Case6:夏休み

 それから程なくして、夏休みが始まった。

 私はこれをずっと心待ちにしていた。復讐のチャンスだからだ。

 お父さんは「夏休み中に、元のご両親と食事にでも行こう」と言い、食事会をセッティングしてくれた。

 夏休み最終日の明日が食事会だ。

 ──絶対に、殺す。元両親あいつらに、てんちゅうを下してやる。


 元両親は、約束の店に30分遅れてやって来た。

「お招きいただき、ありがとうございます。葉月の父です」

 そう言って、元父親は頭を下げた。

 こいつの性格は私が一番よく知っている。外面だけはいい男だ。一応、取り繕ってはいるが、すぐにボロが出るだろう。

「初めまして、吉良と申します。あぁ、そうだ。あなた方にお渡ししたい物があります」

 お父さんは挨拶もそこそこに済ませ、私を見た。

「あ、これ……」

 私はおずおずと花束を差し出した。

「まぁ、きれい! これは何の花束?」

「えっと、シロツメクサ、オトギリソウ、スノードロップの花束だよ」

「まさか葉月がこんな事をしてくれるなんてねぇ……。母の日にも、私の誕生日にも、何もしてくれなかったのに」

 元母親は、涙を流していた。


 ──よく言うよ。私が何かあげたら「どこから盗んで来た!」とか言って物と一緒に閉め出したくせに。


 そう思ったが、空気を読んで言わない事にした。

「そんな事ないですよ。葉月ちゃんはとても優しい子で、僕の誕生日や父の日には毎年、プレゼントをくれますよ」

「いやぁー、吉良さん! それ、絶対気に入られようとしてるだけですって! ま、そういうところがウザいから捨てたっていうか!?」

 お父さんのフォローなど意にも介さず、元父親はカウンターをバンバン叩き、下品にわらった。元母親も「あっはっは、言えてる!」と同調した。

 だいぶ酔っているらしい。だ。

「わらひ、トイレ行ってくるわ〜」

「あっ、俺も〜」

 元両親はトイレに立った。チャンスだ。


「今だよ、幸乃」

 お父さんが私に耳打ちする。

「うん、分かってる」

 私は鞄から小瓶を出し、中身をカウンターの奥の店員に渡した。

 この店は一見おしゃれなバーだが、実はお父さんの知り合いの店で、働いている人も裏社会の人間なのだ。

 少しして、元両親が戻って来た。

 すかさず、マスターがカクテルを2人の前に出した。

「おいおい、こんなの頼んでないよ」

「私の奢りです」

「そうか? なら、遠慮なく」

 奢りと言われて悪い気がしなかったのか、元父親はカクテルに口をつけた。

 続けて元母親も飲んだ。

 も知らずに。

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異能戦線、異常なし 卯月みお @mio2041

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