第5話【魔力解放】
死ぬぅ!!!
地面が間近に近づいた瞬間、走馬灯とはこの事かと過去の記憶が蘇る。
〇〇
質素な宿舎で寝床はワラを引いたベット。
そんな場所が俺達パーティーの寝泊まりする場所だった。
だって仕方ないじゃない。
お金‥ないんだし。
それでも寝床がないよりマシで、暫く住めば何故か心落ち着く場所となっていた。
宿舎の中央には質素だが大きめの屋根があってその下には井戸があり、その横は囲炉裏があった。
冒険者達のちょっとした溜まり場みたいな感じでよく俺達は夜になるとそこで話をしたりした。
とはいっても殆どの冒険者達は入ったと思えばすぐに出て行って、いつも残った俺達だけで貸切状態だったんだけど‥。
皆と別れる少し前。
「なぁ。俺らってもう何年になるんだっけ?」
タケルが不意に話題を持ちかけ、それを俺が答える。
「ん~と。3‥年ぐらい?」
「そっか‥。三年か。」
タケルが月を見上げるとミスズも月を見上げて呟いた。
「三年。‥って、思ったより短い。」
「あっという間だった?」
俺がそう質問するとミスズは首を横に降る。
「ううん。なんだかもっと長い事一緒にいるようなきがするの。だからまだ3年なんだなぁ~ってね。」
「あ‥うん。確かに。」
俺はミスズが好きだった。‥多分。
恋愛ベタな俺は自分の気持ちがどんな風に傾いているのかわからなかった。
けど、ミスズが何か行動する度に意識したり、今だってミスズが満月の光に当たっている姿がとても素敵に見える。
「なぁに見てんだよ!」
そんな俺を揶揄う様にシンジが俺を背後から羽交い締めする。
「なな!ちょ、ちょっとぉ!!ギブギブ!」
「うるせぇ!ハッキリしねぇお前が悪いんだ!」
「わっ!?ちょっ、ちょっと。」
ジタバタと抵抗すると体制を崩し、近くの桶をひっくり返した。
ガジャァーン!!
「ちょっと!何してんのよ!」
定番ながらマドカに怒られる。
「わりぃ、わりぃ。あんまりに此奴がハッキリしねぇからよぉ。」
「ったく。いつまでもお子様なんだから。」
マドカとシンジはパーティーの中でも公認の仲だ。
休みの日は2人で出かけたりなんかしてるのもよく見る。
幸せ。‥なんだろうな。
ドスっとシンジのチョップが俺の頭に刺さる。
「って!」
「また何しみったれた顔してんだよ。あっそうだ。今までやって来なかったけどさ、たまには記念日パーティーなるものをしようか!」
「えっ!何何!?」
ミスズは興味心身だ。
「高価な所で飯をたらふく食べてって訳にはいかないけど、部屋に色んな飾り付けを付けてだなぁ、記念日を祝うんだよ。不思議と今までやってこなかったろ?」
「リーダー。たまにはいい事いうじゃねぇか。」
タケルがニタリとそういう。
「"たまに"は余計なんだよ!」
「この意見に賛成のものは?」
皆んな反対する者はいなかった。
「なら休みの前の日に実行って事にしようぜ。その日の前日までに飾り付けを済ましといて、当日は早朝に出て早めに帰ってこよう。」
「「「「うん」」」
それから色紙を買ってきたり歯切れの布を縫い合わせたり皆んなで協力して前日を迎えた。
「いい出来だな。」
シンジが満足気に部屋を眺めていると、マドカの頬に涙が伝う。
「っておい!何泣いてんだよ!?」
「だって‥なんだか‥嬉しくて。」
「おいおい大袈裟だぜ。そんな大層な事なのか?なぁハル。‥て!!?なんでお前まで泣いてんだよ!!」
「あっ‥。本当だ。‥なんだろう?勝手に‥。」
「私も‥。」
ミスズも釣られて涙が溢れでる。
「いいねぇ。これぞ青春だぜ!弱小パーティーといえど青春はここにも存在した!」
「タケル茶化すなよ!」
「へっ。でもさ。いいよなこういうの。俺‥やっぱりお前らといれて本当に良かったって心から思うぜ。」
「タケル‥。」
シンジの目に涙が浮かびあがる。
「って!やっ、辞めろよないきなり!!危うく‥!!?」
「危うく何?」
マドカがニヤリとした表情でシンジを下から覗きこむ。
「やめだ、やめだ。さっさと寝るぜ。明日は早いんだからよ!」
「なぁ。シンジ。」
恥ずかしがって部屋に向かおうとするシンジを俺は引き止める。
「俺にもしもの事があっても‥」
俺が発言しようとするとシンジは俺の肩に肩を回す。
「ったく。お前はどっか臆病だよな。ドーンとしてる時はドーンと行く癖によ。いいか?皆んなも聞いてくれ。俺達はパーティー。つまり仲間だ。どんな事があっても一緒だ。誰が欠けてもいけない。前を向いて生きるんだ。俺達が共にある。」
「「「「おう!!」」」」
その当日。
いつもより皆んなの調子はよかった。
だから少しぐらいならと、いつも行かない三回層に足を踏み入れたんだ。
別れを迎える事とも知らずに‥。
皆んな。俺は運良く生き延びてしまったよ。
俺、これからどうしたら良いかな?
