GG11『似た者同士の双子星』

第13話 似た者同士の双子星(前編)

自分は何のために終着駅へ向かっているのだろうか?


これまで、様々な人と出会い、そしていろいろな話を聞いた。


他人に未来を託す者もいれば、前向きに生きる決心する者もいた。


ただ、“自分の記憶を取り戻す為”という理由で向かっていいのか?

サーバルのこともとても気になる。


彼女は正直言って、“過剰”だ。

僕を“守る守る”って...。

確かに、責任はあるのはわかるけれど、

正直言って、怪しい。


いつかに見た夢...。


サーバルの目的はいったい何なんだろう?

考えても、考えても、わからない。


まるで、遠くの星達が無限に輝く宇宙みたいだ。


「次ハ、似た者同士の双子星。停車時間ハ22時間50分...」


そう言いながら、車掌さんが通りすぎた。


「かばんちゃん、大丈夫?最近なんだか、思い詰めてるようだけど...」


トキが心配して話しかけた。


「トキさん...。色々、わからないことが多くて」


「まあ、長い旅をしていれば、悩むことは沢山あるわ。解決出来ない悩みも。

ある程度、かばんちゃんと同じような境遇の人となら、わかりあえるかも」


「僕と同じような境遇の人...?」


「次の似た者同士の双子星は、言葉では言い表しにくいけど、奇遇な星よ。降りてみたらいいんじゃない?」



似た者同士の双子星は、“双子星”の名の通り2つの同じ大きさの星が近い距離にあり、2つで1つの惑星としてカウントされている。薄緑がかった層を抜けると、SSEは双子星に到着する。


サーバルが呼び掛けた。


「かばんちゃん、重力峠でもあったけど、いつテロリストが来るかわからないから、なるべく私と一緒に...」


「あのっ...」


「なに?」


「僕、一人になりたいんです」


そう告げると、サーバルは少し不満そうな顔を浮かべた。


「大丈夫です。すぐに合流しますから。

僕だって、多少は...、自分で自分を守れます」


「そう...?ちょっと心配だけど...、まあ...、そう言うなら...」


「本当に、わがまま言ってすみません...。何か困ったら連絡しますから」


僕はそう言って、サーバルと一度別れる事にした。

この星に僕が求め続ける答えがあるかどうかわからない。けど、悩みを消してくれる何かがあるかもしれない。


一人でそれを、見つけたかった。


この星の街並みは中規模な郊外都市といった感じで、人通りもそこそこ見受けられる。しかし、人々が忙しない様子は全くなく、風の音が鮮明に聞こえる程に静かだった。


何も考えず通りを歩き続けていると、


「...?」


何やら静かな星には似つかわしくない喧騒が裏路地から聞こえた。


胸騒ぎがし、路地へと入った。

建物の影から様子を伺うと、そこには3人に追い詰められている1人の姿があった。


「おい、今日こそは1000万用意したよなぁ?」


一人が彼の胸ぐらを掴み、大きな声で迫る。


「や、やめてください...!

ボ、ボクはそんな大金払えません...!」


「働けって何度も何度も言ってるじゃない。テロ組織の戦闘員だったり、薬運んだりすればいいのに」


「そんなこと出来るわけないじゃないですか...」


「君の親の借金、ずっと返済待ってんの。わかる?返す気がないんだったら、こっちにも考えがある。チーター、ランナー」


そう指示すると、2人が彼の腕を掴んだ。


「なっ!何するんですか!?」


「決まってるじゃない...。アンタにその気がないなら、無理矢理させてやるわ」


「さあ~、何が良いかなぁ?危ない仕事なら大金なんてちょいちょいだよなぁ?」


「や、やめ...っ!」



(大変だ...!)


