第5話 ミッションダイアナ2

 なんて美味しい空気なんだろうか。

 なんて空が高いんだろうか。

 風と呼ばれる空気の移動が気持ちいい。

 緑に茂る木々はいつ見ても心が落ち着く。

 そう、ここは地下世界とは明らかに違う、過去の地上の世界。

 俺もこの時代に生まれたかった……。


 2000年、日本の海洋学者とロシアの学者が地球に氷河期が来るという論文を発表し世界が動いたのだ。まだ宇宙への移住が無理だと判断した人類は地下への移住を決意。秘密裏に世界各地の地下掘削が開始された。日本では2004年10月の新潟県での地下掘削に初まり、2011年3月には宮城県、2016年4月の熊本と規模が広がった。世界でも2001年11月に中国で、2004年12月インドネシアのスマトラ島沖、2010年1月ハイチと各所で掘削作業が開始された。

 この掘削作業にも多くの犠牲者が出たと聞いている。地下での作業はもちろんだが、地上では大きな揺れを記録し、建物の倒壊や大津波の到来などを引き起こしてしまったのだ。

 世界は大地震であるとの発表を貫いた。


 もちろん、地下掘削だけではなく、地上からも氷河期到来を阻止しようとする科学者たちが、様々な手が打った。地上の二酸化炭素の量を調整しながら温暖化へと導こうとしたのだ。人類は35℃を超える気温を作り出すことに成功したのだが……その後台風の異常発生や大規模な山火事の発生、ゲリラ豪雨などの弊害を引き起こす結果となり、世界は地下掘削へと意思を固めて行ったのだ。


 俺はいっそのこと、この時代に生きていきたい……。


「ユウマ! 何をボッとしてる! 早くバイクに乗って配置についておけ!」

 クルム先輩の厳しい声で我に帰った。


 そうだ、任務中だったんだ。バイクにまたがるとエンジンを掛けてアクセルを吹かす。

 タイヤってなんて乗り心地が悪いんだ。地面から振動がモロにお尻に伝わってきやがる。


8月30日11:58

無線から全てのキーパーが配置についた事が知らされる。当然俺もバイクで配置についた。ここで予想を大きく外れていたのは、バイクに跨ったカメラマンの数の多さだった。


8月31日0:04

 ハヤトはジョーンズと名乗り、元王妃との接触に成功の報告。


8月31日0:05

 ハヤトから容疑者を姿を確認したとの報告。


8月31日0:09

 ミエコから元王妃が乗る段取りの車がホテルに向かっているとの報告。


8月31日0:15

 クルム先輩から走行予定の道がクリアであることの報告。


8月31日0:19

 いよいよ、元王妃、婚約者、ハヤト、ポールがホテルから出てくる。

ホテルの周りのメディアが一斉にカメラのシャッターを切る。凄い数のフラッシュで目がクラクラするぐらいだ。


8月31日0:20

 多くのメディアを蹴散らし、いよいよポールが運転する車が動き出した。


「よし! ミッション開始だ!」

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