このまま死んだ方がいっそ楽なのかな?
分からない。分からないよ。
会いたい。また皆んなと笑いあっていたいよ。
ねぇ‥。
「「「「どんな時でも前を向いて生きるんだ!!」」」」
「そうか‥。そうだよな‥」
その瞬間。俺の身体が光輝きだす。
「俺は!‥俺は頼りない人間だ!だけど!だけど皆んなと歩んだ思い出や、今生きている事。全ては皆んなが繋いでくれたこの命。無駄にはしない!!!」
ゴォォォォオ!!!!!!!!
自分でも信じられない程の魔力が解き放たれる。
普通魔力は目に見えない。だけどハッキリと目視出来る。七色に輝く膨大な光が‥。
○○○
「うう‥」
「やっと目覚めたか少年!」
もう何度目の似た目覚めだろう。
「俺は?‥」
「良くやったわね。」
この声はシルフィードさん?と顔を向けると、そこにはシルフィード、ヒルデガルデ、ラルフレッドがいた。
それから周りを見渡すと辺りは真上からみた荒野の上だったことでホッとする。
「助かったん‥だな。けど‥あの時何が?」
「厳密にいえば少年は精神世界にいたと言った方がいいかもな。」
ヒルデガルデはニヤリとする。
「精神‥世界?」
「つまり元から貴方は空から落ちていなかったという訳よ。」
「えぇぇ!!!!嘘!だって肌でしっかり感じてたのに!!?」
「そんな事したら本気で死んじまうだろ。そんな事しねぇよ。それにしても本気で落ちてもないのに助けてぇ!!!だの死ぬぅ!!だのウオォ!!など少年面白すぎ!!かかかかか!!腹痛い!!」
「ヒルデ!ここは笑ってはダメよ。それは悪い癖。」
「だって少年のあの姿を思い出したら‥っぷ。無理だぁ!!!」
赤面し膨れる俺の顎をシルフィードは持ち上げ顔を近づける。
大人の女性って感じで、なんだか良い匂いもする。
って何考えてんだ俺!!!
「ごめんなさいね。けどこうでもしないと貴方の魔力を解放するのは難しかったの。辛い思いをさせたわね。」
シルフィードが俺の頬に手を当てる。
慌てて俺は後方に引き下がる。
「い、いえ。全然大丈夫!いや‥大‥丈夫じゃないけど‥。兎に角無事なんだし。」
「ほほほ。無事で何よりです。私もヒヤヒヤでしたからね。何せ最後の瞬間に魔力解放しなければ一生、精神世界から出る事が出来なくなる所だったんですから。」
「え?」
「おい。ラルフレッドそれを言ってはいけないだろう」
「この野郎!!やっぱり殺す気だったんじゃないかぁ!!!」
「結果オーライって事で許せ!!」
「許せるか!!一発殴ってやる!まてぇ!!!」
「かかか!腐ってもSランク!考えが甘い!」
バキィ!!
俺の骨が折れる音。
「ギャァァァァ!!!!」
「ヒルデ!!加減しなきゃ!!ラルフレッド!直ぐにマーリルの所へ!!」
「しょ、承知!!」
○○○
ハルがラルフレッドに連れられシルフィードとヒルデガルデが荒野で二人佇む。
「まったく。やり過ぎよ。」
「いやいや。面目ない。なんだか弟が帰ってきたみたいでな。はしゃいじまった。」
「‥。確かに、何処と無く似ているわね。けど、あれはハル君よ。」
「‥分かってるさ。」
「それにしても、とんでもない者を拾ったものよね。」
「あぁ。ハルはこの先、私よりも強くなるかもしれない世界の希望になり得る存在かもしれない。」
「私達でできるかしら?」
「やるんだよ。何が正解かは人それぞれ違うけど、己の信念は曲げるつもりはない。」
シルフィードが少し微笑む。
「貴方が総長でよかったわ。」
「褒め言葉として受け取っとくよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます