第6話【どんな時でも前を向いて生きるんだ】


マーリルの【#治癒__ヒール__#】で回復しきった腕を回す。


「まさか【#治癒__ヒール__#】だけでこんな簡単に直してしまうなんて。」


そう。擦り傷程度なら直ぐに治せてしまう魔法だけど、その傷口が深くなればなるほど魔法を当てる時間が長くなるのは当たり前の事だ。


まして骨折などはもっと時間がかかる。


弱小と言われた俺でなくても5分はかかるのにそれを10秒と経たないまま回復させた。


いくら幼女に見えたとしても、やっぱりブラッディウルフのメンバーなんだと改めて思い知らされた。


「当たり前よ!感謝なさい!!」


「あ、ありがとう。」


「なっ!!そ、そんな素直に言わないでよね!調子狂っちゃうじゃない!あっもしかしてそうやってコミュニケーション取って親しもうって腹?いっとくけど‥モガモガ」


マーリルの口をラルフレッドが背後から手で抑え込む。


「ほほほ。若き者は輝かしい限りですな。あっ、シルフィ殿から言伝を頼まれておりました。今日はもうハル殿は休んでいいとの事で明日の朝にまた訓練再開だそうです。それと泊まっていた部屋は自由に使っていいとの事でしたよ。」


ふと窓から外を眺めると修行を始めたのが早朝だった事もあり、陽はまだあった。


「自由時間でいいの?」


「宜しいと思います。」


自由時間。思ってみればあの出来事から一人でいる時間が少なかった。


バタバタと何かとする事を増やされた所為だろう。


けど、身寄りのない俺はきっとヒルデガルデ達に拾ってもらわなきゃ一人で暗闇の中、殻にこもっていただろう。


ましてや自暴自棄になり、何をしでかすかも分からなかった。


救われた?


仕打ちが酷くて救われた感じがしないのも現実だけど‥。


助けられたのは間違いない。


「どこか出掛けられるので?」


「ちょっと‥ね。」


「ふん。逃げ出そうたって無理よ。その腕輪ですぐに見つけちゃうんだから!」


「逃げださないよ。」


俺がそう言うとマーリルはキョトンとした表情をする。


「な、ならいい‥けど。」


「じゃ。」


そう言って俺は酒場を後にした。


向かった先は皆んなとの思い出が詰まった宿舎だ。


何日か泊まる金額を前金で払っていたから部屋はそのまま誰にも使われていない。


俺はシンジとタケルと3人でいた部屋に入り整理する。


とは言っても荷物という荷物はまるでなく、あったのは使い古した衣類ぐらいだった。


それから俺はミスズとマドカの部屋へ向かった。


ミスズとマドカの部屋はあの時のまま飾り付けがしてあり、とても豪華。‥とは言えないが華やかになっている。だけどこの空間だけ時が止まった様になっていた。


紙で作った文字を壁に貼り付け文書が書かれている。


"最高の仲間"


胸が締め付けられる。けど泣いてばかりいられないよね。


散々昨日は泣いたしね。


皆んな‥。


暫くその部屋に一人で座りこんだ後、俺は部屋からでた。


宿主のオバちゃんに経緯は説明しなかったけど、男子の部屋は撤収する事にした。


皆んながパーティをする筈だった部屋は何故か撤収するのを躊躇ってしまって、有金を前金でさらに追加した。


宿主のオバちゃんもこの仕事が長く、俺の表情で何かを察してくれたのか、快く承諾してくれた。


「いいの?」


「いいさ。部屋もそのままにしておくよ。」


「‥ありがとう。」


「なんだい?元からシャキッとしては無かったけど今日は一段とシャキッとしないね。元気がなきゃ運気が逃げちまうよ。前金の有効期限は20日後だ。それまでにまた顔を見せとくれ。」


俺はお辞儀を1つして、宿舎を去った。


また甘える事になるけど、俺が酒場に戻った頃には日が沈んでいた。


「おう少年!帰ったか!」


酒場に入るとすでに皆んなが酒盛りをしていた。


「ささハル殿、席に座り共に食を楽しみましょう。」


「あーー!!アッシュ!!それは私が狙ってた奴なのにぃ!!」


「モグモグ。ゴックン。もう食べちゃったぁっと。」


「このぉ!!吐き出せぇ!!」


マーリルがアッシュに飛びかかるとシルフィードがそれを注意してする。


「マーリル!行儀が悪いわよ。それにそれは汚い!!」


「ヒッデ!確かに汚いかもだけどさぁ。もっと言い方が‥」


「かかかか!!私も酔ってきたぞぉ!今日は少年の魔力解放祝いだ!!少年も飲めぇ!!」


「わっ!ちょっ!ゴボボ」


深夜。


「これはこれは‥」


あれから飲みに飲んで皆ヘベレケで倒れ込んでいた。


ラルフレッドとシルフィードは平静を保っていて、ラルフレッドが一人ずつ部屋に運んでいく。


俺はというと、早い段階から酔い潰れ寝てしまい今不意に目覚めた所だ。


う~、喉が乾く。


店のマスターに水を一杯もらい、二階にあるバルコニーに出た。


もうそこらの灯りは消えていて、夜空の星が綺麗に映し出されていた。


「あら?先約ね。」


振り返るとシルフィードだった。


「ちょっと飲み過ぎで頭痛くって。初めて飲んだけどこんなに響くんだね。」


「ふふ。飲まされて災難だったわね。」


「ホント‥にね。けど‥ある意味気が紛れてるのもホント。昨日ヒルデガルデに"それでも乗り越えなくちゃいけない。それが冒険者としての道を選んだ少年の宿命だ"って言われたんだ。確かにそうだなって感じた。けど実際なってみるのとなってないじゃこんなにも現実は辛いん‥だと、思い知らされたよ。俺、これからどうしたら‥いいかな?って、俺‥何言ってんだろ。会って間もないシルフィードにこんな話するなんて‥。ごめん。き、きっと酔ってる所為かも。気にしない、いや、聞かなかったことにして。って。え?」


シルフィードはそっと俺を抱きしめる。


「強くなるのよ。誰もを守れるくらいずっと強く。」


「シルフィード?」


「私達が全力で手助けするわ。だから泣くのは辞めて"どんな時でも前を向いて生きるのよ"。」


あれ?涙が、涙が止まんない。


不思議だな。昨日あんなけ泣いたのにまた涙が溢れでるよ。


「くっ、うう‥」


「よしよし。」


シルフィードが優しく抱きしめてくれる。


男として情けない?


今はそんな事よりも誰かが側にいてくれる事が何より嬉しかった。


○○○


その物陰でラルフレッドが両拳を握りしめ、目に涙を浮かばせる。


「辛いでしょうが頑張るのです。ハル殿!」


○○○


翌朝。


「お?少年。今日は早いな。」


「まぁ、いつまでもくよくよしてらんないしね。さぁ、今日も修行つけてくれるんだろ?」


「良い心意気だ。私達の修行は厳しいぞ。」


「手に届く者を守れる強さが得れるなら、望む所さ!」

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