第6話 ミッションダイアナ3
元王妃を乗せた車は順調に予定の道を走り始める。しかし、これだけ多くのカメラマンがバイクで追走するのである。正直想定外だった。
「ハヤト! 外からの援護は難しいかもしれな……元王妃及びポールの様子はどうだ?」
俺たちにとって想定外だったってことは、ポールにとっても想定外なはずだ。これだけの目がある中の誘拐は難しいだろう。このまま無事に婚約者のアパートまで着いてくれ。
「こちらハヤト、今のところ変化はない。しかし、この状況にポールが少し焦っている様子だ……スピードが少しずつ上がってきている」
このハヤトからの報告は、外から見ていても伝わってきた。焦るポールがスピードを上げれば、バイクも必死で追いつこうとスピードを上げる。今度はポール、またバイクと徐々にスピードは135kmに達していた。
「少し危険なスピードだ! ハヤト……シートベルトをしてくれ、そして元王妃にもシートベルトを!」
そう言っている間にも車は150kmと速度を上げ、アルマ広場下のトンネルに差し掛かった。
何か手はないか……。
と思った瞬間
「キュルキュル……」
タイヤが路面との摩擦音を響かせると同時に
「ドッカーーン!」
元王妃の乗った車は他車を避けようとして、中央分離帯のコンクリートに正面衝突してしまった。
元 王妃は? ポールは? それよりもハヤトは?
頭が真っ白だった……。初めてのミッションリーダーで……しかも後輩まで……。
「何があった! 凄い音がしたけど……」
トンネルの出口で待機していたクルム先輩が車で駆けつけて、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに救急隊を手配し、元王妃の応急処置に入った。
俺も震える手で、ハヤトの元に駆け寄った。
「先輩、俺大丈夫っすから……。イテテ」
ハヤトは助手席に座ったまま、右手でシートベルトを指さして笑った。
「先輩のおかげっす……。イテテ。でも、すみません元王妃にはシートベルトが……」
俺とハヤトは、血だらけになりながら応急処置をしているクルム先輩に目をやった。
「ちっきしょ、ダメだ……」
頭部を胸部にひどいダメージを受けて意識すら戻らない危険な状態だ。それは素人目に見てもわかる。
「救急隊はまだか!」
俺は必死に叫んで周りを見渡した。
「ダイアナの事故死写真って高く売れるかな?」
「この写真でしばらく遊んで暮らせるぜ!」
こ んなことをつぶやきながら必死にシャッターを切っているカメラマンばかりで、ゾッとした。人類って助け合って地下世界を作ったんじゃないのかよ! この時代に生まれたかったなんて思った自分がバカみたい思えた。
「ユウマ、ポールは死んでいるし、元王妃は誘拐されちまったわけじゃない。歴史が少しだけ変わるが、事故死として扱われるだけだ・・・。幸いハヤトは無事だから、救急隊に引き渡したらミッション終了としよう。ミエコに報告を入れておいてくれ。」
クルム先輩は冷静だった。
「はい」
そう言うと、無線でミエコに連絡を入れた。
「容疑者ポール死亡。元王妃意識不明。ハヤト負傷。救急隊到着を持ってミッション終了とする。ミエコ、俺とハヤト、クルム先輩のピックアップ頼む」
「……ユウマ、ミッション終了、了解しました。ご苦労様です」
一瞬の無言があったが、状況を理解してくれたようだ。
それから5分間、必死に応急処置をしたが、元王妃は意識を戻すことなく救急隊へと引渡した。どうか生きていて欲しいと願って……。
ミエコのピックアップで俺たち4人は無事にタイムディスクに乗りこの時代を離れることになったが、2118年の地下世界へ戻る短い時間だったが、みんな無言だった。
後に聞いたことだが、元王妃は事故から3時間後に病院で息を引き取ったらしい。またこの事故死のニュースは全世界で報道され、陰謀説など様々な憶測が流れたらしい。
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