第9話【lesson④シルフィード(錬金術)

「うえぇん。」


「もう泣かないの。新しいのは直ぐに作って上げられるから。」


泣くマーリルをシルフィードが宥める。


なんでもあの玉はマーリルがブラッディウルフ海賊団に入隊する前に、シルフィードが魔力コントロールの苦手なマーリルの為に自ら開発した魔道具だそうだ。


そしてマーリルにとってはブラッディウルフ海賊団に入る前の思い出の品で、初めてのプレゼンだったそうだ。。


ってか気まず!!!


なんでそんな物俺に渡すんだよ!完全俺悪者じゃないか!


「だって‥だって思い出がいっぱいつまった物なのに。」


泣き崩れるマーリル。


「大丈夫よ。」


そう言ってシルフィードはマーリルの頭を撫でると、地面に魔法陣を描きだした。


そして更に魔法陣の上に俺が壊した玉を置く。


何が始まるんだ?


「見てて。」


シルフィードが魔法陣に魔力を流し込むと、バチバチと音を立てると共に、玉は瞬く間に元の形に戻った。


「はい。これで大丈夫。」


マーリルは目を輝かせ感動し、シルフィードに抱きついた。


「シルフィード大好き!!」


マーリルは慣れればこんなにも可愛い一面もあるのか?と感心してしまった。


がしかし、今のはなんだ?見た事がない。


「不思議そうな顔をしてるわね。これは錬金術よ。」


「レンキンジュツ?」


「そう。ここらではまず見かけない術だから知らないのも当然よ。」


「魔法じゃないの?」


「ん~近しいものだけど少し違うかな。魔法を放つという感覚よりも知識がさらに重要なの。」


「へぇ~、やっぱり色んな国に航海してるだけあって色んな事を知っているね。」


「ふふ。興味ありそうね。あせらずとも私が教えるのはこの錬金術も含まれるわ。それにね。この地方では魔法が主流だけど私が元いた土地では逆に魔法が無くて錬金術が主流だったのよ。」


「ほぉ。」


俄然興味が湧いてきた。


俺は今いる場所の常識しか知らない。今いる環境の中の当たり前が当然で、それが普通だと思ってきたからだ。


けど、それって本当に普通なの?


そんな疑問を抱き始めたのがキッカケで俺は冒険者という道を選んだのだ。


結果弱小だったんだけど‥。


けど、ヒルデガルデ達と会えた事は本当に好機だったのかも知れない。


海賊であるヒルデガルデ達は海を渡る。つまりこの固定概念の世界から飛び出すきっかけになるかもしれないという事だ。


けど‥。ん?


バチバチ!!、


不意にシルフィードが更に錬金術をしたかと思えば、俺にその作った物を手渡した。


よく見ると、マーリルから借りた玉とよく似ている。


「これは?」


「貴方様に今作ったのよ。マーリルのを貸すのはもう可哀想だしね。それにハル君の場合は特別製でないとダメみたいだしね。」


「‥??」


「話は変わるけど、マーリルはああみえてまだ私達の元にきて一年なのよ。」


「えっ!?僅か一年で名を連ねる程になったの?」


「えぇ。元々魔力のある子だったけど魔力操作がメチャクチャでね。だから貴方も気を落とさず頑張ればすぐできるわ。」


そんな話に聞き耳をたてたのかマーリルが口を膨らませて話に入ってきた。


「もう!!シルフィード!なんで言うのよぉ!」


「本当のことでしょ。」


シルフィードが悪戯っ子っぽい表情でマーリルを揶揄う。


シルフィードもあんな顔もするんだ。しかし何をしても綺麗だ。


って事より!


「魔力操作がメチャクチャだとヒーラーの魔法は難しいんじゃ‥」


俺の疑問にシルフィードが答える。


「その通り。マーリルは元々ヒーラーじゃなくて魔法使いだったの。」


「魔法使い!?」


驚く俺にマーリルは無い胸を張ってドヤ顔する。


「えっへん。昔の話だけどね。」


「昔って、一年とかそこらじゃ‥」「何かいった!!?」


溢れた言葉を遮る様に睨みをきかすマーリル。


「な、何も。」


「ふふ。いいコンビね。」


「そんなんじゃないわよ!!」


〇〇〇〇


しばらくして、マーリルの修行の続きを終えた俺はシルフィードの修行へと移っていた。


シルフィードの修行は授業という感じで哲学的な要素を含む。


等価交換。


「無から有は作れない。つまり何かを得るには同等の代価が必要。そして何かを得る為には何かを犠牲にしなければならないのよ。これが私のいた国の法則。けど、外に出てみれば魔法なんていう科学では説明できないものを間近にした時は正直腰を抜かしそうになっちゃったけどね。」


シルフィードは眉をたれ下げて話す。


「でね。今更だけど固定概念を崩す為に私も魔法を覚えようと努力したところ、ある所に着手したの。この魔法と錬金術を合わせる事は出来ないか?これはハル君にとっても重要な事だから聞いてね。」


俺はシルフィードに渡されたメモに書く準備をする。


「知ってると思うけど、魔法の属性はこの世界で計7つあるの。火、水、雷、土、闇、光、無。図で表すとこんな感じ。」


水➕土


||



「それからね。相性というものがあって、水は火に強い、雷は水に強いみたいな相性は勿論なんだけど、人にも生まれつき扱える属性は2つまでと決まっているの。例えばマーリルの場合、水と光が使える。それを除けば他の属性は唱えたとしても全く発動すらしないの。」


「知ってる。だけど無属性だけは確か例外だったよね?」


「その通り。」


思い出してみればミスズやマドカも色んな魔法を試して相性を探ってたっけ。


ここらへんは、この常識の世界で生きてきた俺もよく理解できている所だと思っている。


そして何故、無属性は外すかというと、訓練次第で発動可能だという事が、産まれながらにしてこれも常識的だからだ。


何かの宗教団体的にはこの生まれもった魔法の才能をギフテックという団体もいたっけ‥。


そんな話はさておき、俺にももう一つ、無属性以外にも使える属性がある。が、初っ端に発動させようとした【#治癒__ヒール__#】が発動したからこれ一本できたんだったよな。今度試してみよう。


「だけどね。希に一億人に一人。この属性よりも多く属性を持っている人がいる事は知ってる?」


「あっ。それも聞いた事がある。実際見た事はないけど‥」


「あら?知らないの?」


「え?」


「その代表各的な人物と言えば、うちの総長よ。あの人は四属性を使いこなす」


「四属性も!?凄い。本当にそんな人物が存在するなんて」


さすがSランクの規格外な人物。彼女ならやりそうだ。


もっとも、普段はそんな風には見えにくいのだけど‥。


「そしてさっきも言ったけど貴方にもそれは共通する。」


「え?何の話?」


俺が首をかしげるとシルフィードは呆れたように溜息を1つはいた。


「何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいよ。」


妙に真剣な眼差しでシルフィードが俺を見る。


「なに?」


「貴方は其れの上をいく、全属性持ちなの。」





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