Case5:薬学者

「お父さん、どこ行くの?」

ある休日の朝、私はお父さんに尋ねた。

「出かけるよ」と言われて車に乗ったが、どこへ行くのだろう。

「僕の知り合いのところだよ」

「こないだ言ってた薬学者の人?」

「そうだよ」

「どんな人なの?」

「それは会ってみてのお楽しみ。着いたよ」

そこには、一軒家が建っていた。

「インターホンを鳴らして。話は通してあるから」

「うん」

お父さんに言われ、インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。


「吉良! そこのお嬢さんって……」

「久しぶり、やく師寺しじさん。この子は僕の娘だよ。養女なんだけどね」

「ふーん。ま、よろしくね。私は薬師寺真理まり。君は?」

薬師寺さんは興味なさげに呟くと、私の名前を聞いた。

「周幸乃です。今日はよろしくお願いします」

「よろしく、幸乃ちゃん。ここじゃ何だし、部屋に案内するよ。散らかってるけど」

言いつつ、薬師寺さんは部屋へ歩き出した。

私たちも続く。

「ここだよ。さ、入って」

ドアの向こうには、泥棒が入ったのかと思うような光景が広がっていた。

「薬師寺さん、例の物は?」

「ちゃーんと用意してありますよ〜」

薬師寺さんは机の上の小瓶を手に取り、私たちに見せた。

「これ、何ですか?」

「スズメバチの毒〜♪」

恐ろしい事を、笑顔で言われた。

「ありがとうございます、薬師寺さん」

「いーよ、吉良の娘さんだし。復讐、頑張って」

そこまで伝わっているのか。

「……はい!」

私は力強く頷いた。

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