僕は咄嗟に飛び出した。


「ま、待って!」


「誰だ?」


「嫌がってるじゃないですか!」


「どこの誰だか知らないけど仕事に口出ししないでちょうだい」


「そうだそうだ!」


「とにかく、その人から離れてもらえませんか」


「初対面の癖に随分と高圧的じゃないか。チーター、あいつに君の得意技を見せてあげなよ」


「ふふっ、わかったわ」


連中の一人、金色の長い髪のチーターが右手の拳を左手で抑えながら、こちらへ近付く。


「...っ」


固唾を飲み込んだ。


「アンタねぇ...、私達の邪魔してるんじゃないよっ!!」


右寄りから殴り掛かってくる。

恐怖をうち殺し、それを避ける。

彼女が僕とすれ違いになった次の瞬間、

咄嗟にギャラクシードラグーンを懐から取り出す。


「何よっ...!」


振り向いてきた彼女の横を掠める様に、

撃った。ドカン!という破裂音がすると、左横の建物の外壁に、中の様子がハッキリわかるくらいの直径数十センチの穴が空いた。幸い人はいないみたいだ。


「ひぃっ!?」


強気だった彼女の顔色が一気に青ざめた。

他の2人も口を半開きにして、愕然としている。


「...離れるなら、撃ったりしませんよ」


銃を持ちながらリーダー格であろうオレンジ髪の彼女に言った。


「...わ、わかった!私も無駄な争いはしたくない。2人とも、ここは引き下がろう」


「は、はい!プロング様っ!」

「は...、ははぁ...」


3人は逃げるようにその場から早々と去って行った。


それを見届けてから、彼に話かけた。


「大丈夫ですか?ケガとか...」


「い、いえ、大丈夫です!助けてくれてありがとうございます!」


彼はどこか、目を輝かせているように見えた。


「僕はかばんです」


「ええと、ボ、ボクはキュルル...。

あ、あの、ほ、本当に感謝してもしきれないです...」


「無事ならそれで良かったです。

…ところで、あの3人組はなんなんですか?」


「この辺りじゃ有名なギャングの手下ですよ...。言葉巧みに人の弱みに漬け込んでは、お金を貸してあげて、そのあととても高いお金を返済するようにああやって脅しに掛かるんです...」


「何でそんなのが...」


「ボクのお父さんは絵描きだったんですけど、お母さんが病気がちで、どうしてもお金が必要で...。絵の売上だけじゃ生活が苦しくって、それで...、仕方なく...。

だけど、お父さんも急に死んじゃって...、後の借金がボクに...」


彼の事情を聞いて、いたたまれなくなった。


「僕...、ただの旅人なんだけど、何か力になれないかな?」


「えっ?」



「かばんちゃん...」


私は、どこかで間違えたのだろうか?


「....」


彼女を死なせてはいけない。

彼女を絶対にプリズムまで連れていく義務がある。


けれども、もし私が気づかずに自由を奪い、それで彼女が不審がっているとしたら...。


「そんなはず...」


軽く、息を吐いた。

目を閉じ、過去を振り返ると、少しだけ自覚があった。


「かばんちゃんなら、私がいなくても大丈夫。

今のかばんちゃんなら私がいなくても、プリズムに向かう。

一人で行動させても、問題なし」


彼女は気分を変えようと、シャワーを浴びる為、服に手を掛けた。



僕はキュルルと歩きながら話をした。


「僕はSSEの乗客で、プリズムっていう終点に向かっているんだけど、

本当にそのまま、プリズムまで行っていいのか、悩んでて。

だから、その答えを見つけたくて。協力したいなって...。答えが見つかるかわからないけど」


「そうなんですね。実を言うとボクも、好きで絵を描いてるんですけど、

このままでいいのかなって...」


照れくさそうに彼は言った。

その様子を見て、ふと。


「なんか...、僕達似た者同士だね」



「...かもしれないですね」


互いに、少しだけ笑った。


「で、どうしようか...。あの人達、色々やってるんだよね」


「この辺りじゃ、僕と同じように脅迫されてる人は大勢います。

でも、ここの警察はそんなにアテにならないし...。あっ」


「どうしたの?」


「思い出したんです。あの連中...。確か、カジノを経営してるんだ。

ボク達からお金を貪ってる癖に、またお金を...」


「そうだ!僕達がそこの金庫からお金を取って、困ってる人達に配るっていうのはどうかな?」


「え、ええっ...!盗むっ!?」


キュルルは驚いて声を上げた。


「人に危害を加えるの気が引けるし...。でも、それならいいかなって」


「それでもやっぱ、ボクらだけじゃ不安が...」


「うーん...。何か同じ様に脅迫されてる仲間が3人くらいいればいいんだけど...」


「スラム街に行けばそういう人がいるかもしれない」


「わかった、SSEの停車時間にも限りがあるし、早めにしよう」


かばんはキュルルの提案に乗り、スラム街へ向かう事にした。



彼に案内されてやって来たのは、表通りとは大きく変わり、建物と建物の間に挟まれた

薄暗く人通りの少ない場所だった。石畳の路地、商店らしきものはすべてシャッターが降ろされて、落書きがしてある。


「ここがそうなの?」


「うん。ボクの家もここじゃないけど、近いからよく通るよ。先に良く集まる広場があるんだ」


そう話しながら歩いていると...。

向こう側から誰か歩いて来た。

すると...。


「あっ、わりィ!」


彼女はわざとぶつかって来た。


「あ...」


「すまんすまん!じゃ!」


軽く平謝りしてどっかに行ってしまった。

何なんだあの人は?と困惑しながら眺めていると、


「かばんさん、大丈夫ですか?何か盗まれてたりしません?」


心配した様子で話しかける。


「えっ?」


「ここ、場所が場所ですから、盗みとか多いんですよ。

パスとか大丈夫...」


「ああっ!!」


彼女が突如上げた声でキュルルの表情が曇る。


「ま...、まさか...、盗まれた!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銀河寝台特急SSE みずかん @Yanato383

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