよ」
「いーや、俺は俺のことも心配ではあるけど、お前のことも心配なわけよ。ヤリチンクソ男の水都ちゃんにいつかまともな彼女ができる日まで、俺はずっと生温かい目で見守っていたいって思ってんのよ。幼馴染みの純粋な気持ちとしては」
「なんだよそれ。本当にマジでいないから、気持ち悪い心配すんな」
「えー、それホントにホントにぃ?」
不満げにがりがりと福神漬けを囓る西田だったが、その途中で松倉小夜とやり直す機会が今回は完全に失われたことが身に染みたのか、がっくりと項垂れると、追加の炒飯を注文しに行った。
まともな彼女? 好きな奴? おれは西田の言葉を頭で巡らす度に答えに辿り着くこともないループに填り込む。
好きな奴はいない。おれはおれのことをそう思う。
しかし知らぬ間にまた狛江の姿を目で追っていることに気づいて、おれも項垂れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます