第2話【辛い現実】

「うう‥。」


「きずいたようだな。」


その声で俺は飛び起き、そして体を見渡した。


傷が無い。


「よかった。元気みたいだ。」


夢?


声のする方へ視線を向けると、赤髪で海賊風な服装をした女性が俺の寝るベットの横に足を組んで座っていた。


「俺はいったい‥。」


「少年は死にかけの所、私達に偶然見つかり助かったんだよ。」


「助かっ‥た?‥。」直ぐに脳裏に浮かび上がったのは他でもない「タケル!ミスズ!他の皆んなは!?」


すがる思いで問いかけた。


だけどその答えは聞かずともわかっていた。


俺が助かった理由は1つ。


まだ辛うじて息があったからだろう。


そして恐らく、俺の治癒に使われた魔法はヒーラー職の最上位魔法【#奇跡の治癒__サクラメン__#】。


致命傷を即時に治す事ができる奇跡の魔法だ。


並の冒険者じゃまずお目にする事も出来ない魔法だ。


だが俺がここにいる事と、この女性が前にいる事でそれは確信へと変わる。


何故なら俺はこの女性を知っていたからだ。


ダンジョンハンターの中では有名な【ブラッディウルフ海賊団】総長、【戦乱女帝・ヒルデガルデ】。


E~Aランクまである冒険者のランクを超えてSランクというとんでもない実力を持つ人物だ。


だからパーティーに【奇跡の治癒】を使える者がいたとしても不思議な話しでは無い。


だが【奇跡の治癒】でも万能ではない。致命傷でも息がまだある内のみ使える魔法だ。


息が途絶えてしまえば、傷を癒すこともできない。


俺が最後に見た皆は既に息も出来る状態では無く、事切れていた。


助かる筈が無い。だけど聞かずにはいられなかった。


ヒルデガルデは当然の様に無言で首を振る。


現実を再確認し胸から色んな感情が押し上げられるかの様に涙が溢れでた。


言葉にならない。どうして、どうして‥。


「仲間を失うという事は辛いだろう。私も幾度か経験した事がある。だが少年は覚悟の上で冒険者になったのだろう?遅かれ早かれ皆が経験する事だ。生きていた事だけでも皆の報いにもなるさ。」


「うるさい!!!わかった様な反応をするな!!俺達はそんな簡単に割り切れるような絆じゃないんだ!!」


俺は怒りに任せヒルデガルデに突っかかろうとすると安易に躱され一本背負いで地面に叩きつけられた。


「ぐはぁ!!」


「それでも乗り越えなきゃならない。それが冒険者としての人生を選んだ少年の宿命だ。」


「そんなこと‥、そんなこと言われなくったってわかってる。わかってるんだ!皆んな!‥皆んな、本当に本当の家族みたいに‥。いや、‥唯一の家族だったのに‥俺は、‥俺‥は、う、うぉ、ぉぉ」


最悪の八つ当たりだ。ヒルデガルデに何かを言った所で現実は重く俺にのしかかる。


わかってる。ヒルデガルデの精一杯の慰めだった。


むしろ感謝しなければいけない相手に俺は‥


ヒルデガルデは真っ直ぐに俺を見つめると息を1つフゥとはいた。


「とりあえず今は休め。落ち着いたら下に降りてこい。飯ぐらいなら奢ってやるさ。」


ヒルデガルデはそう言い残して部屋から出ていった。


何時間たったろうか?起きた時は日が差し始めだったのにもう傾きを見せている。


整理しきれた?こんなすぐに整理できるものじゃない。


だけど少し今は落ち着いている。


ベットから這い出た俺は部屋の扉を開けた。


下の階が妙にガヤガヤとしている。


俺はゆっくりと歩をすすめ階段を下ると、下の階は見慣れたギルドの酒場だった。


相変わらずいつ来ても笑い声や喧嘩をする者など活気溢れ賑やかな場所だ。


けど弱小パーティーの俺達が狩る魔物だけでは酒場で飲食するには高く、ここへは仕事の請け負いが殆どで、普段は自炊だった。


けど運良くお金が多く入った時は贅沢に行こうと皆でワクワクしながら来たりしてたんだ。そしてちょうどあの端の席が俺達の特等席と勝手に決めたりもした。


皆んなで笑って、泣いて、考え、慰めあって協力した。


皆んなの顔が、皆んなの残像が一緒にいた場所場所に浮かび上がる。


だけど皆んなはもういない。


「おーい。やっと降りて来たか泣き虫少年!」


呼びかけてきたのはヒルデガルデだ。大分と酒が回っているようだ。


さっきの凛々しい感じとは段違いだ。


ヒルデガルデは俺を見つけるなり俺の首に手を回し俺の頭をクシャクシャにしだした。


酒の匂いもきついが、ヒルデガルデは普段晒しで押さえてはいるがかなりの巨乳で俺の顔を塞ぎ込んでいた。


俺は慌ててそれを突き放す。


「な、何すんだよ!!」


「かっかっか!!ノリだよノリぃ!おら!酒を飲むぞ!!」


そう言ってヒルデガルデは俺の手を取り無理矢理席につかせた。


「わっ!わっ、ちょっと!って‥」


席に着き、同席するメンバーに目を向けると俺は固まった。


何故なら同席するメンバーは【ブラッディウルフ海賊団】の創造たるメンバーだったからだ。


第1隻【乱旋律・アッシュ】職・シーフ


グレイアッシュの綺麗な髪をしていて容姿淡麗。だが明らかにチャラそうな感じだ。


第2隻【荒ぶる暴君・マーリル】職・ヒーラー


綺麗な青い髪をカチューシャでオールバックしている。容姿は幼女のようで可愛らしい感じだ。


第3隻【剛腕豪傑・ラルフレッド】職・武道家


その2つ名の如く筋肉の塊のような男で、髪は金髪リーゼント。ダンディな顔つきで、厳つい感じにも見える。


副総長【明戦軍師・シルフィード】職・魔法使い


容姿端麗の女性で、紫色の長い髪をポニーテールで縛り上げ、長さ30センチ程の赤い扇子をいつも持ち歩いている。


そして皆ブラッディウルフで統一している金属でできた腕輪を付けていた。


「おぉい!!皆んなにここで私から発表がある!」


ヒルデガルデが藪から棒に皆に耳を立てるよう指示し、皆がヒルデガルデに視線を送る。


「私ゃ決めたんだ!!!今日からこいつをパーティーに入れる。」


皆は驚き、そして強張りの表情をみせた。


「な!?何を言いだすのよ!!」


マーリルがテーブルを叩きつける。


「総長。それはいくらなんでも急すぎるのではありませんか?」


ラルフレッドも戸惑いを隠せない感じだ。


「俺は別にかまわないけどなぁ~。面白い事は大歓迎だぁよっと。」


「アッシュ!!あんた何呑気な事言ってんのよ!!戦いの時に足手まといが増えるかも知れないのよ!?これはどういう意味かわかって言ってるの?」


「あらあらぁ?また可愛い顔して怒っちゃってぇ。怒ってても可っ愛ぃ~!」


アッシュがニコっと微笑みマーリルの頭を撫でると、マーリルはそれを勢いよく振り払う。


「な、ななな!何するのよ!!今はそんな話してない!!そんな事言われたって嬉しくないんだから!!」


「照れちゃって可愛いね。」


「むぅ!!バカにしてぇ!!」


マーリルがアッシュの胸ぐらを掴んだ瞬間、シルフィードがパンと手を鳴らし皆を静止させた。


「しーずーかーに!私達がどう言ったって始まらないでしょ。決めるのはヒルデなんだから。」


マーリルはキッっと俺に睨みを効かす。


「い、いや。俺を睨みつけられても困るんだけど?俺だって意味がわかんないんだから。どういう事?」


ヒルデガルデに俺が問いただすとヒルデガルデはニヘラっと笑う。


「お前には見込みがある!そう思っただけ‥だ‥よぉん!」


ガッシャァン!!


ヒルデガルデが床に倒れこんだ。


「「総長!!!」」


皆慌ててヒルデガルデを看病し始める。


「あらあら。お酒弱いのに飲むから‥。これじゃ話しができないわね。ところで、貴方の名前は?」


「‥ハル、だけど‥。」


「そう。ハル君ね。取り敢えずお腹空いてるでしょ。今日の所は総長の代わりに私が奢るわ。それに宿代もね。」


「そんな?い、いい‥よ。自分の分は自分で出す‥!?」


シルフィードは俺の口に人差し指を当て発言を止めニコっと微笑む。


「フフ。強がってもダメ。こういう時は甘えなさい。今日と同じ部屋を使っていいようにしとくから、明日朝また起きたらこの場所で待ってて。そしたら改めてさっきの話の続きをしたいと思うの。」


突然の展開で意味が分からないが、断る余地が無さそうにも感じて反射的に頷いてしまった。


それからシルフィードは俺にスープとパンをだしてくれた。正直、昨日今日の出来事で余りお腹は空いていなかったけど、食事を前にすると自分でも驚く程ペロリと簡単に平らげてしまった。


「生きてれば、何があっても不思議とお腹は空くものなんだな。」


「何かいった?」


思った事がつい言葉にでてしまった。


シルフィードが首を傾げ俺を見ると、俺は視線を逸らした。


「な、何も‥。」


「そう。なら‥いいけど。貴方も疲れているでしょ?私達には気をつかわず食べ終わったなら部屋でゆっくりしてもいいわよ。」


シルフィードの優しい気遣いに感謝した。


「あ、‥ありがとう。」


そういうと、シルフィードは少し目を丸くしたが直ぐに微笑み返してくれた。


「‥気にしないで。」


それから俺はシルフィードの言葉に甘えて部屋に戻ると暗い部屋の窓から月明かりが差し込んでいた。


再度ベットに転がり込んだ俺は天上を見上げる。


普通なら最強と謳われるブラッディウルフ海賊団に入れる機会などありえない。


誰もが羨む展開なのかもしれない。


けど俺は‥。


仲間の顔が脳裏に浮かぶ。


直ぐに切り替えられる程、簡単な人間じゃない。


今はパーティを組みたいとはとても思えないよ。


それに今の俺じゃ何の役にも立たないし、ましてや戦場で足手まといがいるということは弱小である俺でも理解しているつもりだ。


確実に皆んなに迷惑をかける。


俺なんかが役に立てるはずもないんだ。


明日もし、また俺を誘ってくれたとしても答えは‥。


俺はそのまま意識を手放した。


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